物体は6次元の世界に存在し、私たちの世界は3次元に投影された影にすぎない!? 「準結晶」が説明する異次元のリアル

文=久野友萬

    異次元や高次元という言葉はSFやオカルトではよく出てくる。ほとんどの場合、異世界という意味合いだ。一方、数学で使う高次元とは本当の高次元で、この世界とは関係のない、観念的なものだ。 では、高次元は現実に存在しないのか? どうもあるらしいのだ。準結晶という奇妙な物質の結晶構造を数学的に説明しようとすると、6次元の断面として考えると説明がつくのだという。

    準結晶は6次元の影

    「超弦理論」という量子力学の説がある。量子よりもさらに小さい、理論上ここから先は無というサイズを「プランク長」という。10の−33乗メートルが物理の限界。そこに、輪っかになった高次元があり、この宇宙を作っているという。

     超弦理論の高次元は、絶対的に小さいので異次元生物も異次元へのアセンションも問題外である。プランク長と人間は、人間と宇宙ぐらいサイズが違うのだ。

    私たちの世界は6次元と接している? 東京大学がリリースした6次元と準結晶の概念図 画像は「UTokyo ITC / Shinichiro Kinoshita」より引用

     ところが準結晶は、理論物理が整合性のために高次元を持ってくるのとはひと味違う。それは現実に存在し、実験可能な物体だからだ。

     準結晶は五角形が組み合わさった形の結晶で、正二十面体だ。準結晶の原子は特殊な構造をもっていて、結晶の定義である「特定の原子集団が周期的に配列した固体」に反し、「本質的に不連続な回折図形を示す固体」なのだ。準結晶の原子配列にはパターンはあるが周期性はないので、結晶ではなく準結晶と名付けられた。

    準結晶は五角形の正20面体。美しくも奇妙な結晶だ。 画像は「Wikipedia」より引用

     この準結晶の原子配列をモデル化すると、とんでもないことがわかった。6次元にある立方体の3次元の断面が、準結晶の結晶構造と一致したのだ。つまり、準結晶は3次元にある金属結晶だが、その本体は6次元にある。そして3次元の物体が平面の影、2次元に投影されるように、6次元の物体が3次元に投影されたものが準結晶なのだ。

    アルミニウム・パラジウム・マンガン(Al-Pd-Mn)合金の準結晶の原子配列。パターンはあるが周期性はないという意味が、この図を見るとなんとなくわかる。繰り返しがあるようでないのだ。 画像は「Wikipedia」より引用

     6次元の立方体の影が3次元では準結晶という正20面体になる? 数学か物理の物性科学をやっている人しかわからない謎な話だが、数学上はそうなるのだそうだ。

     準結晶の原子配列のように、周期性はないがパターンのある2次元図形を発見者の名前をとってペンローズタイルという。ペンローズ博士はノーベル物理学賞を受賞した物理学者であり、数学者でもある。

    ペンローズタイル。周期性はないがパターンはある図形は、準結晶の原子構造を2次元展開した図とそっくりだ。 画像は「Wikipedia」より引用

     6次元にある立方体を2次元に展開すると、ペンローズタイルとそっくりな平面図形が現れる。それは同時に準結晶の原子配列とそっくりということだ。6次元にある立方体の2次元展開図も準結晶の原子配列も、どちらもペンローズタイルを描画する数式で表現できる。

     準結晶の原子配列の平面図を立体に戻すと正二十面体になる。6次元の立方体を2次元に展開したらペンローズタイルになり、ペンローズタイルを3次元に戻したら準結晶になるのだから……6次元が3次元に顔を出したものが準結晶ということになる。

    数学上の6次元にある立方体。この立方体を2次元に展開すると準結晶の原子配列と同じ図形が現れる。それを3次元で構成すると、準結晶になる。つまり準結晶は6次元に本体があるのだ。 画像は「Wikipedia」より引用

    五芒星の不可思議

     そうはいっても、数学上の話だろうと思うかもしれない。ところがだ。2024年5月14日、東京大学が「6次元の揺らぎがもたらす準結晶の奇妙な物性 機械学習分子運動力学シミュレーションで解明」というリリースを発表した。

     準結晶は異常に比熱(熱を加えた時の温度変化を表す尺度)が高く、たとえば準結晶でコーティングしたフライパンは、普通のフライパンよりも極端に温まりにくい。同じアルミフライパンでも、準結晶でコーティングするとゆっくりとしか温まらなくなるのだ。

     その理由がわからなかったのだが、東京大学情報基盤センターの永井佑紀准教授らはAIを使ったシミュレーションで、6次元にある物体がゆらぐと3次元の準結晶の比熱が上がることを見つけ出した。

     つまり、準結晶の向こう側には、数学上の話ではなく、実際に6次元があるのだ!

    「3次元の物体に光を当てて壁に映る影が2次元になるように、物体が6次元の世界に存在し、私たちの世界では3次元に投影された影を見ている」と同リリース。

     準結晶の面を作っている5角形は、陰陽道や魔術では五芒星として知られ、聖なる形とされている。国旗に使う国も多い。

    画像は「Wikipedia」より引用

     五芒星がなぜ聖なる形なのか、その理由の一つは美の比率と言われる黄金比1:約1.618が対角線の交点の線分と対角線の比で現れることだろう。あの星形は美的に美しいのだ。

     どんな結晶の3次元モデルも、6次元の図形の射影(3次元に現れる影)として計算できるのだそうだ。あらゆる結晶は6次元とつながっている? のかもしれない。

     ちなみに、準結晶でコーティングしたフライパンは、温まりにくい以外にも絶対に焦げ付かないという性質がある。3次元の物質とは原子配列がまったく違うため、原子間の干渉が起こらず、焦げ付きようがないらしい。フライパンの向こうに6次元があるわけだ。

     次元上昇や異次元の怪物はともかく、私たちの宇宙と高次元の世界が物理的につながっているというのは面白い。準結晶の研究が進めば、6次元の全貌もあきらかになり、実は私たちの世界は6次元の巨大な宇宙の射影に過ぎない、なんてことになるかもしれない。

     幽霊も宇宙人も6次元の存在が3次元に現れたものかもしれず、だったら私たちが彼らのことを何一つわからないのも当然と言えば当然。原子レベルでお互いに干渉できないのだから。私たちは6次元から見れば、焦げ付くフライパンでしかないのだ。

    久野友萬(ひさのゆーまん)

    サイエンスライター。1966年生まれ。富山大学理学部卒。企業取材からコラム、科学解説まで、科学をテーマに幅広く扱う。

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