空飛ぶ円盤からUFOへ…「未確認飛行物体」はどう呼ばれてきたか?/昭和こどもオカルト回顧録

文=初見健一

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    UFO = Unidentified Flying Objects。ムー民なら常識のこの用語だが、懐かしの「空飛ぶ円盤」という呼び方はどこへすっ飛んでいったのか?

    「空飛ぶ円盤」から「UFO」へ

     昨今は「UFO」(未確認飛行物体)という呼称の代わりに、ペンタゴンが正式に採用している「UAP」(未確認航空現象)という言葉が一般にも普及しつつあるようだが、個人的には「え? ちょっと待ってよ」と思ってしまう。僕らはもの心ついたころから「UFO」という字ヅラと音の響きに神秘とロマンを感じて育ってしまったので、いまさら「ゆ~えいぴぃ~」なんていう妙にカワイイ(?)語感の言葉にはなじめそうもない……。

     いや、「もの心ついたころから」などと書いてしまったが、僕らの幼児時代、「UFO」という呼称は一般的ではなかった。あの頃、「未確認飛行物体」はあくまでも「空飛ぶ円盤」だったのだ。1947年の「ケネス・アーノルド事件」において、彼の証言を粗忽な記者が早合点して記事にしたことから普及した呼称である。アーノルドが目撃したのは円盤型ではなく、コウモリ、あるいはブーメランのようなシェイプの飛行物体だった(『マグマ大使』に出てくる「ゴアの宇宙船」にそっくり!)。それが「皿投げ遊び」の皿のように飛んでいた、と証言していたのだ。
    「皿投げ遊び」というのは、割れた皿を川などの水面スレスレに投げて、水の上をバウンドさせる子どもの遊びである。つまり、「Flying Saucer」は飛行物体の「形」ではなく、「動き」を表現した言葉だったのだが、誤解した記者は「円盤型の飛行物体」と記事に書く。これをきっかけに「未確認飛行物体」の定型は円盤型ということになってしまうのだが、それはともかくとして、牧歌的で、ミステリアスで、詩的でさえある「空飛ぶ円盤」という言葉には、人の想像力をビシビシと刺激する魅力があったのだと思う。

     一方、「UFO (Unidentified Flying Objects)」の呼称は米国でプロジェクト・ブルーブックが立ちあがった50年代初頭から正式な空軍用語して使用されていたが、子どもたちまでが口にするようになったきっかけは、イギリス産のSFテレビドラマ『謎の円盤UFO』だといわれている。1970年制作のドラマで、同年に日本でも放映された。登場する多彩なメカがプラモデルなどとして商品化され、日本の子どもたちにも人気を博している。また、「衣装デザインの担当者は変態なんじゃないか?」と思えるほど無駄にエロい女性キャラたちのコスチュームも話題になり、いたいけな少年たちにある種のトラウマを植え付けた作品でもあった。
     タイトルの「UFO」の発音はあくまでも「ユー・エフ・オー」。米国では当初から「UFO」を「ユーフォー」と読むことが提唱されていたらしいが、一般には「ユー・エフ・オー」として広まったようだ。

    『謎の円盤UFO』はサンダーバードを制作したイギリスの21センチュリープロダクション(かつてのAPフィルムズ)によってつくられたSFテレビドラマ。当時としては非常にリアルに描写されたメカのアクション、登場キャラクターの未来的でスタイリッシュなファッションなどで人気を博した。写真は立風書房から刊行された番組本。 

    「ユー・エフ・オー」から「ユーフォー」へ

     日本において「ユー・エフ・オー」を「ユーフォー」に変えてしまったのが、1977年リリースのピンク・レディー「UFO(ユーフォー)」の爆発的大ヒット……という話をよく耳にするし、僕自身もなんとなくそう思っていたのだが、この説はよく考えてみると時系列が混乱している。
     なにしろ子どもたちに大人気だった『UFO(ユーフォー)ロボ グレンダイザー』の放映開始が75年である。このアニメは「昨今のUFOブームに乗ろう」という企画だったわけで、すでに「ユーフォー」という呼称は放映前から子どもたちにもかなり認知されていたはずだ。「UFOブーム」と「アメフトブーム」の両方に便乗した『UFO(ユーフォー)戦士ダイアポロン』も76年に放映されているし、同年に「日清焼そばUFO(ユーフォー)」も発売されている。この商品はピンク・レディーの「UFO」の替え歌を採用したCMの印象が強く、この歌の大ヒットに便乗して登場したように思われているが、実際は商品の発売の方が先だった。初代CMには桂三枝が起用されている。

     もうひとつ、この商品にはややこしい経緯があって、ご存知の通り正式商品名の表記は「日清焼そばU.F.O.」だ。読みは「ユーフォー」なのに、各アルファベットは「.」で区切られ、「ユー・エフ・オー」と読んでしまいたくなるようにロゴがデザインされている。このことから、僕は長らく「日清焼そばU.F.O.」が発売された76年ごろが、「ユー・エフ・オー」と「ユーフォー」の呼び名が混在する端境期にあたるのではないかと思っていた。ところが、後に日清に取材して唖然としてしまった。初期の商品名はあくまで「日清焼そばUFO」。「.」は付いていなかったのである。「.」が付くようになったのは、なんと発売から20年ほどもたったころだったそうだ(著作権がらみの問題をクリアするためだったともいわれているが、理由は不明)。
     まぁ、まったくもってどうでもよい話のような気もするが、ともかくピンク・レディーの「UFO」の大ヒットが列島を席巻する以前に、すでに一般的にもごく普通に「ユーフォー」の呼称が使用されていたことだけは間違いないと思う。

    日清焼そばUFO「日清焼そばUFO」、1976年の初代パッケージ。アルファベットを区切る「.」がない! ちなみに当時のCMでは「UFO」は「うまい! 太い! 大きい!」の意味であることが強調されていた。

     「オカルト児童書」の世界では……

     僕ら世代が「UFO」の知識を培った昭和の「オカルト児童書」では、どういう変遷があったのだろう? 手持ちの「UFO系児童書」を調べてみると、60年代に発売された本には「UFO」の呼称は見あたらず、すべて「空飛ぶ円盤」と表記されている。70年代なかばから「空飛ぶ円盤」と「UFO」を併記する本が増え、74~75年の時点でほとんどの本がルビを「ユーフォー」としている。「ユー・エフ・オー」の呼称が使われていた時代は、どうもかなり短かったらしい。
     ちょっと驚くのが、「UFO」普及後は古めかしく感じられるようになった「空飛ぶ円盤」のしぶとさだ。当時の記憶では、70年代後半にはもう誰も「空飛ぶ円盤」という呼称は口にしなくなっていたし、なんとなく「子どもっぽくて恥ずかしい」という感じがあった覚えがあるが、そうでもなかったようだ。児童書の世界では、80年代後半になっても「UFO」と併記する形で普通に使われていたりする。
     こうした呼称の変遷は、大人向けの本を見てもあまり変わらない。60年代初頭の段階ですでに「UFO」を冠した出版物が数多く出ているが、多くがCBAや日本GAPなどのUFO研究グループの機関誌のようなものか、完全にコアな層に向けたマニアックな書籍だ。その後も『UFOと宇宙』を刊行していたコズモ出版や大陸書房など、やはり先鋭的(?)な版元の刊行物が目立つ。そしてやはり74~75年くらいから、徳間や角川などの大衆的な版元からもタイトルに「UFO」が入った書籍の刊行が増加している。ちなみに、アダムスキーの『UFO同乗記』が角川文庫から出たのも1975年だ。

    「未確認飛行物体」の呼称の変遷から、幼児期~少年期の文化状況をアレコレを思い出してみたが、今の自分が独特の郷愁を感じてしまうのは、やはり「空飛ぶ円盤」という言葉である。このフレーズを耳にすると、真っ先に浮かんでくるのが園児時代にお気に入りだったブリキの玩具だ。増田屋コーポレーションが1960年に発売した「宇宙円盤X-7」。多くの子どもたちに親しまれた大ヒット商品で、30年間も売られたロングセラーだった。あのカラフルで未来的な円盤のイメージが、僕の「UFO」観の源流らしい。この「UFO」に乗っているのは宇宙人ではなく、地球人の少年(?)である(なので厳密には「UFO」ではないということになる)。

     思えば、あの当時の子ども文化における「空飛ぶ円盤」には、現在同様「宇宙人の乗り物」というイメージのほかに、「人類が21世紀に開発する未来の乗り物」というイメージがあった。
     以前に小松崎茂の作品など、昭和の児童雑誌に掲載された「未来画」をまとめた書籍をつくったがことがあったが、そのときのリサーチでも、70年代初頭までに描かれた「空飛ぶ円盤」のイラストの多くが、「未確認飛行物体=宇宙人の乗り物」であるよりも、NASAや国連のマークが入った宇宙船として描かれていたことに驚くと同時に、忘れていた当時の感覚を思い出した。「21世紀への期待」というか、「人類の科学技術の結集」というか、なにかそういう「輝かしい未来」を象徴するようなものとして、人間が搭乗する「空飛ぶ円盤」のイメージに僕らは幼少期に親しんでいたのだ。

    「未確認飛行物体」の話とは少しズレるが、70年代のどこかですっかり消失してしまったらしい、そうした希望に満ちた「空飛ぶ円盤」の残像をひどく懐かしく感じてしまう。 

    「宇宙円盤X-7」増田屋コーポレーションが1960年に発売した電動ブリキ玩具「宇宙円盤X-7」。男児の定番玩具になるほど大ヒットしたので、これによって「空飛ぶ円盤」のイメージを刷り込まれた昭和世代は多いはず。

    初見健一

    昭和レトロ系ライター。東京都渋谷区生まれ。主著は『まだある。』『ぼくらの昭和オカルト大百科』『昭和こども図書館』『昭和こどもゴールデン映画劇場』(大空出版)、『昭和ちびっこ怪奇画報』『未来画報』(青幻舎)など。

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