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防災の備えは万全でも、〝防怪〟は大丈夫? 幕末、大地震後の海岸に巨大な怪物体が出現していた!
9月1日は防災の日。台風や津波、地震などの災害への認識を深め対処する心構えを準備するためにと制定されたものだが、日頃しっかり準備をしていても、大災害の発生時にはどうしてもパニックが起こりがち。
だがもしも、災害に加えてそこに巨大怪獣まで現れたらどうだろう。そんなことあるわけないじゃん……と思うかもしれないが、じつは幕末の大阪で、災害時に正体不明の巨大なモノが出現し人々を大パニックに陥れたという記録が残されているのだ。今回は、そんな大阪の巨大怪物の図をみてみたい。
ペリー来航の翌年にあたる嘉永7年の11月5日、紀伊半島沖を震源とする巨大地震が発生した。いわゆる安政南海地震で、その規模はマグニチュード8クラスという激烈なものだったと推定されている。
地震によって四国や関西地方を中心に広い地域が大きな被害をうけたが、さらに被害を甚大なものにしたのが、地震のあとにやってきた大津波だった。
震源に近い大阪では地震の約2時間後に津波が到達し、大阪湾に流れ込む安治川、木津川を逆流した津波が大阪市街の広範囲を水没させた。それは大小数えきれない船を押し流し、いくつもの大橋を崩落させるほどの激しさだった。
正体不明の巨大ななにかが出現したのは、この津波が到達する直前のことだったという。
「大津波末代噺種」という史料に、出現した怪物についての情報が記されている。要約すると、
11月5日の夕方、大津波が押し寄せる前に、大阪の西、前垂島というところに身の丈6メートルを超える「高坊主」が現れた。
人々がこれをみて肝をつぶし、あれよあれといっているうちに怪物は海に入り、陸に向かって水をかけるようなしぐさをする。そのうちに姿が消えてしまったのだが、それから間もなく大津波がやってきた。
のちに人々は、あの怪物は、津波到来を告げに現れたものだったのではないか……と噂しあった。
ーーといったことが書かれている。
描かれた「高坊主」はどこかドクロを思わせるシルエットだが、口元は笑っているようにも見えて言い知れない不気味さがある。「風の谷のナウシカ」に登場する、火の七日間で世界を滅ぼした巨神兵を彷彿とさせるようでもある。
同じ目撃情報を描いた別の図では、怪物とともに人や船も描きこまれていてその巨大さが際立つ。こちらでは「高坊主」という名前こそ確認できないが、水を陸にかけるような、波を押し出すようなポーズをとっているところは共通している。先の「高坊主」の得体の知れない形状も怖いが、こちらのようにはっきり人間化した化け物だったとしてもこれはこれでかなり怖い。
地震が発生したのは午後4時ごろで、2時間後の津波到達はちょうど日も沈んで暗くなった時間帯だった。巨大地震に見舞われた直後の夕暮れ、海でこんなものを目撃したらとても正気を保ってはいられなさそうだ。
前垂島は道頓堀の西側、現在の大正橋付近にあたる。今では埋め立てが進んですっかり内陸化しているが、当時はもっと海に近い場所だった。
海と陸の境界のような場所で、偶然にも昼と夜の境目の時間に発生した津波だったからこそ、得体の知れない何者かの出現を許す「歪み」が生じてしまったのだろうか。
海の巨大怪物といえば有名なのが海坊主だが、これもまた人間に近い形状をしつつも、意思疎通不可と思わせる虚無的な表情に描かれることが多い。
こちらは、東海道筋の桑名の海に出現したという海坊主を描いた浮世絵。あの「高坊主」にも似たぬるぬるとした形状だが、遭遇した漁師が「渡世のほかに怖いものなどない」と言い放ったらその一言に驚いたのか、なにもせずに消え去ってしまったという。こんなビジュアルの割には意外と人間ぽいというべきか……。
正体不明の怪物や災害に遭遇しても、むやみに怖がらず冷静に行動することが結局いちばん身を守ることにつながる、という教訓なのだろうか。
図版出典一覧
大阪の高坊主1『地震津波/末代噺の種』東京大学総合図書館所蔵
大阪の高坊主2『大坂川口新田之図』(一部)東京大学総合図書館所蔵
海坊主『東海道五十三対 桑名』国立国会図書館デジタルコレクション
鹿角崇彦
古文献リサーチ系ライター。天皇陵からローカルな皇族伝説、天皇が登場するマンガ作品まで天皇にまつわることを全方位的に探求する「ミサンザイ」代表。
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