3度目の〝晴明現象〟の今読みたい!「安倍晴明の一千年」 /ムー民のためのブックガイド
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謎多き存在、陰陽師。彼らは権力者や庶民から何を求められ、こたえ、消えていったのか。 陰陽師たちが用いた「呪物」の現物をはじめとする貴重な史資料から、その実態が明らかになる!
国立歴史民俗博物館(千葉県佐倉市)で、10月3日から企画展示「陰陽師とは何者かーうらない、まじない、こよみをつくるー」が開催される。陰陽師といえば、大スター・安倍晴明を筆頭に小説、映画やアニメでも根強い人気を持っているが、あたらまって「何者か」と聞かれると即答できる人は多くはないだろう。そんな謎めいた陰陽師のリアルを、史資料を通して解説してくれるのがこの展示だ。
百聞は一見に如かず、陰陽師が何者だったのかを知るのには、彼らが実際に使っていたモノを見るのがわかりやすい。数ある展示品のなかでも目にとまるのは、陰陽師たちが実際に使用した「リアル呪物」の数々だ。
たとえば以下のふたつの本。ひとつは「鎮宅祭次第」というもので、ゆるい落書きのようなユーモラスな絵が描かれているが、じつは江戸時代の陰陽師が書いた呪符のメモなのだ。呪符とはまじないに使う札のこと。用途にあわせて膨大な数があるため、陰陽師たちはそれぞれに自分用の呪符メモ帳をまとめていた。もうひとつは「占術・暦注雑書」で、これも陰陽師たちの占い用アンチョコ、手製マニュアルといったところ。
次の2点は、そのマニュアルの実践結果。それぞれ宇都宮市と東京都墨田区で出土したかわらけ(土器の一種)だが、そこには墨で奇妙な模様が書き込まれているのが見てとれる。書かれているのは全て呪符、陰陽師が用いた呪い(まじない)の符号だ。これらは家を建てるときに土地の神霊を鎮めるなどの目的で埋められたもので、数百年前に行われた呪術の痕跡といって間違いないものだ。
昨今のブームで世間にはさまざまな「呪物」が登場しているが、歴史的に誰がどんな目的で使ったかが明らかな「正真正銘の呪物」がずらりと並ぶ景色は、そう見られるものではないだろう。
こうした史資料に基づき、企画展示では陰陽師のはじまりからその終焉まで、約1000年にわたる歴史を学ぶことができる。
ざっくりとかいつまんでまとめると、中国から伝わった陰陽五行説などをもとにして、日本にローカライズされた陰陽道が誕生したのは古代、奈良時代頃のこと。当時の陰陽師は国家が管理する公務員であり、主な仕事は暦や天文に関する物事を司ることだったのだが、次第に占い全般を手がける存在として平安貴族たちに重用されるようになっていく。
貴族は、陰陽師に自身や一族についてのプライベートな吉凶判断のアドバイスを求めるようになる。あの安倍晴明も藤原道長に重用されたことで有名だが、陰陽師に個人的な占いを頼むのは、ある意味では貴族の公私混同だったのだ。
やがて政治の実権が貴族から武士へと移っていくと、陰陽師もパトロンを失い衰退……とはならなかった。武士にとって、戦場での吉凶判断は文字通り命を左右する問題であり、貴族以上に死活問題だった。そのプロフェッショナルである陰陽師は武士たちに求められ、中央を飛び出して占いや呪いの技術で武士に仕える在地の陰陽師が全国に誕生することになるのだ。
戦国乱世が終焉し太平の時代が訪れると、いよいよ陰陽師の命脈も尽きた……かと思えばこれも間違いで、江戸時代の陰陽師は吉凶判断によって権威を支える存在として、将軍や大名たちに必要とされるのだ。
占いは、第六感や霊感を駆使して行うものばかりではなく、統計学という面も持つ。正確な記録と実践が求められる占術、呪術の世界で、歴史に裏打ちされた膨大なマニュアルを持つ陰陽師は欠かせない存在であり続けたのだ。
そんな陰陽師は今も存在しているのかというと、残念ながらその最後は明確に断言できてしまう。徳川幕府が滅びて明治新政府が成立すると、明治3年、陰陽師たちが属する陰陽寮が廃止される。そして2023年のちょうど150年前、明治6年(1873)にはそれまで長く用いられてきた陰暦にかわり西洋の太陽暦が採用されることが決定する。それは、暦の作成とそれを用いた吉凶判断を職務としていた陰陽師が根本的に無用なものになってしまったことを意味した。古代から続いてきた陰陽師は、「文明開化」の世の中でついに終焉を迎えることになったのだ。
とはいえ、陰陽道そのものが日本から消え去ったわけではない。その思想は仏教や民間信仰などに流れ込み、現在まで継承されている。
陰陽師とは何者で、どのように生き、消えていったのか。改暦150年というアニバーサリーイヤーにこうした大規模な企画展示が行われることも、陰陽師たちにはお見通しだったのかもしれない。
企画展示「陰陽師とは何者かーうらない、まじない、こよみをつくるー」
会場:国立歴史民俗博物館 企画展示室A・B(千葉県佐倉市)
会期:2023年12月10日(日)まで(月曜休館、ただし10月9日は開館、翌10日休)
料金:一般1000円、大学生500円、高校生以下無料
詳細は公式サイトを確認。
https://www.rekihaku.ac.jp/outline/press/p231003/index.html
webムー編集部
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