君はアンナミラーズ国防説に聞き入ったことはあるか?/大槻ケンヂ「医者にオカルトを止められた男」新10回(第30回)

文=大槻ケンヂ イラスト=チビル松村

    webムーの連載コラムが本誌に登場! 医者から「オカルトという病」を宣告され、無事に社会復帰した男・大槻ケンヂの奇妙な日常を語ります。

    猿人バーゴン

     昭和の昔はオカルトをピックアップしたテレビ番組がかなりの数あった。よく観ていたのは『木曜スペシャル』『水曜スペシャル』である。前者は矢追純一プロデューサーによるUFO特集や、一部陰謀論のネタ元にその後なった「第三の選択」の紹介、そしてユリ・ゲラーの登場など昭和オカルト少年にはたまらない内容であった。後者はなんといっても早過ぎたフェイク・ドキュメンタリー「川口浩探検隊」の大活躍にしびれたものだ。
     俳優・川口浩を隊長に未開の地を冒険するこのシリーズ、個人的には87年7月に放送された「謎の原始猿人バーゴンは実現した! パラワン島奥地絶壁洞窟に黒い野人を追え!」の回の衝撃がありすぎてトラウマとなっている。フィリピンのパラワン島に秘かに生棲すると現地の伝説にある幻の猿人バーゴンを捜して川口浩探検隊がジャングルに分け入るのである。壮絶な旅の末についに彼らは猿人バーゴンを発見する! それどころか、「バーゴンは飛ぶ!」「バーゴンは走る!!」といった感じのセンセーショナルなナレーションをつけてバーゴンの姿をクリアーにカメラに捉えてみせたのである。
     しかし、そのバーゴンは明らかに、そこらへんの兄ちゃんに腰ミノを巻かせただけのただの人間だったのである。なんだったら現地で暇そうにしてる若者に「ちょっと君、バーゴンやってくれるかなぁ」とスタッフが頼んだのかもわからない。子供ながらに「騙すのはいいんだけどさ、もうちょい……原始猿人に寄せようよそのアンちゃんを」と思ったものである。今となってはそのパチモノ感が愛おしい。

    肯定派と否定派

     それから何十年、僕は大人になってからオカルトをピックアップした番組に出演するようになった。そういった番組の多くはオカルト肯定派と否定派が対立する様子が見せどころとなっていた。僕はオカルトに対しては“無責任面白がり派”といった中庸の立場でいたので、番組で自分のスタンスを決めかねて困惑することも多かった。一度なんという番組だったか、つのだじろう先生と大槻義彦教授が出演のオカルト特集番組があって、やはり出演者のひとりであった僕は「さて今日はどうしたものだろう」と思っていたら大槻教授がニコッと笑って握手を求めてきたので「あ、じゃ今日はオレ否定派寄りか、つのだ先生ごめんなさい」と心でわびた。

     オカルト懐疑派、ビリーバーではないが盲信もしない派、そして僕のようにオカルトに対して無責任にただ面白がる派、が初めてピックアップされたオカルト番組は、2008年に関西テレビで放送された「未確認思考物隊」ではなかったかと個人的には思っている。浅越ゴエさん司会のこの番組は、UMA、UFO、心霊、超能力などのテーマを作家の竹内義和さん、高野秀行さん、タレントの松尾貴史さん、北野誠さんなどが語り合う形式で、中庸の視点からオカルトを論議して毎回有意義であった。
     中庸、といっても否定の意見の方がどちらかといえば優位になったことが多いように思う。印象深いのは作家の森達也さんが出演された回だ。エスパー清田さんのスプーン曲げに対して「ねじって曲げる清田さんの曲げ方は物理的に不可能だと思うから、自分は彼の超能力を否定しきれない」と主張する森さんが出演した後に、マジシャンの魔法使いアキットさんがスタジオに登場して、いとも簡単にそのねじり曲げをしてみせたのである。あのときの森さんの「えっ、んっ」という、困ってしまった表情を同じパネラーの席で間近に見た。
    「未確認思考物隊」はメディアでオカルトを扱う際に肯定否定の二次元論以外にも面白いポイントがあると教えた画期的なオカルト番組であったと思う。そしてその延長上に生まれたのが2012年から放送の始まったCSファミリー劇場の「緊急検証!」シリーズである。といってもふたつの番組に特別な関連はないのだけど、オカルトを肯定否定以外の側面から観るという点において兄弟番組のようなつながりがあるように僕には思えるのだ。
    「緊急検証!」シリーズは、さまざまなオカルトジャンルの識者たちがそれぞれに今回のオカルトネタをプレゼン、それについて聞き役の者が彼らと語り合うという番組スタイルだ。このプレゼンターのセレクトが実にいい味というか毎回素晴らしい。たとえば「ムー」でもおなじみの飛鳥昭雄さん、吉田悠軌さん、角由紀子さん、中沢健さん、田中俊行さん、都市ボーイズなどなど、そして彼らの超プレゼンを聞く役のレギュラーがこちらも「ムー」なじみ辛酸なめ子さんと大槻ケンヂなのだから、オカルトのガチとグレーゾーンを行き交うものたちの肯定否定を超越したボケ倒しトーク……もとい、面白トークバトルとなるわけである。

    日本を救うアンミラ

     そのなかでも、特に個人的に面白かったのは元公安刑事・北芝健さんが紹介した「日本を核ミサイルから救うアンミラ」の都市伝説であった。なんでも、北の某国の核ミサイルのボタンを押す権限を持つ要人が東京のアンナミラーズのサンドウィッチが大好きで、それを食べられなくなるのが惜しいので彼は核のボタンを押さない、アンミラのサンドウィッチが日本滅亡の危機を救っているのだそうな。
     また吉田悠軌さんの紹介した「大久保地下の巨大都市」の話も大好き。吉田さんによれば実大久保の地下に巨大な地下都市があって、その入り口は新大久保駅前のファーストフード店の地下と、大久保の教会下のファミレスの奥の2か所なんだそうで、そこらへんオレよく歩いているしなんだったらそのあたりで職務質問されてるよ、と笑ってしまった。
     ほかにも中沢健さんの、シャドーマンというUMAが男性に自慰行為をさせないためにAV女優さんなどにつきまといをしている説(なんだそれ)とか、飛鳥昭雄さんによる地球がもうじきもうひとつの地球を出産しようとしている! との壮大なプレゼンなど、毎度最高で毎年末には「紅白オカルト合戦」という恒例イベントまで行われ『オレ今年も紅白歌合戦じゃなくてオカルト合戦のほうかぁ……』としみじみしたものだが、いろいろ事情もあるのだろうここ数年新作が作られていない。
     オカルトに対して肯定も否定もせずいい意味でボケ倒す姿勢が画期的なこの番組、僕はこれ意外に日本オカルト史において非常に重要! と考えているので、復活を願いたいものである。クラウドファンディングがはじまると伝え聞いている。
     早急にお願いしたい。なぜなら、もう残された時間はあとわずかしかないからだ。
     それはなぜか? 「緊急検証!」で北芝健さんがプレゼンしていた「日本を核ミサイルから救うアンミラ」が、北某国の要人が愛してやまないというパストラミルーベンのサンドウィッチを出すアンナミラーズ高輪店が、2022年8月31日に、40年の歴史に幕を閉じて閉店したからだ! 日本が危ない! オカルト合戦やってる場合じゃねーって話か。

    (月刊ムー2024年10月号より)

    大槻ケンヂ

    1966年生まれ。ロックミュージシャン、筋肉少女帯、特撮、オケミスなどで活動。超常現象ビリーバーの沼からエンタメ派に這い上がり、UFOを愛した過去を抱く。
    筋肉少女帯最新アルバム『君だけが憶えている映画』特撮ライブBlu-ray「TOKUSATSUリベンジャーズ」発売中。

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