奈良県下北山「ツチノコ共和国」の国王が語ったツチノコ土産クオリティの謎/山下メロ・平成UMAみやげ

文・写真=山下メロ

    和歌山県にある「ツチノコ共和国」へ潜入! そこで見た平成レトロ的な光景と洗練されたグッズの謎を追う。

    前回はこちら https://web-mu.jp/column/16709/

    いざ王宮へ……

     前回、ひょんなきっかけで「ツチノコ共和国のステッカー」を発見し、「王宮」への案内を得たものの。あたりは真っ暗。無事王宮へたどり着けるのか……。土地勘のない村の真っ暗な道を移動して、約束していた場所でたどり着くと、なおも真っ暗。確かに建物という目印はあるのですが、真っ暗で不安になります。

    「山下さんですか?」
     暗闇から“国王”である野崎さんが現れました。
    「はい。突然ご連絡して、夜分にすみません」
    「この近くだからついてきて」

     そういって車に乗り込むと、あっという間に消えていきました。暗くて曲がりくねった道を、こちらも必死について行くと、そこに王宮が鎮座していました。暗すぎて写真はありませんが、是非その目で確かめてください。

     さっそく中へ入ると、ツチノコグッズがお出迎えです。

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     まさにあのツチノコの置き物に貼られていたシールと同じイラストです。1989年から色々と商品を作られたそうで、すでに廃盤になっているものも多数ありました。しかし、訪問した時点でシールやぬいぐるみなど今も在庫が残っているものがあり、それらを買わせていただきました。

     さらに奥へ進むと……

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     すでに展示品のみでしたが、Tシャツやトレーナーが飾られていました。
     やはりこのイラスト、不思議と非常に洗練されています。

     そして、とっておきの逸品として手渡されたのがこちら。

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     これは共和国の国民向けのパスポート。さすが国家を名乗っているだけありますね。
     しかもまるで本物と見紛うような表紙の素材。そして中にも色々な情報が記載されており、仕上がりがプロフェッショナルの領域すぎます。
     さらに、このイラストにも、違うパターンの存在があることを教えていただけました。

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     それがこの……指名手配された渡世人……木枯し紋次郎のような旅がらすスタイル。
     アイディアが秀逸すぎます。しかもそれがNTTロゴ入りのテレホンカードになっているという……。

     ツチノコ共和国設立の話なども色々うかがいましたが、私のメインの研究が観光地のイラスト商品ですので、そのクオリティの高さばかりが気になっていました。土着的とさえ思える漫画風のファンシー絵みやげとは明らかにタッチが違うのです。
     なんというか、都会的なタッチ。一見ヘタなように見えて、計算されている……いわゆるヘタウマ路線。

     そこがどうしても気になって、このイラストや商品について色々と質問してみたところ、意外な答えが返ってきました。
    「これを描いたのは大手広告代理店Dの人だったのです」
    「大手広告代理店Dの人……」

    ツチノコ共和国のイラストの特異性

     私は研究家として、1980年代から1990年代に日本全国で作られた子ども向けの観光地みやげ「ファンシー絵みやげ」を何万種類も見てきました。そして、そのイラストに影響を与えたトレンドを探るべく、過去の少年漫画や少女漫画、児童漫画のイラストなどを見ています。そしてサンリオなどファンシー文具のキャラクターイラスト、そして職業イラストレーターたちの作品。

    富士五湖キーホルダー1

     そんな風に色々なイラストの技法やテイストに触れてきた私としては、一目見ただけで、ツチノコ共和国のアイテムは特殊なイラストだと感じました。
     まず、他の記事でも描いていますが、さまざまなUMAの「ファンシー絵みやげ」では、太い線にパキッとした色が塗られたイラストがほとんどです。それに対してツチノコ共和国のイラストはかなり細い線。しかも緑色の塗り方も「いい意味で」雑です。右側に塗り残しの余白があるのも、おそらく印刷の版ズレや、手塗り感を意識した意図的なものでしょう。

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     さらに緑色の塗りの部分を斜めに細いペンでギザギザと埋めています。これも下書きの時にイメージのためにペンで塗ることはあるでしょうが、普通は緑で塗ったら消します。緑で塗ったのにこれを残すのは、本当に珍しいです。当時のキャラクターイラストではまず考えられません。しかも、はみだしている。
     そして左右の目の大きさが違う、お腹の横線が平行でない、頭の形が単純な丸ではないなど、あえてフリーハンドっぽくしています。意図的なものでしょう。一本線で表現された口から伸びた舌が線だけというのも、なかなか勇気がいる表現です。舌といえば太くして赤く塗りたくなるものですので。

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     さらに、「ファンシー絵みやげ」やサンリオ、ビックリマン、SDガンダムなど当時人気だった二頭身デフォルメ化も成し遂げています。しかも、二頭身になってなおツチノコらしさを保っています。

     とにかく私は最初から不思議でした。これまで見てきた数々のイラストとの相違点がありすぎるのです。

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     ツチノコ共和国の野崎議長から、1989年設立当時のことなど興味深い話がたくさん聞けたのですが、膨大すぎるので今回は割愛します。
     私は「なぜ、こんなに洗練されているのか」の謎を解きたくて、色々と質問しました。その中で、思いがけない一言がありました。

    「創立メンバーに大手広告代理店で勤務する人がいて、その人が色々とグッズを作ってくれた」

     なんと……大手広告代理店……。大手広告代理店そのものが関わっているわけではありませんが、広告マンが手がけていたという……。

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     これには非常に納得いたしました。なぜなら、このイラストはパキッとした太い線と塗りで表現して、色んなアイテムに印刷しようという従来の商品戦略とはズレています。キャラクターを目立たせようというイラストではないのです。
     この均一で細い線。
     これはまさに1980年代の職業イラストレーターに近いものを感じるのです。広告などに使われるイメージイラストに近い。しかもヘタウマブームというのもありました。ヘタウマも、単にヘタなものもあったでしょうが、多くは計算された「ヘタさ」で人気を得ていました。まさにこのイラストの「一見雑に見えるが実は整然とバランスが考えられているフリーハンド感」は、そのヘタウマに通じるものがあるのです。

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     そして、ツチノコ共和国=国家を名乗っているのでパスポートを作って、中のページもしっかり作り込むなど、商品づくりにも特異な点が見受けられます。

     特に私が印象的に感じたのはぬいぐるみです。実際のツチノコのカラーリングと言われる緑や茶色以外にピンクをラインナップしているのはファンシーグッズの常套手段です。そこではありません。

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     ぬいぐるみでも、目のサイズの違いや胸の線が平行でないことなどをしっかり再現しているのですが、あの「線でギザギザと塗ってる感」は再現できません。普通は「まあしょうがないね」で終わりなのですが、こちらは商品としてのバランスを考えた工夫が凝らされているのです。
     それが元のイラストになかったリボン、そして「〇年〇組 ツチノコ」という名札の追加。これによって立体キャラクター商品らしさを獲得できているのです。元のイラストの再現にとどまらない商品づくり。これはまさに大手広告代理店の精神やノウハウが生きているのかもしれません。

     そんなわけで、研究家としてはとてつもなく大きな「おみやげ」を持ってツチノコ共和国を後にしました。
     今回は急な訪問でしたが、次はゆっくり共和国で過ごしてみたいと思います。

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    山下メロ

    平成レトロの提唱者。ファンシー絵みやげなどバブル時代周辺の懐かし文化を紹介する。著書に「平成レトロの世界 山下メロ・コレクション」(東京キララ社)など。

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