シベリア米が世界を救う! 世界の食糧危機を「日本の稲作」で対策しよう/食糧危機(1)・久野友萬

文=久野友萬

関連キーワード:

    人口爆発、戦争、気候変動など悪条件の重なりから世界的な食糧危機が迫る。食料自給率の低い日本にとっても切実だが、意外にも日本には有利な面もある? サイエンスライターが解説!

    日本を襲う食糧危機

     ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに食糧危機が取り沙汰されるようになってきた。ウクライナは世界5位の小麦輸出国であり、国連によれば、もしウクライナからの輸出が完全にストップするとアフリカや中近東を中心に5000万人が飢餓状態に置かれるという。

     私たちの食は、実に危ういバランスの上に成り立っており、ほとんど余力はないのだ。農林水産省によると日本の食糧自給率はカロリーベースで38%。先進国ではダントツの最下位で、農作物輸出国のアメリカ(131%)やフランス(130%)はともかく、地政学的に日本と似ているイギリス(68%)やイタリア(59%)、山岳国家のスイス(52%)以下とはどういうことなのか。中国の台湾侵攻や朝鮮半島で動乱が起き、輸入がストップすると日本は間違いなく深刻な食糧難に見舞われるだろう。日本が食糧危機に巻き込まれずに済む方法はあるのだろうか?

    https://www.jiji.com/jc/article?k=2022051300575

    日本の農業技術で「シベリア米」を作る

     日本の食糧自給率が低いのは農業技術が他国に劣るから? アメリカの巨大コンバインでの収穫風景を見るとそういうイメージを抱いてしまうが、そうではない。零細農家が多い、米作農家が補助金漬け、企業の参入ができないなど政治的な理由がほとんどで、農業生産技術が他国に劣っているわけではない。
     農林水産省の『農地1a当たり国産供給熱量等の国際比較(2003年度試算)』は1アールの農地で採れる作物のカロリーを比較したものだ。
     日本が100.4なのに対してアメリカ28.4、フランス49.7、オーストラリアは1.3しかない。同じ面積なら日本はアメリカの3倍、フランスの2倍、オーストラリアの9倍の穀物が収穫できるのだ。
     農民運動全国連合会の試算では、日本の場合、1ヘクタールあたり9.33人を養うことができる。一方、海外はといえば、アメリカは0.88人、オーストラリアは0.11人、比較的高いドイツでも4.1人で日本の半分以下だ。
     なお日本の自給率が低いのは技術の問題ではなく、国土の農地面積が非常に少ないためだ。国土交通省の『平成25年度 土地白書』によれば、日本の1人あたり農用地面積は3.6アール。フランスは13倍の46アール、アメリカは36倍の131アール、これでは勝負にならない。

     ということはだ。世界に日本の農業技術を移転し、圧倒的な生産性の高さで世界の農業を変えてしまえばいいのではないか? 食料が豊富にあれば、食料は武器にならない。中国により南洋の輸入経路が切断されても、シベリアに巨大な農地があれば、輸入は途絶えない。
     シベリアを農地に変えることは不可能ではない。日本の米は、北海道でも栽培できる。そのうえ地球温暖化によりシベリアの永久凍土が猛烈な勢いで溶け始めている。あの巨大な土地を農地に変えればいい。そして米を作るのだ。

    稲作農業を世界に広めよう

     世界の食糧危機の根本は、小麦にある。中国、インドを筆頭にアジアは他の地域に比べて異常なほど人口が多い。それだけ食料が豊富ということだ。
     なぜ豊富かと言えば、いくつもある理由のうち、一番は稲作に適した土地だったことだろう。
     米は優れた穀物で、2003年度の米の世界平均単収(3.84トン/ha)は小麦(2.67トン/ha)の1.44倍もある(『世界の米需給構造とその変化』農林中金総合研究所)。トウモロコシや小麦と違い、米は飼料として使われず、全量がほぼ食用になる。これは米が粒食であり、小麦のように粉にする必要がなく、食べやすいことが大きい。

     米は水田、小麦は畑で育てるが、畑は輪作すると土地がやせる=窒素が不足する。ところが水田は窒素不足が起こりにくく、輪作が容易だ。これも米の収穫量が増える理由だ。 
     もし日本の農業生産技術を世界の国が採用すれば、世界のカロリー供給量は桁違いに伸びるだろう。さらに可能な限り、世界の人々にアジアのように米を主食として食べてもらえれば、食料危機など起こらないのではないか。最近は米粉で焼くパンをよく見かける。あのような食べ方を世界の人にしてもらえばいい。
     日本の米作が世界の食糧問題を解決するのだ。

    『農地1a当たり国産供給熱量等の国際比較(2003年度試算)』を見ると、日本の農業が狭い面積で大量の収穫を行っている=生産効率が高いことがわかる

    久野友萬(ひさのゆーまん)

    サイエンスライター。1966年生まれ。富山大学理学部卒。企業取材からコラム、科学解説まで、科学をテーマに幅広く扱う。

    関連記事

    おすすめ記事