伊勢調査の最新学術論文集「伊勢遺跡と卑弥呼の共立」/ムー民のためのブック

文=星野太朗

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    伊勢遺跡と卑弥呼の共立

    伴野幸一/森岡秀人/大橋信弥 著

    伊勢遺跡の最先端研究成果を伝える学術論文集

    「伊勢遺跡」とは、あの伊勢神宮とは何の関係もなく、滋賀県守山市にある巨大遺跡である(名称の由来は地名の「伊勢町」)。紀元後80年ごろに近江の中枢に突如出現し、紀元後180年ころに忽然として姿を消す「ほかに例のない特異な祭祀遺跡である」という。大型建物群が計画的に配置されたこの遺跡は、その後の研究で、倭国の形成に関わる重要な遺跡であるらしいことが判明してきた。

     本書は、現在もなお論争の的となっているこの特異な遺跡の全貌を紹介し、現時点での最先端の研究成果を余すところなく伝える学術論文集。
     第1章では、伊勢遺跡の発見から大型建物群発掘の経緯が語られる。第2章は、伊勢遺跡出現の背景となる、近江の弥生社会の特徴を詳述。第3章は、当時の物流や情報の流れから、伊勢遺跡こそが倭国の形成を牽引する主体であったと主張される。そして第4章では、「魏志倭人伝」に基づいて、伊勢遺跡の真相に迫る。

     著者の伴野幸一氏は、滋賀県守山市伊勢遺跡史跡公園所長。森岡秀人氏は、奈良県立橿原考古学研究所共同研究員。大橋信弥氏は、古代史を専門とする日本史学者で、著書・論文多数。現在、渡来人歴史館顧問。
     本書は当然、純然たる学術論文集なので、だれもが気楽に読めるものではないかもしれない。だが読者におかれては、ぜひ本書で、フィールドワークと地道な文献調査に基づく、本物の日本の学問水準の凄味をご堪能いただきたい。

    吉川弘文館2200円(税込)

    (月刊ムー 2025年4月号掲載)

    星野太朗

    書評家、神秘思想研究家。ムーの新刊ガイドを担当する。

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