シャーマン師弟と風水師、葬儀師の4人が奇妙な墓に隠された秘密を掘り返す韓国映画『破墓/パミョ』監督インタビュー
話題のホラー映画「破墓/パミョ」のチャン・ジェヒョン監督にインタビュー!
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古代の地球を支配していたのは、よその惑星から来た半神の巨人・ハイパーボリア人だった? 実写、陰絵、アニメ、人形劇……何が飛び出すかわからない“闇鍋”のようなチリの怪奇映画をご紹介!
古代宇宙飛行士説、地球空洞説、ヒトラー生存説……ムー民の皆さんにはお馴染みであろうこれらの概念を、良い具合に足しっぱなしにした怪奇映画が誕生した。南米チリのビジュアルアーティスト・デュオ、レオン&コシーニャによる長編映画「ハイパーボリア人」だ。
2024年のカンヌ国際映画祭の監督週間で披露され、その後、各地の映画祭で話題をさらってきた注目作。2025年2月8日(土)より渋谷のシアター・イメージフォーラムで公開されるほか、全国で順次公開予定となっている。
まずは作品公式のあらすじをご覧いただこう。
<あらすじ>
女優で臨床心理学者でもあるアントーニア(アント)・ギーセンは、謎の幻聴に悩まされる患者の訪問を受ける。
彼の話を友人の映画監督レオン&コシーニャにすると、2人はその幻聴は実在したチリの外交官にして詩人、そしてヒトラーの信奉者でもあったミゲル・セラーノの言葉であることに気づき、これを元にアントの主演映画を撮ろうと提案する。
2人とセラーノの人生を振り返る映画の撮影を始めるアントだったが、いつしか謎の階層に迷い込み、チリの政治家ハイメ・グスマンから、国を揺るがすほどの脅威が記録された映画フィルムを探す指令を受けとる。カギとなる名前は”メタルヘッド”。探索を始めるアントだったが、やがて絶対の危機が彼女を待ち受ける……
つまり、どういう……? という感じだが、実際に本編を視聴すると、なるほど本作の紹介文として「この説明が最良だな」と思う。本当にこの通りの映画なのだ。サラッと書かれた“いつしか謎の階層に迷い込み”という一文が示す通り、次元的なものは普通に超える。そういう映画だ。
最もインパクトがあるのはやはり映像で、実写、陰絵、アニメ、人形劇など、一作の中に複数のビジュアル的な表現要素を入れ込んだ、ある種アートで実験的・メタ的な演出を行なっているのが特徴。
そしてジョルジュ・メリエスのトリック映画を彷彿とさせるような、20世紀初頭の“創成期の映画”に寄せたノスタルジックな舞台装置をあえて使い、これらのバラバラな表現要素を1本の映画に落とし込んでいる感じだ。
また、そこはかとなく漂う“B級怪奇映画感”や、臨床心理学者と精神病患者が織りなす悪夢めいたストーリーという設定には、1920年ドイツの歴史的映画「カリガリ博士」を思い出させる趣もあり、大変見応えがある。
まあもちろん、webムーで紹介する以上、それだけでは終わっていない。冒頭でお伝えした通り、我々にも馴染みのあるオカルティズムが絡むストーリーに注目していただきたい。以下より、その一部をご紹介しよう。
本作の大きなポイントは、ただアーティスティックな表現をしているだけでなく、「チリという国が歩んできた歴史に対峙する」という硬派なテーマを掲げていることだ。
そのキーパーソンとして、チリの作家であり外交官であった実在の人物、ミゲル・セラーノを登場させている。ヘルマン・ヘッセやカール・ユングとも親交があり、政治的にも大きな力を持っていたセラーノは、ヒトラーを崇拝するナチスシンパでもあった。
これについて監督のホアキン・コシーニャは、「ミゲル・セラーノに関しては、特にチリの文学の世界では比較的よく知られた人物で、ナチシンパの極右の外交官がいたという事実は、わりと大ごとだという風に捉えられています。とはいえ、こういう人物が存在したこと自体、非常に奇妙なことではあるので、そのチリの政治史や歴史に向き合う時には、何かそれに匹敵する奇妙さを持って挑まなければいけないのかなと思い、本作を作りました」とコメントしている。
ナチスとオカルティズムの関係はよく話題になるが、セラーノはヒトラーのことを、北欧の軍神ヴォータン(オーディン)とヒンドゥーのヴィシュヌの化身であると主張していたそうだ。また、ヒトラーは自害したのではなく、南極の氷の下にある楽園に避難したのだと信じた。アーリア人の神話で、「地球に氷河期が訪れる前は、南極に楽園があった」とされていることに基づくという。
そして元々、その南極の氷の下にある楽園に住んでいたのが、映画のタイトルにもなっている古代人・ハイパーボリア人なのだ……と、本作では説明している。彼らはよその惑星からやってきて、古代地球を支配していた巨人で、「金色の髪とバラ色の肌を持つ正真正銘の白人」であり、今も地球の内側にある空洞で眠っているのだとか。 そう、一気に我々(ムー民)にとって身近な概念が出てきた。
古代の地球を支配していた異星人・ハイパーボリア人の存在は、古代宇宙飛行士説に繋がるものであるし、彼らが地球内部の空洞で眠るという設定には地球空洞説が採用されている。また、ハイパーボリア人が巨人であったという点には巨人伝説も入ってくる。
これに加えて、上述のミゲル・セラーノをキーパーソンとして取り上げることで、最終的にヒトラー生存説まで繋げつつ、「ナチシンパの極右の外交官がいたというチリの歴史の一側面」と向き合う構成になっているのが、本作の面白いところだ。
作品のキャッチコピーには、主人公・アントーニア・ギーセンが発する「この人たち どうかしてる」という台詞が採用されている。実験的な映像表現も相まって、確かに本作はパッと見の“どうかしてる感”は高いのだが、上述の通り意外とストーリーやテーマは骨太。
オカルト要素を色々取り込みつつ、チリという国の立ち位置からナチズムを描いた作品として見ると、日本人としては新たに認識が深まるポイントが多々ある。ぜひ多くの方にチェックしていただきたい。
■『ハイパーボリア人』
監督:クリストバル・レオン、ホアキン・コシーニャ
脚本:クリストバル・レオン、ホアキン・コシーニャ、アレハンドラ・モファット
出演:アントーニア・ギーセン
2024年 / チリ / スペイン語・ドイツ語 / 71分 / カラー / 1.85:1 / 5.1ch
原題:Los Hiperbóreos 字幕翻訳:草刈かおり
提供:ザジフィルムズ、WOWOWプラス
配給:ザジフィルムズ
字幕協力:ひろしまアニメーションシーズン
※2月8日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー
●公式サイト:https://www.zaziefilms.com/loshiperboreos/
●公式X:https://x.com/leonandcocinaJP
杉浦みな子
オーディオビジュアルや家電にまつわる情報サイトの編集・記者・ライター職を経て、現在はフリーランスで活動中。
音楽&映画鑑賞と読書が好きで、自称:事件ルポ評論家、日課は麻雀…と、なかなか趣味が定まらないオタク系ミーハー。
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