羊たちが大きな輪になってグルグル回りはじめた話など/南山宏のちょっと不思議な話

文=南山宏 絵=下谷二助

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    「ムー」誌上で最長の連載「ちょっと不思議な話」をウェブでもご紹介。今回は2023年9月号、第474回目の内容です。

    ナンバー2

     元鉛管工のダニエル・ロバーツ氏は、昨年春ついに念願叶って、イギリス本島沖のワイト島に建設した〝私立英国プー博物館〟の大成功にすっかり満足している。
     同博物館の売り物は、その名のとおりプー(つまり幼児語で〝ウンチ〟)で、象、狐、熊、羊、ライオン、パンダ、キリンなどありとあらゆる哺乳類から亀、鰐、蛇、蜥蜴、太古の恐竜などの爬虫類が残した排泄物、つまり糞のこと。
     無事に開館してからロバーツ氏は、すでにイタリアで半年前に同じようなプー博物館が開館していたことを知ってちょっと落胆したが、ナンバー2とは英語圏でウンチを意味する隠語と友人から教えられて、今ではすっかりご満悦。
     ちなみにナンバー1は、オシッコのほうを意味する。

    神を呑んだ男

     咽喉痛と呼吸困難をきたして飲食物を呑み込めなくなった男が、インドはベラガビ市の総合病院に緊急入院して、X線検査にかけられた結果、なんとヒンズー神クリシュナを型取った高さ5センチほどの小さな彫像が、喉に引っ掛かっていることが判明した。
     男の毎朝の習慣が、この神像を浸した聖水を飲むことで、当日はついうっかり、聖水ごと神像を呑み込んでしまったらしい。
     医師たちは内視鏡を使って、神像を首尾よく除去することに成功し、男は後遺症の微かな痛みは別にして、無事健康を取り戻した。

    名犬スポット

     オーストラリアのシドニーで、男性が蓋のない巨大浄水槽に真っ逆さまに転落するのを見たスポットという名の犬が、大急ぎで走って飼い主に知らせた。
     飼い主はすぐさま緊急救助隊に通報し、駆けつけた救助隊員が溺死寸前の男性を救出した。
     救助隊のスポークスマン曰く、
    「あのワンちゃんが助けを呼ぶ人の声を聞きつけなかったら、今ごろはメデタシメデタシで終わってなかったかもしれない」

    羊たちの回転

     中国の内モンゴル自治区で、羊の群れを監視している牧場の防犯カメラが、世にも不思議な羊たちの行動を撮影した。
     羊たちはある日突然、なぜか自然発生的に1か所で、グルグルグルグルと大きな輪になって回転歩きをしはじめ、その不思議な行動をなんと12日間も、昼夜ぶっ通しで継続させたのだ!
     13日目になってようやく、羊たちは疲労困憊してバタバタ倒れはじめ、奇怪な回転歩きがやんだ。
     回転羊たちの所有者、牧場主の苗さん(女性)の証言では、最初に回転を始めた羊はほんの数頭だったが、しだいにその数が増え、可哀そうに最後には、大半の羊がぶっ倒れて死亡したという。
     動物病理学の専門家によれば、もともと羊にはリステリア症(回旋病)という、その名のとおりぐるぐる歩き回るバクテリア性の奇病があり、感染した羊は拒食症に陥り、元気がなくなって通常2日以内に多くが死亡するという。
     その際、左右の脳のうち、このバクテリアが取り憑いた側の方向に回旋を始めるとされている。
     時にはそのバクテリア病原体が防御力の弱い人間の幼児や妊婦に感染して、死に至らしめることもあるが、幸いこの時には人間に感染者や死者は出なかった。
     このニュースを報じた「人民日報」2022年11月17日付によれば、牧場主の苗さんの話では、この奇病に感染したのは牧場内の第13囲いの羊だけで(13とはまた縁起の悪い数字!)、ほかの囲いの羊は何ともなかったそうだ。
     だが、英グロスター州のハートペリー大学農学部のマット・ベル教授は、回転死するまでの日数の長さからみて、ひょっとすると病原菌のせいではなく、別の可能性もありうると指摘する。
    「この羊たちはただ、長期間囲いの中に閉じ込められて、ストレスが溜まり過ぎただけなのかもしれない。本来が群れを作って生きる動物だから、みんなが同調してその場でぞろぞろと回転しながら、その溜まったストレスを発散しようとしただけなのかも!?」

    ファットバーグ

     近年、イギリスのテームズ河の流れがロンドン西部のハマースミス付近でコースを変えたのは、各家庭のトイレから下水道を経てテームズ河に流れ込む無数のウェットティッシュに加えて、近年海洋汚染の元凶として問題視されているプラスチックごみのせいだ、との見方が強まっている。
     使い捨てにされたウェットティッシュやプラスチックごみが、1か所に大量に溜まって小島を形成し、下水道設備の機能を大幅に低下させているというのだ。
     この不衛生でいかにもキモそうなごみ小島は、テニスコートをふたつ合わせたぐらいのサイズがあり、深さも数メートル、推定重量140トンにも達する。
     ウェットティッシュ自体もプラスチックを含み、ほとんど分解しないから溜まる一方で、そこに同じく使い捨てにされたオムツなどが加わり、廃油や洗剤などの油脂まみれになって固化してしまう。
     2022年6月24日付「タイムズ」紙によれば、当地では氷山(アイスバーグ)をもじって〝ファット(油脂)バーグ〟と呼び、その9割までが下水道をブロックして油脂を固化してしまうロンドン下水道の厄介者的存在という。

    迷走運転

     米マサチューセッツ州ボストン近郊のメルローズで、53歳のアンナ・ブッカーさん(仮名)が習いたての車の運転を誤り、車道から大きく逸れて、共同墓地の中に突っ込んでしまった。
     さらにブレーキのつもりがアクセルを踏み込んでしまい、運転していたレンジローバーで、並ぶ墓石を次から次へと、合計8基も薙ぎ倒してしまったのだ!
     その後、倒された墓石のうち2基は元どおりに復元できたが、残りの6基は墓石屋によって新調しなければならなかった。
     昨年4月17日付の「ボストン・ニュース」紙によれば、アンナと同乗していた友人は、幸い怪我もなく済んだが、車のほうはせっかくの新車がオシャカになった。

    南山宏

    作家、翻訳家。怪奇現象研究家。「ムー」にて連載「ちょっと不思議な話」「南山宏の綺想科学論」を連載。

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