「精霊を呼ぶ」実験の想像を超えた結末! 音と電磁波で精霊が見えるメカニズムを徹底考察/久野友萬

文=久野友萬

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    世界各地に共通する“よく似た精霊”の存在。これは単なる偶然ではなく、私たちの体に起こる変化が関係しているからだった!? 今こそ科学的に紐解く!

    精霊を呼ぶ実験

     精霊を呼ぶ実験をやってみた。考案者はUMA研究家で小説家の中沢健氏。中沢氏によると、故・水木しげる氏はニューギニアを取材で訪れた時、現地の人たちが音楽を使って精霊を呼ぶことに感銘を受けたそうだ。彼らは音楽、正確に言えば笛の音で精霊を呼び出す。

     世界各地に伝わる精霊のイメージはよく似ている。名前は違っても、よく似た精霊=妖怪=魔物がたくさんいる。彼らに実体はないが、存在はあるのだ。そんな精霊を呼び出す音楽が他国にあるのだから、邦楽にもそういう効果があるのではないか?

     そこで中沢氏は、友人と精霊を呼ぶ実験を行った。行った実験はシンプルで、中沢氏を含む3人で邦楽を1曲聞いてはイメージしたものを絵に描く。3人のイメージが共通していたら、精霊が来た証拠となる。

     実験自体はシンプルだが作業はとにかく大変で、聞いた曲は300曲以上! 朝から夜中まで、何ひとつ一致しなかったが、最後に聞いた曲で3人の絵が一致した。

     曲名は和田アキ子の「あの鐘を鳴らすのはあなた」。和田アキ子が絶唱する中で3人が書いた精霊の姿は、人間の千切れた片腕を咥える、尾のあるカメの姿だった。

     なぜ和田アキ子なのか? 疲労が限界を迎えてハイになったからなのか? よくわからないが、一つだけ言えるのは、人間の千切れた片腕を咥える、尾のあるカメの精霊を3人が揃って思いつくことなど通常ではありえないし、そんな精霊など世界にはいない。

     中沢氏が霊媒師に聞いたところ、精霊の名は「かにメンチ」で、メンチカツの匂いがして、欲望を叶える代わりにチョコレートを欲しがるとか…… 情報が渋滞している。

    超高周波=ハイパーソニックの音楽が精霊を呼ぶ

     水木しげる氏によれば、かつて精霊や妖怪は人間にもっと近い存在で、そこら中にいたのではないかという。精霊も妖怪も目には見えない。目には見えないが明らかにいて、共通するイメージがあるのだという。

     そして、彼らは音につられて現れる。マレーにはセノイ族という夢を操る(明晰夢のようなものらしい)民族がいて、彼らは「バニソイの儀」という儀式で精霊を呼び出す。水木氏は「バニソイの儀」で使われた木と竹を鳴らす音楽を何度も聴くうちに、自分と精霊の関係を直感したのだそうだ。

    1906年に撮影されたセノイ族の人々 画像は「Wikipedia」より引用

     精霊と音は密接に結びつき、しかし、その感覚を多くの日本人は失っている。情報科学の専門家で音楽家の大橋力氏(映画『AKIRA』のテーマ曲を作曲した芸能山城組を作った山城祥二でもある)は、自然音に含まれる超高周波成分=ハイパーソニックが音楽と融合した時、聞く人の脳波が劇的に変わることを発見した。大橋が「ハイパーソニックエフェクト」と名付けたこの効果は、音楽を聴いた数秒~十数分後から脳波を強制的にアルファ波優位に変え、曲が終わった後も数十分にわたって持続した。

     さらに免疫系が活性化し、アドレナリンの数値も激減した。言い換えると風呂に入ったり食事をすると優位になる副交感神経が働き、脳が深くリラックスしたのだ。

     よく精霊が森にいるというのは、森の音に超高周波成分が含まれていることに関係している可能性が高い。そんな超高周波成分と人の音楽とが組み合わさった時、ハイパーソニックエフェクトが起きて脳がトランス状態に入り、精霊を受け入れる態勢に変わるのだ。

    脳が目覚めるのは深い森の中である

     音で呼ばれて出てくる精霊が何であれ、脳に深く影響を与え、イメージを送り込む。これを可能にするのは電磁波だろう。

     鳥類は網膜で捉える磁気感覚に頼って移動するという説は、1970年代後半、すでに物理学者のクラウス・シュルテン氏により報告されていた。

     渡り鳥やミツバチが磁気を感じていることや、サメが電気を感じるロレンチーニ器官を持っていることはよく知られている。

    クリプトクロム 画像は「Wikipedia」より引用

     この磁気感覚は、人間の網膜にもある「クリプトクロム」という特殊なタンパク質の働きを利用して得られるそうだ。光感受タンパク質であるクリプトクロムは、日光を浴びた時に体内時計を調節する機能に関わっている(だから網膜にある)。そのタンパク質が光だけではなく磁気にも応答し、しかも活性度が高い。そのため鳥類は、磁気を視覚としてとらえていると考えられている。磁気を感じたり見る能力は、視覚や聴覚などの五感と同様に「磁覚」と名付けられている。

     クリプトクロムがあれば、磁気を見ることができる。だとすれば、人間のクリプトクロムも磁気をキャッチし、磁気を視覚化しているのか?

     マサチューセツ大学医学部のローレン・フォーリー氏らは、遺伝子操作でショウジョウバエの網膜にヒト由来のクリプトクロムを作らせ、磁気センサーとして機能することを確認した。

     ショウジョウバエは磁気の変化に敏感で、エサを与えて訓練をすると、コイルで発生させた磁気を探知、コイルに目がけて飛んでいくようになる。そして、人間のクリプトクロム遺伝子を組み込んだショウジョウバエは、コイルに向かって飛び、クリプトクロムができないように操作したされたショウジョウバエはその場に留まった。

     人間のクリプトクロムは磁気に対して反応するのだ。

    鳥が見ている磁気(鳥が見る通常の視覚画像に磁気フィルターをかけたもの) 画像は「The Theoretical and Computational Biophysics Group the University of Illinois Urbana-Champaign」より引用

     もともと私たちは磁気を見ることができた。それは明確な像ではなく、なんとなくあるという感覚だ。鳥類が磁気をどう見るのか、鳥の視界に磁気フィルターをかけて映像化した画像を見ると、磁気は風景に濃淡を与えている。この濃淡で鳥は方角を知ることができる。

     人間も同様だろう。視覚として送り込まれるのはこうした磁気の気配だ。そこからメッセージを読み解くのは、トランス状態になった脳、優位になった副交感神経がつながっている場所、右脳である。

    久野友萬(ひさのゆーまん)

    サイエンスライター。1966年生まれ。富山大学理学部卒。企業取材からコラム、科学解説まで、科学をテーマに幅広く扱う。

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