「なんとみゑますか」大正時代の妄想絵葉書に衝撃! 話題の古書店主が語る摩訶不思議なコラージュ写真たち
いま密かに話題の古書店「書肆ゲンシシャ」の店主・藤井慎二氏が、同店の所蔵する珍奇で奇妙なコレクションの数々を紹介!
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正体不明の怪光現象には、UFOであるとか、霊魂であるとか、プラズマであるとか、原因はさまざま。しかしその範疇にくくれない、未知なる光に着目し、補遺々々しましたーー ホラー小説家にして屈指の妖怪研究家・黒史郎が、記録には残されながらも人々から“忘れ去られた妖怪”を発掘する、それが「妖怪補遺々々」だ!
静かな夜、突然の異音に、あなたは目覚める。おや、なんだろう。家の外に奇妙な光が。窓から室内に差し込むその怪しい青い光は、不安に曇るあなたの顔を照らす。
あるいは——。
巨人の大欠伸の如き轟音が大気を震わせ、あなたは空を仰ぐ。群青色の空には皿状の光がある。それは光跡の尾を引いて空を斜めに切り裂きながら地上へと向かっていく。
——このような正体不明の発光物を目撃した瞬間、わたしたちはそれを何だと考えるでしょうか。その光はなにゆえ現れ、なにゆえ光り、なにゆえ正体を明かさないのか。もしそれが意志あるものであるならば、彼らはわたしたちに一体何を求めているのでしょう。
昭和11年に刊行された資料から、実際に起きたとされる謎多き怪光譚を2例、紹介いたします。
東京在住の仏師Y氏は、山梨県南巨摩郡にある身延山の熱心な信仰者で、若いころから各地の霊場で修行をしていました。
19歳のころ、3人で身延山を参り、日暮れごろに山を下りて大野村にある池田屋という宿に泊まりました。
その日の深夜、2階の部屋で寝ていた3人は足音で目覚めました。
それは階下の廊下奥にあるトイレのほうから聞こえてきたので、泥棒ではないかと3人はそっと起きて、真っ暗な中で座って様子をうかがっていました。
やがて足音は階段を上がってきて2階の廊下についたかと思うと、廊下に面した障子越しに青い光が映りました。
すると、いちばん階段に近い客室のほうから、障子の開く「スーッ」という音がし、おそらくその部屋の宿泊客でしょう、胸苦しそうな呻き声が聞こえてきました。
何が起きているのかと3人が聞き耳を立てていますと、今度は隣の客室の障子が開く音がし、同時にふたりの呻き声が聞こえてきました。
次は、この部屋に来るぞ。
いったい何事が起きているかはわかりませんが、3人は覚悟をして待ち構えました。
「スーッ」と、この客室の障子が開く音がします。ところが、何かが部屋に入ってくる様子がない。それどころか障子は閉まったままです。ただ、何も入ってはきませんが、部屋の上方に淡い青い光があり、それは隣の4つ目の部屋へと向かっていきました。
やがてその部屋の客らしき呻き声が聞こえてきました。
こうして2階にある全4室を巡った怪しい青い光と足音は、もと来た方へと戻って階段を下り、トイレの方へと向かっていったのです。
翌日、このことをだれかが騒ぎにするだろうと思っていましたが、不思議なことに話題にはなっておらず、まるで何事もなかったように宿は平穏な朝を迎えていたといいます。
光と足音の目的は何だったのでしょう。他の宿泊客たちになにをしたのか。そして、なぜ3人にはなにもしなかったのか。
他の客たちが何も気づいていない様子なのも不気味な話です。
明治のはじめごろの話です。
茨城県久慈郡金郷村大字岩手で農家をやっているKという男性が、ある夏の晩、大金持ちになる夢を見ました。
その2日後の晩、夫婦で入浴していますと、北西の空から大盥(おおだらい)くらいの黄赤い光を強く発するものが、嵐の前のような恐ろしい音を大気に響かせながら地上に向かって斜めに飛んできました。
夫婦が呆然と見ていると、それは自宅敷地内に生える大檜の枝に当たりました。その衝撃で光の一部が割れ、本体の大きな方は大檜の裏にあるSという家のほうに飛んで行って消えました。一方、壊れた光の欠片は火花をパッと散らし、大檜の下に落ちて消えてしまいます。その時、ふたりは小銭が落ちたようなチャラチャラという音を聞きました。Kは素っ裸で風呂から出ると大檜の下へ駆けていきましたが、もう何もありませんでした。
このころ、巷では【金の塊】が飛んできた家は大金持ちになるという話がまことしやかに囁かれており、前夜に見た夢のこともあるので、あれこそその幸運の【金の塊】に違いないと夫婦は考えました。
一方、光の本体部分が飛んで行ったS家は、なにをしてもとんとん拍子にうまくいって、このあたりの村では一番の大金持ちになりました。3階建ての家を新築し、立派な門塀を構え、300人の女性を雇って製糸工場を起業する実業家になったのです。
そしてKも金回りが良くなり、3、4年で土蔵を2棟も増築し、そこにたんまりと穀物や家財を収めました。大酒飲みの長男には「ギャンブルさえしなければいくらでも飲んでいい、毎日5升飲んでもいえは潰れない」といっていたそうです。
そんなK家もS家も明治の末に家運は衰退し、Sなどは見る影もないほどに貧しくなってしまったそうです。村の人たちは両家が【金の塊】に見捨てられたのだろうと噂したといいます。
これは様々な文献に記録が見られる【金霊/金玉(かねだま・かなだま)】といわれるものの一種でしょう。金の気、金の精霊などといわれる超常的なものです。同じ名を持っていても文献によって別物とみられるものもありますが、だいたいは空より飛来する輝く謎の物体として記録されています。
「降って」わいた幸運とはこのこと。隕石だという説もありますが、隕石も今はとんでもない金額になるものもあります。なんにしても、大変ありがたい天からの授かり物であったわけです。あやかりたいものですね。
【参考資料】
岡崎建文『霊怪真話』
黒史郎
作家、怪異蒐集家。1974年、神奈川県生まれ。2007年「夜は一緒に散歩 しよ」で第1回「幽」怪談文学賞長編部門大賞を受賞してデビュー。実話怪談、怪奇文学などの著書多数。
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