シャーマン師弟と風水師、葬儀師の4人が奇妙な墓に隠された秘密を掘り返す韓国映画『破墓/パミョ』監督インタビュー

文=山口直樹

関連キーワード:

    話題のホラー映画「破墓/パミョ」のチャン・ジェヒョン監督にインタビュー!

    ご注意*この記事には「ネタバレ」を含みます*

    驚異の「墓」ホラー!

     墓というと、現代の日本では仏教由来の火葬がほとんどだが、お隣の韓国は違う。1990年代後半から急速に火葬が普及しはじめたが、それまでは儒教の影響で、遺体をそのまま棺に納めて埋葬する土葬が一般的だった。そのため、墓や子孫に何か問題が生じると、墓を掘り起こし(破墓)、棺を取り出して遺体を供養し、別の場所に葬り直す「改葬」が行われる。

     この「改葬」をモチーフにしたサスペス・ミステリー映画で、韓国で大ヒットした『破墓/パミョ』が先日日本で公開された。

    依頼人の祖父の墓を実際に見て困惑する風水師サンドクと葬儀師ヨングン。なぜか墓は悪地の中の悪地にあり、石碑にも故人の名は記されていなかった。ベテラン風水師のサンドクを韓国を代表する演技派俳優チェ・ミンシクが好演。

    <あらすじ>
     アメリカに住む大富豪の韓国人から、長男の除霊を依頼された巫堂(ムーダン=朝鮮のシャーマン)のファリムは、弟子のポングルとともにお祓いを行い、依頼人の祖父の墓の供養が必要と知る。帰国した2人は、風水師サンドク、葬儀師ヨングンとともに山奥にある問題の墓に向かう。だが依頼人は、なぜか祖父の名前を明かさず、棺を開封しないですぐに火葬して欲しいという。そこで4人はお祓いと改葬を同時に行うことにしたが、墓穴と棺から“何か”が出てきて怪異が始まる。

    墓の前で“テサルお祓い”を行う前に、墓を掘る5人の作業員を守るため、巫堂のポングルはそれぞれの額に赤いもの(馬の血という説もあるが真偽不明)を塗る。ポングルの両手には、お経の入れ墨が見える。

     この不思議な物語の脚本も自ら書いたチャン・ジェヒョン監督は、子供のころに改葬を見た体験が、この作品を撮るきっかけとなったという。監督へのインタビューは、その体験談を聞くことから始まった。

    「9歳のとき、高速道路の建設で、古い墓がある近くの山が削られることになったのです。そのとき改葬を目撃し、とても妙な感覚に襲われました。100年ほど前の墓から当時使われていた水筒や手袋が出てきて、過去にタイムスリップしたような感覚に陥りました。また、棺が掘り出された際、開けて中を見たいという好奇心と、怖いから開けないでという気持ちが同時に沸き上がりました。そのときから、僕の心に閉ざされた棺に対する一種のファンタジーが生まれたので、今回、俳優さんが演じるシーンより棺を撮るときのほうがワクワクしました(笑)」

     映画では、改葬にかかわる4人のプロたちの仕事ぶりが詳細に描かれ、興味深い。監督は準備に5年かけ、多くの風水師や巫堂に会い、改葬にも15回ほど立ち会ったそうだ。

    「リアルな物語にしたかったからね。韓国で風水は迷信ではなく、民間レベルの哲学として受け入れられています。師匠から弟子へ伝授される風水には、陰宅と陽宅があります。陰宅とは墓のことで、亡くなった人が住む墓所の選択に関連するもの。墓地にする土地が枯渇してきている最近では火葬が主流となり、共同墓地や納骨堂が多くなったので、役割は減っているようです。もうひとつの陽宅は、生きている人たちが暮らす家や建物で、個人や企業に加え、行政が都市計画などで風水師に公費を払って意見を聞くこともあります」

     劇中、こうした風水師をめぐる状況の変化を語るセリフもあるので、注意したい。

    取り出された棺のほかに、まだ何かが埋められている可能性がある墓穴をのぞき込む4人。右から巫堂ファリム、風水師サンドク、ファリムノ弟子のポングル、改葬を仕切る葬儀師のヨングン。

     一方の巫堂は、ミステリアスでスリリングなお祓いや儀式をいくつも見せてくれる。

    「どれも実際に行われているものを映像化しました。謎の墓の前で行う“テサルお祓い”は、実際の“タサルお祓い”を少し映画的にアレンジしたものです。5匹のブタの死体を山の神に供え、その地の悪い気をブタに移して祓うという儀式ですが、4台のカメラを使い、臨場感たっぷりのシーンが撮れました。韓国では、今でもこうしたシャーマニズム的な儀式は行われており、この映画の撮影に入る前にもお祓いをしてもらっています」

    “テサルお祓い”を始めるファリム。ポングルと女性たちが太鼓を打ちながら歌を歌うと、両手に小刀を持ったファリムはリズムに合わせて踊りはじめる。人気女優のキム・ゴウンは、巫堂の先生からお祓いや儀式のやり方を学び、数多くの映像資料をチェックし、才能豊かな巫堂を見事に体現した。

    妖怪、風水、怪談を含んだ作品世界

     さて、監督は子供のころから日本の漫画が好きで、日本のサブカルチャーの影響をうけたという。そのため、この映画には、日本へのリスペクトと思われる描写がいくつかある。まず、問題の墓の中で、作業員が奇妙なヘビを殺すが、女性の顔を持ったヘビで日本の妖怪「濡れ女」を連想させる。また、巫堂の弟子のポングルは体にお経の入れ墨をしており、日本の民話で小泉八雲の『怪談』にも収録されている「耳なし芳一」を思わせる。

    「あのヘビは“濡れ女”です。僕は大学時代、日本妖怪研究会というサークルに入っていました。由来も造形もおもしろい日本の妖怪が大好きなんです。サークルでの僕のニックネームは河童だったんですよ(笑い)。あと、ボングルのお経の入れ墨も“耳なし芳一”からインスピレーションを得ました。『怪談』は好きな小説で、影響を受けましたね」

     じつは、映画は、後半になると思わぬ形で日本の影がかかわってくる。ネタバレになるので詳細は語れないが、反日的な部分はいっさいなく、歴史と陰陽五行説が巧みに絡んだ予測不能な物語がスリリングに展開するので、ぜひ劇場で味わって欲しい。

    映画「破墓/パミョ」
    新宿ピカデリーほか全国にて公開中
    配給:KADOKAWA、KADOKAWA Kプラス
    © 2024 SHOWBOX AND PINETOWN PRODUCTION ALL RIGHTS RESERVED.
    公式サイト https://pamyo-movie.jp/index.html

    チャン・ジェヒヨン監督 プロフィール
    1981 年生まれ。2009年、短編『MALEY FROM INDIA(英題)』で監督デビュー。2015年、カトリックの悪魔祓いをモチーフにした初長編作『プリースト 悪魔を葬る者』で興行的にも成功し、一躍注目を集める。2019年、仏教系の新興宗教の深い闇と恐ろしい秘密を描いた『サバハ』を発表。同作は、韓国の二大映画賞、青龍映画賞と大鐘賞で、いずれも監督賞と脚本賞にノミネートされた。また、脚本家として、2017年の異色ホラー『時間回廊の殺人』の脚本を手掛けている。

    写真提供=SHOWBOX

    関連記事

    おすすめ記事