77年と7か月を経て届いた手紙の話など/南山宏のちょっと不思議な話

文=南山宏 絵=下谷二助

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    「ムー」誌上で最長の連載「ちょっと不思議な話」をウェブでもご紹介。今回は2023年10月号、第475回目の内容です。

    青銅の文字

     バスク人といえば、スペインとフランスの国境地帯で独自の文化を誇る民族として知られるが、これまでは古代の祖先は文字を持たなかったとされてきた。
     ところが、昨年11月、スペインのアラングレン渓谷の遺跡を発掘中の考古学者が発見した呪術か祭式用らしい青銅製の〝手〟には、最古のバスク文字文が刻み込まれている事実が判明し、従来の定説が引っくり返されたのだ。
     ただ解読が難かしく、2022年11月16日付「マイアミヘラルド」紙によれば、まだ、冒頭の文字が〝幸運〟とか〝吉兆〟の意味とまでしか判明していない。

    聖母のドア

     ブラジルはパラナ州のラランジェイラスドスル消防署が緊急出動して、ハイウェイBR158号線で炎上するトラックの消火に成功したあとで、不思議な奇跡が起きていることが明らかになった。
     車体と荷台の貨物はすべて燃え尽きたのに、荷台後部の両開きのドアだけは、なぜか焦げ跡ひとつなく完全に残っていたのだ!
     その2枚のドアには、同国の守護聖人で〝褐色の聖母〟の異名もある「アパレシーダの聖母」の立ち姿が大きく描かれていた。
     インターネットの昨年1月12日付「ヴァイラルタブニュース」によれば、消防署のスポークスパーソン、カルロス・デソウザ氏は次のようにコメントする。
    「なぜ後部ドア2枚にだけは焦げ跡さえないのか、どうにも説明できない。燃え方は非常に速かったし、唯一の説明は、何か超自然的なことが起きた。これはまさに奇跡だということだ!」

    巨大スティックの危難

     カナダはブリティッシュコロンビア州ノースカウチャンのホッケー競技場の外には、世界一巨大な木製のホッケースティックが飾られているが、その巨大展示物が現在、思いもよらぬ難敵の攻撃に遇って崩壊の危機に曝されている。
     長さ62メートル強、重量28トン弱、あのギネスブックにも登録された世界一の巨大ホッケースティックに、なんと番いのハシボソキツツキが穴を開けて、巣作りしようとしているのだ!
     本来は1986年に同国ヴァンクーバーで開催された国際博覧会の記念展示物だが、ハシボソキツツキは保護鳥なので殺処分するわけにもいかず、すでに数か所に大きな穴を開けられてしまった。
     開けた穴にスチールウール(鉄たわし)を詰め込んでも、すぐさま突つき出されるし、網をかけて塞いでも簡単に破られてしまう。
     2022年4月21日付UPI電によれば、この困り者のキツツキ夫婦を遠ざける妙案はないものかと、関係者は目下苦慮中とか。

    アホ過ぎる

     ダニエル・アシェンハーストは警察が〝アホ過ぎる〟と呆れ返った押し込み強盗の容疑で、3年3か月の懲役刑をくらった。
     2022年4月22日付「デイリーテレグラフ」紙ドットコム豪州版によれば、ダニエルは盗品のピエロの鬘とバンダナで顔を隠して、地元アデレードの薬局に押し入ったはいいが、鬘は落とすは、バンダナは外れるはで、店員に顔を見られてしまった。
     おまけに当日の昼間、医師指定の薬を買いに来ていて、名前も住所も用紙に記入済みだったので、すぐに身元がばれ、夕方には警察が自宅に踏み込んで、たちまち御用となった。

    ゾンビ蜘蛛

     米テキサス州ヒューストンの私立ライス大の研究者たちが、死んだ生物をロボットとして甦えらせる科学の新分野を開拓した。
     名づけて〝ネクロバイオティクス(死の生命力学)〟と称するこの画期的新分野では、死んだ生物がロボット化されて使役される。
     ライス大の科学者たちは、実験対象の死んだコモリグモの長い8本足をミニサイズの〝空力式グリッパー〟に変え、電子工学部品を掴み上げて自由自在に運搬させることにみごと成功した。
     ゾンビよろしく甦ったロボット化コモリグモは、最大0・35ミリニュートンの把握力で自重の1・3倍の物体を持ちあげ、摩耗しきって使用不可能になるまでに、最低700回は作業できたのだ。
     だが、2022年7月28日付の「ボーイングボーイング・ドットネット」によると、蜘蛛の死骸をさらにビーズワックス(蜜蝋)で被覆さえすれば、脱水作用で蜘蛛の外骨格に亀裂が生じるのを先延ばしにできるだろうと、研究者たちは見込んでいるそうだ。

    偶然の3発

     完全な偶然だが、2016年6月10日、英国サフォークで、3人の庭師が5時間の内にそれぞれ別の3か所で、第2次世界大戦中の不発弾を地中から掘り出した。

    超遅配郵便

     1943年7月、当時18歳のビルことウィリアム・マイラー・コールドウェルは、英国海軍での教練の1週目を終えると、英リヴァプール市エグバース在住の叔父フレッド宛てに郵便葉書を出した。
    「僕もとうとう本物の海軍軍人になりました……この仕事がすっかり気に入っています」
     というビルの文面が記された、英国軍艦ラリー号の船首像が写っているその絵葉書は、コーンウォールで投函されたあと、どこをどうさ迷い続けたのか、それからなんと77年と7か月経った2021年2月12日、突然リヴァプール市エグバースのとあるテラスハウスの郵便受けに出現した。
     フレッド叔父はもう他界していたが、幸いなことにその縁者が住んでいて、葉書を受け取った。
     ビル・コールドウェルは数々の武勲を立てて、上等水兵にまで昇進し、4個の軍功章に輝いた。
     米軍が日本に原爆を投下した直後には、長崎に一番乗りした英国軍艦に乗り組んでいた。
     1996年にガンで亡くなったが、娘のエリザベス(58歳)は2021年2月15日付「デイリーテレグラフ」紙で、こう語った。
    「父がはるか昔に書き残した文字をこうして今、じかに目にすることができるなんて感無量です!」

    南山宏

    作家、翻訳家。怪奇現象研究家。「ムー」にて連載「ちょっと不思議な話」「南山宏の綺想科学論」を連載。

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