玄米を食べれば死者に会える!? 食にまつわるオカルト的潮流を科学する
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コロナ禍を経て、世界各地で現金を取り巻く環境は大きく変わった。「お金は汚い」イメージを応用した犯罪まで起きているようだが、実際のところ紙幣はどれくらい汚れているのか?
先日、気になるニュースがあった。
「『身内に病気になる人がいる。お金に悪い菌がたまっていて、俺の力で除菌できる』とウソをついて県内の20代の女性からキャッシュカードをだまし取り、(中略)『お金に不幸を招く菌がついている』とウソをついて同じ女性の口座から現金およそ170万円を引き出した」(引用元:NHK NEWS WEB)
として、群馬県伊勢崎市に住む自称カウンセラーの男(40)が逮捕されたらしい。
財運や金運の向上を願ってお金を清める「銭洗い」の風習はよく知られているが、それにしても、お金に“悪い菌”だって? たしかに人から人へと渡るお金にはばい菌が多そうだが、悪い菌が溜まる?
お金が汚いという考え方は、徳川家康が統治のため、商人や豪農の力を削ぐ目的で広めたと言われている。お金は汚い、だからそのお金をたくさん持っている人も汚い、と考えることでお金を持つほど信用が落ちるという社会常識を根付かせたわけだ。
まさか、その考えが400年も経って、群馬県の若い娘の財産を奪うために応用されるとは、さすがの家康も考えが及ばなかっただろう。
コロナ禍では、お札からコロナに感染するんじゃないかと不安になった人が、金融機関に問い合わせる例が非常に多かったそうだ。では、実際のところお札にはどのくらい菌が付いているのか?
2013年5月に(株)衛生微生物研究センターが東京23区内の飲食店や物販店で採集した紙幣と硬貨について行った調査によると、お札1枚当たりに付着していた細菌数は、最少で62個、最大で440個。硬貨はそれよりも少なく平均13個で、10円玉にはほぼ付着していなかった。おそらく銅の殺菌効果によるものだろう。
紙幣に付着していた菌のうち、食中毒菌のセレウス菌も2枚の紙幣から発見されたそうだ。
この紙幣の細菌数は多いのだろうか? 日本健康住宅協会の調査によれば、一般家庭の便座の菌数は10平方センチメートルあたり3~50個。紙幣の面積は1万円札がおよそ120平方センチなので、同じ面積の便座の菌数は36~600個だ。紙幣の細菌数は便座よりは少しだけ少ない。
紙幣はかなりというか、相当にキレイなのだ。ただし、これは国による差もあるようで、オックスフォード大学の調査では紙幣1枚に平均2万6000個の細菌が付着していることがわかったという。
ただし、イギリスの事務機器メーカーの調査によると、便座はとても清潔で、平均的なデスクには1平方インチあたり20,961個の細菌が生息しており、キーボードには3,295個、マウスには1,676個、そして驚くべきことに携帯電話には25,127個もの細菌がいたそうである。大丈夫か、イギリス? めちゃくちゃ汚いぞ?
細菌の付着が気になるのなら、自称カウンセラーの手を借りるまでもなく、機械的にキレイに除菌してしまえばいい。
2020年に日立オムロンターミナルソリューションズ株式会社が発表した紙幣除菌装置は、波長260nm付近の強力な紫外線で紙幣に付いた細菌を殺菌する。毎分1,000枚の高速除菌処理が可能で、この機械を使っている商業施設なら、紙幣に触っても問題なしだ。
しかし、そもそも紙の上でウイルスは長生きできない。日本リスク学会の研究によると、台所のようなステンレス鋼の上で7日、木材表面で2日、ガラスなら4日、プラスチックなら7日も生きているウイルス(コロナウイルスも含む)が、紙の上ではたった3時間しか生きられないことがわかったという。
だから紙幣に対しては、あまり神経質になる必要もないのだ。むしろ、マスクではウイルスは7日も生きているらしいので、使い捨てマスクの再利用は絶対にやめた方がいい。
コロナ禍ではみなさんが神経質になってしまい、お隣の韓国では紙幣を洗濯機で洗ったり、電子レンジでチンする人が後を絶たず、2020年上半期だけで約60億ウォン(約5億4千万円)分も銀行で交換されたそうである。
紙幣は洗濯機で洗わない方がいい。洗うと縮んでしまうらしい。
ちなみに、ブラウン大学は紙幣を洗って紙幣の寿命を延ばす方法を開発したが、それは「摂氏60度の温度および約352kgf/cm2の圧力環境下で、超臨界二酸化炭素(SCCO2)によって、100枚ごとに帯封された紙幣束を洗浄」するというもので、とても個人でできるものではない。
そういうわけで、細菌数やウイルスの寿命を考えれば洗う必要もないし、それよりも手洗いや事務器具を清潔にする方がよほど重要なのだが、それでも気になる方は銭洗い弁天で洗ってはどうだろう。悪い厄は弁天様がきれいにしてくれるはずだ。
久野友萬(ひさのゆーまん)
サイエンスライター。1966年生まれ。富山大学理学部卒。企業取材からコラム、科学解説まで、科学をテーマに幅広く扱う。
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