史上初のネッシーハンターラッパー誕生! MOROHAのアフロがネス湖で目撃した巨大生物と怪獣カルチャー/mudaネス湖レポート
「ネス湖にネッシーを観に行くんです」ーー澄んだ瞳のラッパーと、「muda」を標榜する一行はそう言ってのけた。行けば見られるほどネッシー調査は甘くないはず……だが、しかしながら、彼らは、やってのけたのだ
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未確認動物UMAの代表ネッシーは、過去にいくつもの映画で主役となってきた。その姿と物語は、ネッシー仮説を追いかける系譜でもある。
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ネス湖に潜む謎の怪物「ネッシー」。その伝説は世界中で語られ、90年以上にわたって人々の想像力をかき立ててきた。写真や映像が発表されるたびに、熱狂と懐疑が交錯し、科学的調査が進められる一方で、新たな仮説やオカルト的な解釈が生まれてきた。
そんなネッシーは、映画の世界でもさまざまな形で描かれている。恐怖の怪物として暴れ回るものもあれば、神秘的な生物として愛されるものもあり、時には陰謀や超常現象と結びつけられることもある。
本稿では、ネッシーを題材にした映画の中から、7作品を厳選し、それぞれの見どころや背景に迫っていく。映画が描くネッシー像を通じて、この伝説の奥深さを改めて感じてもらえれば幸いである。
1933年3月に公開された特撮映画の古典的名作『キングコング(原題:King Kong)』。しかし、この映画にはネッシーは登場しない。実際、ネス湖周辺で怪物の目撃談が盛り上がり始めたのは映画公開後のことであり、それは当然の話だ。
では、なぜ『キングコング』を取り上げるのか。それは、本作に登場する首長竜タイプの怪物が、ネッシーの姿かたちに大きな影響を与えたとされているからである。
実際に映画を観れば、その説に納得する人も多いだろう。劇中に登場する、湖の水面から鎌首をもたげ、背中の丸いコブをのぞかせて泳ぐその怪獣の姿は、まさに我々が長年心に描いてきたネッシーそのものだからだ。
ネッシーの目撃ラッシュは1933年7月頃から始まったとされる。しかし、当初の報告は、水面に浮かぶ大きな瘤や、巨大な動物が移動するかのような水しぶきの目撃にとどまっていた。
では、なぜネス湖の怪物が「プレシオサウルスのような首長竜」と結びつけられるようになったのか。その契機となったのが、イギリス人ジョージ・スパイサー夫妻の目撃談である。彼らは旅行中、湖畔の道路を横切る長い首の巨大生物を目撃したという。そしてその時、イギリスの映画館では『キングコング』が満員の観客を集めて上映されていたのである──。
『キングコング』が公開されてから約1年後、ネス湖では怪物目撃の話題がますます盛り上がっていた。そしてついに、1934年4月21日付の英紙『Daily Mail』に、あの有名な「外科医の写真」が掲載される。これにより、「ネス湖には本当に怪物がいるのではないか」という熱狂が一気に広がっていった。
そんな世間の関心が高まる中、「外科医の写真」発表からわずか1カ月後に公開されたのが、世界初のネッシー映画とされるイギリス映画『The Secret of the Loch』である。
本作の物語は、ネス湖周辺で謎の失踪事件が相次ぐところから始まる。湖に未知の生物が潜んでいると信じる大学教授は、その主張のせいで世間や学会から嘲笑されていた。彼の研究に興味を持った新聞記者が調査を進めるうちに、湖の底に巨大生物が存在するという確信を深めていく。そしてついに、潜水調査の最中、その正体を目撃する──。
実際のネス湖には「湖で溺れた人の遺体は浮かび上がらない」という古くからの噂があり、こうした伝承がネッシーを「凶暴な怪物」とするイメージを作り上げていったのだろう。
世界初のネッシー映画という意味での歴史的価値はある。また、ネス湖伝説のルーツを知る一作としても、一見の価値はあるだろう。
とはいえ、本作に登場する「湖の怪物」が姿を見せるのは物語の最後の最後で、その姿はなんと“イグアナ”そのものだった。というのも、実際に本物のイグアナを使って撮影されたらしい。これはこれで歴史だな、と思うと同時に、逆説的に『キングコング』や「外科医の写真」のネッシーの造形の素晴らしさと、影響力に思いを馳せた。
1970年公開のビリー・ワイルダー監督作『シャーロック・ホームズの冒険(原題:The Private Life of Sherlock Holmes)』。一見するとネッシーとは無関係に思えるが、実はこの映画の舞台はネス湖であり、物語にもネッシーが深く関わる、まぎれもない“ネッシー映画”の一本なのだ。
物語は、ホームズとワトソンのもとに記憶を失った謎の女性・ガブリエルが現れるところから始まる。彼女の依頼を受けたホームズが調査を進めるうちに、事件の背後にイギリス政府の極秘計画が絡んでいることが明らかになっていく。そして、ネス湖で目撃された「怪物」の正体は、実は軍が開発した──というスリリングな展開だ。
本作はネッシー映画としても十分に楽しめるが、さらに興味深いのはその“後日談”である。
1970年代中頃、ネス湖を調査していた研究チームのソナーに、巨大な生物らしき影が映し出され、「本物のネッシーでは?」と話題になった。しかし、後にこの影は映画撮影中に湖に沈んだ“ネッシーのハリボテ”ではないかという説が浮上する。
この撮影用ハリボテは全長30フィートで、長い首と背中に2つのコブがついていた。しかし、監督は背中のコブが気に入らず、制作スタッフから「浮力に影響が出る」と警告されていたにもかかわらず取り除いてしまった。その結果、ハリボテは湖に沈んでしまったという。
そして2016年、ネス湖を調査していた海洋探査ロボットが、湖底に沈むその姿をソナーで捉え、この噂が事実であったことが確認された。
最後に、映画の中でホームズが放つ印象的なセリフを紹介しておこう。
「19世紀の末に、怪物か…」
──ホームズさん、21世紀になり、AIの時代が到来した今でも、ネス湖の怪物は変わらず話題になり続けていますよ。
1981年に公開された『怒りの湖底怪獣ネッシーの大逆襲(原題:The Loch Ness Horror)』は、B級映画界の名士ラリー・ブキャナン監督が手がけた作品だ。本作の物語は、アメリカの科学者チームがネス湖を訪れ、湖底に沈むナチスの輸送機を発見するところから始まる。機体には第二次世界大戦中の極秘資料が眠っており、科学者たちはその回収を試みるが、同じく財宝を狙うトレジャーハンターや地元の軍関係者が絡み、探索は混乱を極めていく。そんな中、突如として巨大な怪獣ネッシーが姿を現し、湖に集まった人々を次々と襲い始める──という展開だ。
登場するネッシーは、ゴム製にしか見えないチープな造形。しかし、ブキャナン監督といえば、低予算映画ならではのチープさと独特な雰囲気で知られ、今なお根強い人気を誇る映画監督である。この“味わい深いチープさ”こそが本作の魅力であり、現在でもB級映画ファンに愛され続けている。
2007年公開の『ウォーター・ホース』は、ネッシーを題材にしたファンタジー映画の傑作だ。しかし、本作は単なる怪獣映画ではなく、ネス湖に古くから伝わる神秘や伝説を巧みに織り交ぜた感動作となっている。
第二次世界大戦中のスコットランド。湖畔に住む少年アンガスは、ある日ネス湖で不思議な卵を見つける。やがて孵化した生き物は、ケルト神話に伝わる「ウォーター・ホース(水馬)」のような姿をしていた。アンガスはこの未知の生物を「クルーソー」と名付け、秘密裏に育てるが、クルーソーは急成長し、やがてネス湖へと導かれる。しかし、戦時下の混乱の中、軍隊や大人たちの思惑が絡み、物語は予想もしない展開を迎える──。
本作の舞台となる1940年代のネス湖では、1933年に周辺道路が整備されたことをきっかけに怪物の目撃例が急増していた。有名な「外科医の写真」が撮影されたのも1934年である。そのため、タイトルに「ネッシー」という名称を使用せず、まだ愛称が定着していなかった時代背景を尊重している点にも好感が持てる。
さらに、映画の中でウォーター・ホースは「1匹が成長すると、その生命が尽きる頃に新たな卵を残す」という設定があり、常に“1匹だけ”が存在し続けるという孤独な生態を持つ。これにより、ネッシーの目撃例が散発的でありながらも、その姿がほとんど記録に残らないという謎に説得力を持たせている。
ドラマとしても素晴らしいファンタジーでありながら、ネッシー伝説のリアリティを巧みに補完する本作は、まさに“ネッシー映画の最高峰”といえるだろう。
スコットランドの神秘「ネッシー」が、はるか北米のスペリオル湖で再び姿を現す――。
一見、パッケージだけを見るとネッシー映画には見えない。しかし、獰猛な肉食恐竜や、それを攻撃する戦闘ヘリが描かれているが、実際の映画にはそんなシーンは一切登場しない。つまり、邦題『ジュラシック・レイク』は完全なハッタリであり、当然ながらあの有名シリーズとは無関係である。原題は『BEYOND LOCH NESS』または『Loch Ness Terror』。そう、この映画は2008年公開の純然たるネッシー映画なのだ。
少年時代にネス湖で怪物による惨劇を生き延びた主人公が、数十年後、未知動物学者となりネッシー討伐に執念を燃やす。彼はネッシーが北米に移動したと確信し、その手がかりを追ってカナダのスペリオル湖へと向かう。一方、スペリオル湖周辺では、地元の人々が湖での謎の失踪や襲撃事件に悩まされていた。やがて、湖にはネッシーだけでなく、その子供たちまでもが潜んでいることが判明し、血みどろの惨劇が繰り広げられる――。
ジュラシック・シリーズと勘違いして観ると拍子抜けするかもしれないが、ネッシー映画として観れば、それなりの満足感は得られる。特に、長年湖の怪物の存在を信じ、調査を続ける陰謀論にハマった老人や、堂々と「未知動物学者」を名乗るインディ・ジョーンズ風の主人公など、オカルト好きにはたまらないムー的キャラクターが揃っている。なぜ映画に登場する陰謀論者やマッドサイエンティストたちは、こうも魅力的に映るのだろうか。
さらに本作では、「ネス湖は海と地下トンネルで繋がっている」という仮説を採用し、ネッシーがそこを通って北米へ移動したという壮大な設定が描かれる。この仮説がもし本当なら、ネッシーは海を渡り、世界中の湖を自由に行き来している可能性が浮上する。つまり、カナダ・オカナガン湖の「オゴポゴ」、日本・屈斜路湖の「クッシー」、トルコ・ヴァン湖の「ジャノ」……これらの湖の怪物も、すべてネッシーなのかもしれないのだ。
そう考えると、この映画は単なるB級モンスターパニックではなく、「ネッシー統一理論」を提唱する野心的な作品ともいえるのだ。
ネス湖の謎を解明すべく、科学者たちは最新鋭の潜水艇を駆使して湖底を探索する。そしてついに、伝説の怪物ネッシーが姿を現す。しかし、その実態は想像を超えた凶暴な怪獣だった!
2023年公開の『ネス湖の巨大生物 ネッシーを捕獲せよ!!(原題:THE LOCH NESS HORROR)』は、科学者たちがネス湖の秘密を解き明かそうとするところから始まる。彼らは湖の奥深くで巨大な影を発見し、それがネッシーであることを確信。しかし、ネッシーはただの巨大生物ではなく、次々と人間を襲い始める――。
と、一見、ありがちなB級モンスターパニックかと思いきや、物語は意外な方向へと展開していく。なんと、ネッシーは正体不明の寄生生物に取り憑かれ、それによって凶暴化していたのだ!
取ってつけたような設定に驚かされたが、よく考えれば、ネッシーが単に首を伸ばして人を食ったり船をひっくり返したりするだけでは、ホラーとしては物足りない。そこで本作は、ネッシーから飛び出した寄生生物が船という閉鎖空間の中で人々を襲うというサスペンス要素を加え、物語に緊張感を持たせようとしたのだろう。科学者たちは船内で必死に寄生生物と戦うが、ネッシーが「宿主」にすぎない以上、怪物を倒しただけでは問題は解決しない――。
この映画の最大の特徴は、ネッシーを単なる巨大生物ではなく、「何かに操られている存在」として描いている点にある。そして、この発想は、ネッシーの長い歴史の中でも、以下のある出来事を想起させる。
1971年8月16日、スウェーデンのUFO研究者ヤン・オーヴェ・スンドバーグは、ネス湖南岸近くの森で奇妙な機械の着陸と、その搭乗員を目撃した。
スンドバーグによると、そこには、巨大なアイロンのような形をしたUFOが静かに着陸していたという。機体は灰黒色で、長さ約10メートル、高さ約4メートル。上部には開閉式のドアがあり、そこから3体のヒューマノイドが降り立った。彼らはしばらくその場に佇み、まるで会話をしているかのように動いていたが、やがてUFOに戻ると、機体は静かに垂直上昇し、丘の向こうへと飛び去ったという。
……この目撃談の信憑性には疑問が残るものの、このアイロン型のUFOが湖に浮かんでいたら、まさしくネッシーそのものである。もし事実だとすれば、ネッシーが単なる未確認生物ではなく、何らかの超常的な存在が関与している可能性が浮かび上がる。
もし、ネッシーが異星の技術によって操られているのだとしたら、彼が「湖の怪物」として人々の前に現れる理由や、目撃情報が常に曖昧なのも説明がつくのではないか。
ネス湖に潜むのは、本当に単なる未確認生物なのだろうか――?
冒頭でも触れたが、1933年に始まった現代のネッシー伝説は、すでに90年以上の時を経ている。しかし、その謎はいまだ解明されていない。近年の大規模なネス湖調査では、ネッシーの正体が巨大なウナギである可能性が指摘され、一定の説得力を持ち始めているが、それだけでこの神秘的な存在のベールを完全に剥がすことはできないだろう。
ネッシーの謎は、単なる未確認生物の枠を超え、時にオカルトやSF的な発想をも刺激してきた。だからこそ、今後も新たなネッシー映画が生まれ、新たな仮説が提示されることを期待したい。ネッシーの伝説は、まだまだ終わりそうにないのだから。
【参考】
『古代竜と円盤人』(F.W.ホリディ著/大陸書房)、『ネス湖の怪獣』(ティム・ディンスデール著/大陸書房)
https://www.stanwinstonschool.com/blog/movie-representations-of-the-loch-ness-monster
https://reactormag.com/sonar-project-finds-lost-loch-ness-monster-prop-from-private-life-of-sherlock-holmes
https://www.moriareviews.com/sciencefiction/secret-of-the-loch-1934.htm
https://lochnessmystery.blogspot.com/2017/08/nessie-on-land-spicers-story.html
秋月朗芳
2005年に発足したUFOサークル「Spファイル友の会」(「Sp」はJ.アレン・ハイネックの「S-Pチャート」から)代表。同会で年一回発行している同人誌『UFO手帖』の編集長を務める。
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