変性意識を導く「詠唱」の凄まじいパワーとは!? 心身の安らぎを超越した神秘体験も!

文=仲田しんじ

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    野球やサッカーのサポーターによる応援、宗教における集団祈祷や読経など、集団で特定のフレーズを繰り返す合唱はチャント(Chant)、日本語では詠唱(えいしょう)などと呼ばれ、スタイルこそ違えどいずれの文化にも共通して存在するユニバーサルな行為として古来より人々の暮らしに根付いている。詠唱によって人々は薬物を用いることなく意識を変容させ、その場を共にする人々の一体感を高めていることがこれまでの研究で示されている。

    詠唱による意識変容と心身への影響

     心理学者であり、詠唱とその意識への影響を専門とする数少ない研究者の一人、ジェマ・ペリー氏。同氏は詠唱による意識の変容について「こうした体験には、圧倒的にポジティブな感情、時間と空間の歪み、そして自分と他者と自然との境界の喪失を伴うことが多い」と述べている。

     幻覚剤と同様に、詠唱によって変性意識状態を経験した人々は、その体験が人生で最も意義深いものの一つとなり、周囲の人々との「一体感」をより強く感じるという。また、詠唱はうつ病を軽減するとも報告されている。

     なぜ詠唱がこうした神秘的な体験を引き起こすのか正確には判明していないものの、研究者たちはいくつかの可能性を指摘している。

    1:詠唱は(たとえ無言の詠唱であっても)自分自身以外の何かに集中することを必要とし、それが反芻思考を和らげるのに役立つ。
    2:特定の音を声に出して唱えると迷走神経が刺激され、それがうつ病を軽減することが実証されている。
    3:他者と一緒に詠唱する場合、周囲の人々と同期しようとする努力に意識がより集中し、その同期が人との繋がりを促進する。
    4:共通の精神的信念に基づいた歌や音を他者と同期して唱える場合、それは脳や身体の多くのシステムに影響を与える可能性がある。

    ※画像は「MDPI」より

     意識変容状態に関してペリー氏は、「“自我の溶解”によって自然や周囲の人々と一体化しているように感じ、さらに“フロー”によって活動そのものと一体化しているようにも感じる」と説明する。

     ペリー氏によると、詠唱は幻覚剤と同じように「デフォルトモードネットワーク(DFN)」に作用するという。DFNは反芻思考や心配事などの自己言及的思考と関係しており、そのDFNの働きを変化させることで、人々の不安やネガティブな思考を和らげるのに役立つ可能性があるのだ。

     静かに瞑想するには強い集中力が必要とされるが、グループでの詠唱はそれを容易にし、数段上のレベルに引き上げもするという。自分の瞑想に集中するだけでなく、周囲の人々と発声、呼吸、そして相互の調和を保つことにも意識を向ける――つまり脳を周囲の振動に共鳴させるよう訓練することで、内省から抜け出し、社会的なつながりを強化する効果も得られるということだ。自分の内なるリズムが周囲のリズムと調和するようになるという意味だろう。

    vowによるPixabayからの画像

    神秘的境地に達することも

     ヒンドゥー教やバラモン教において神聖性を表現するマントラ(聖音)である「オーム」は、心身の深いリラックス、ストレス軽減、精神の集中と安定、そして細胞レベルでのエネルギー活性化効果が期待され、ヨガや瞑想の前後に心と身体を整え、内なる平和を感じるために唱えられる。

     インド・バンガロールにある国立精神保健神経科学研究所と先端ヨガセンターの研究チームは、このオームを詠唱する実践者と、別の音を詠唱する実践者の心身への影響を比較・検証している。

     研究チームは、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いて脳活動の変化を測定。オームを唱えることで耳の周りの神経枝を通して迷走神経が刺激されていることを突き止めた。迷走神経は自律神経系の中で最も長い神経で、脳と心臓、肺、消化器系をつないでおり、これを刺激すると心拍数と血圧が低下して不安も軽減される。まさに心の平安がもたらされるのである。

     オームを唱えた被験者では、扁桃体、前帯状回、海馬、島皮質、眼窩前頭皮質、海馬傍回、視床などの脳の部位が著しく不活性化しており、“雑念”が払底されていると考えられる。そして、別の音を詠唱した被験者にこのような不活性化は見られなかった。

    Gerd AltmannによるPixabayからの画像

    「文化的属性に関わらず、定期的に詠唱を行っている人々のうち60%が、こうした意識の大きな変化を経験したと報告しています」
    「人によっては本当に深い体験、つまり幻覚などを体験することもあります」(ペリー氏)

     ペリー氏によると、詠唱での「没入度」が高いと、美しい音楽に涙を流したり、壮大な風景に息を呑んだ時と同じような感動を覚える可能性が高いという。ペリー氏自身、うつ病を患っていた時期に詠唱を始め、それが心の安らぎをもたらすことを身をもって感じ、実際に神秘的境地に達したこともあるという。

    「私は、詠唱が世界にどのような影響を与えるのか興味があります。意識が変容して、あらゆるものと繋がっていると感じられたら、他者に少しだけ優しくなれるかもしれません」(ペリー氏)

     詠唱にはさまざまなスタイルがあるが、ポピュラーなのはヨガに基づくマントラ瞑想であるという。

     ほかにも作曲家のラインハルト・フレッシャー氏が1970年代に開発した詠唱法「TaKeTiNa(タケティナ)」は、特定の宗教的背景を持たずに集団詠唱による同期を通して自身の状態を変化させることを目的としており、音楽教育、演奏、セラピー、そして自己啓発など、幅広く活用されているという。

     詠唱による意識変容に興味を持たれた向きは、いろいろと情報収集をしてみてもよいだろう。

    ※参考動画 YouTubeチャンネル「TaKeTiNaR(EN) by Reinhard Flatischler」より

    【参考】
    https://www.popularmechanics.com/science/a71086631/chanting-altered-states-consciousness/

    仲田しんじ

    場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
    ツイッター https://twitter.com/nakata66shinji

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