「モンペをお洒落に着こなす美少女」の絵葉書も超高額に!? 話題の古書店主が集めた戦前・ 戦中の珍奇な絵葉書たち

構成=伊藤綾 編集=千駄木雄大

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    いま密かに話題の古書店「書肆ゲンシシャ」の店主・藤井慎二氏が、同店の所蔵する珍奇で奇妙なコレクションの数々を紹介!

    「驚異の陳列室」を標榜し、写真集や画集、書籍をはじめ、5000点以上にも及ぶ奇妙なコレクションを所蔵する大分県・別府の古書店「書肆ゲンシシャ」。

     まるで、温泉街には似つかない雰囲気だが、SNS投稿などで同店のコレクションが話題を呼んでいる。その奇妙さに惹かれ、九州のみならず全国からサブカルキッズたちが訪れる、別府の新たな観光スポットになった。

     知覚の扉を開くと、そこは異次元の世界……。ようこそ、書肆ゲンシシャへ。

    美少女を描いてきた中原淳一がプロパガンダに加担?

    ――「webムー」での連載を始めてから3か月が経とうとしています。反響はありましたか?

    藤井慎二(以下、藤井)  「お父さんが雑誌の『ムー』をよく読んでいる」とか「よく家に『ムー』があった」と、言ってくれるお客さんが多いですね。「あの『ムー』に!」と言われますよ。うちのお客さんはSF小説好きも多いため、その流れで『ムー』を読んでいるのでしょう。

    ――確かに、SFとオカルトは相性いいですよね。初期の「ムー」の表紙は『スターウォーズ』のイメージ画で有名なイラストレーター生頼範義が手がけています。

    藤井  別府の書店にもだいたい「ムー」は置いてありますよ。

    ――最近は、各地の眠れるミステリーの発掘にも特に力を入れているようですし、そのうち大分を舞台にした面白い企画も登場するかもしれません。それはさておき、今回も昔の変わった絵葉書を紹介いただきたいと思います。

    藤井  まずは、第一次世界大戦の戦勝国を擬人化してつくられた、フランスの絵葉書を紹介しましょう。フランスやイギリスがオシャレに描かれています。ちなみに、この日の丸の翅が生えた蝶みたいなのが日本ですね。

    ――なんだか、新聞の風刺画で有名なジョルジュ・ビゴーみたいな雰囲気の絵ですね。

    藤井  現代の神絵師ではないですが、昔から有名イラストレーターの絵葉書は人気がありました。例えば中原淳一の作品も、絵葉書はかなり出回っていたようです。

    ――美少女のイラストでおなじみの人ですよね。今でもたびたび、展示会が行われている印象です。

    藤井  ただ、うちで扱っている彼の絵葉書は少し特殊で、こちらは第二次世界大戦中の、「モンペをはいている女の子をオシャレに描く」というプロパガンダ要素が含まれている絵葉書になります。ほかにも戦時中の活動着や水兵服、外出服を着こなす女の子まで……。

    ――そんな、過去があったのですね……。ところで、昔の絵葉書というのは流通量もピンキリなのでしょうか?

    藤井  当時は『サザエさん』で有名な長谷川町子も『翼賛一家大和さん』を描いていました。また、流通量に関しても、当然ながら、風景写真など「普通」の絵葉書のほうが数は多いです。そんななかに埋もれている、ユニークなデザインの絵葉書は、相当希少でかなり値が張りますね。

    ――大流行したものよりも、一部界隈で人気を博したもののほうが、将来的に価値がつくというのは、まんだらけに行けばわかりますよね。

    かつては絵葉書の専門店も存在した!?

    藤井  とはいえ、このような変わった絵葉書を集めていると「これ欲しい人いるの?」と、よく言われるんですよ。

    ――やっぱり、そうなんですね(笑)

    藤井  しかし、今は変わった絵葉書のほうが、希少価値が高い分むしろ値段が高くなります。

    ――そもそも、昔の絵葉書文化というのは、今でいうと何なんですかね? 定番のノベルティグッズみたいな存在ですか? 集めてコレクションしてもいいし、普通にハガキとして人に送ることもできますよね。

    藤井  「絵葉書専門店を写した絵葉書」もあります。関東大震災で被災した人々や街の写真など、昔の日本はとにかく何でも絵葉書にしていますね。もちろん、観光地のお土産絵葉書もありますよ。そのため、我々のところには別府にまつわる大量の絵葉書が残っています。

    ――「別府に実在した鬼・件・鵺・人魚のミイラ写真に戦慄! 八幡地獄「怪物館」の絵葉書コレクション」の回でも触れましたが、インターネットどころかテレビやラジオもない時代の絵葉書は、観光客が友人や家族に彼らが知らなかった世界を紹介するための重要な媒体(メディア)の役割を果たしていました。

    藤井  そうですね。それと、うちにはシャカシャカ振ると、そこに描かれたキャラの目玉が動く戦前の変わった絵葉書があります。ドイツから日本の子どもに宛てて父親が文章を書いて送ったものです。「母ちゃんはどうして居ますか。皆さんによろしく」と書いてあります。

    ――もっと普通の絵葉書で送ればよかったのに……。

    藤井  突然、海外にいる父親からこのような絵葉書が届くんですよね。子どもを驚かせたり、喜ばせてあげたいという親心かもしれません。

    ――ちなみに、インターネットで検索したところ、私製ハガキが1900年に認められて以降、日本でも絵葉書文化が花開きましたという記述があります。本当にいろんな人がいろんな絵葉書をつくっていたんですね。

    藤井  現在のように著作権があまり厳しくなかったことも関係しているのでしょう。

    ゲンシシャが収集し始めたきっかけ

    ――ところで、今ゲンシシャには何枚くらい、昔の絵葉書を所蔵してあるのでしょうか?

    藤井  約2000枚です。絵葉書はジャンル分けして、アルバムに入れて保管しています。

    ――骨董品として収集し始めたきっかけや理由は何かあるんですか?

    藤井  書籍に比べて場所を取らないというのが一番大きいです。2000枚あってもダンボール1箱あれば十分スペース的に足ります。あとは、やはりネットオークションなどで高値が付きやすいことも大きいですね。絵葉書コレクターというのは今も一定数いて、福岡など都市部では絵葉書交換会も行われているようです。

    ――確かに場所を取らないというのは、骨董やコレクション趣味の中でも特徴的かもしれないですね。

    藤井  とはいえ、もう仕入れにいくらかけたか、わからないですね……。まとめ売りされていることも多いので、100枚セットで購入したこともあります。

    ――ゲンシシャのようにコレクションを披露する場が身近にあればいいですけど、多くの人はひとりで黙々と集めていると考えると、相当マニアックな世界ですね。

    藤井  だからこそ、ゲンシシャには絵葉書コレクターの方もよくいらっしゃいますよ。お互いのコレクションを見せ合って、購入される方もいらっしゃいます。平均年齢はみなさん高めですけれど、まるでトレーディングカードショップみたいですね。

    書肆ゲンシシャ

    大分県別府市にある、古書店・出版社・カルチャーセンター。「驚異の陳列室」を標榜し、店内には珍しい写真集や画集などが数多くコレクションされている。1時間1,000円で、紅茶かジュースを1杯飲みながら、それらを閲覧できる。
    所在地:大分県別府市青山町7-58 青山ビル1F/電話:0977-85-7515
    http://www.genshisha.jp

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