古代人類「ホモ・エレクトス」は独自の宗教をもっていた!? 現生人類は彼らの真似をした可能性も

文=仲田しんじ

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    宗教の起源はひょっとするとホモ・サピエンス以前にさかのぼるのだろうか――。ある科学的論考では、50万年前に絶滅したホモ・エレクトスが、神々を崇拝し、儀式を行い、精神的な体験を求めた最初の存在であった可能性が示唆されている。

    宗教の起源に関する謎

     宗教的風習は世界中の社会に広く浸透しており、それぞれの文化による違いはあるものの、宗教を重視する心は人類に特有の普遍的な信念体系である。

     宗教の起源をさかのぼって考えるには、宗教とは何かという概念を定義する必要がある。フランスの社会学者、エミール・デュルケーム(1858~1917)は、宗教を狩猟採集民の定期的な集会から生じる感情的な活力と定義した。狩りの獲物をみんなで分け合ったり、採集した食物を持ち寄ってシェアすることでコミュニティの結束を強め、宗教的儀礼に発展していったというのだ。

     この定義に基づけば、現生人類が宗教の創始者ではない可能性もあり得ることになる。実際、ホモ・サピエンスの祖先であり、かつて世界中で繁栄していたヒト属のホモ・エレクトスが独自の宗教をもっていた可能性が示唆されているのだ。

     今から150万年前から50万年前のホモ・エレクトスが支配していた時代を詳細に調査すると、ホモ・エレクトスが儀式への理解と道徳的責任感を育んでいたことが示唆されている。これは本格的な宗教的慣習とは言えないものの、その前の先祖たちとは明らかに異なる変化が示されている。

     これを示唆する興味深い事例の一つとして、インドネシア・ジャワ島における人食いと遺体損壊の証拠が挙げられる。そこで発見された頭蓋骨には脳と頭部の皮膚が意図的に切除された痕跡があるのだが、宗教的儀礼によるものかもしれないというのだ。

    画像は「Wikimedia Commons」より

    ホモ・エレクトスはシャーマニズムの始祖!?

     では、このホモ・エレクトスの宗教とはいったいどのようなものだったのか。

     歴史系サイエンスライターのカート・リードマン氏によれば、旧石器時代の宗教は多神教であった可能性が高いという。つまり、ホモ・エレクトスは多くの神々を崇拝していたということだ。多神教の風習は、記録に残る歴史において一神教よりも古くから存在しており、ホモ・エレクトスの社会も多神教のスタイルで神を崇拝していたのではないかという。

     そして最初期の宗教はおそらく迷信的で、十分な食料や住居の確保といった“現世利益”を重視していたほか、シャーマニズムが主要な部分を占めていた可能性が高い。この場合のシャーマニズム、つまり広い意味での霊的体験は意識状態の変化を伴うことが多く、実践者は恍惚状態や極限の心理状態に陥り、精霊との交信が可能になる。そしてシャーマニズムはドラッグと分かち難く結びついている。

     一節によれば、歴史を通して薬物使用と宗教の間には強い相関関係があるというが、先史時代のシャーマニズムにおいてホモ・エレクトスがハイになることを好んでいた可能性もある。ホモ・エレクトスは皆で集まって、マジックマッシュルームなどを摂取してハイになっていたのだろうか。

     ちなみに、アメリカの民族植物学者であり神秘主義者、さらに向精神薬の提唱者でもあるテレンス・マッケナ(1946~2000)は、「ストーンドエイプ仮説」を提唱し、シロシビン成分が含まれたキノコの常用が、ホモ・エレクトスからホモ・サピエンスへの進化の過程で脳サイズの劇的な増加を促進したと主張している。

    Jack DrafahlによるPixabayからの画像

    ホモ・サピエンスは彼らの宗教を借用したのか?

     ホモ・エレクトス後期の遺物である幾何学模様の貝殻彫刻は、ホモ・サピエンス前期と伝統様式と同様であることが判明しており、彼らの高いクリエイティビティを物語っている。

    女性を象ったと考えられる後期旧石器時代の小像の総称であるヴィーナス小像 画像は「Wikipedia」より引用

     また、ホモ・エレクトスの遺跡からは、後世の人類文明が生み出した「ヴィーナス小像(Venus of Tan-Tan)」とよく似た遺物も発見されている。これらの描写は、人間の姿を忠実に再現しており、初期人類にとって豊穣と出産の奇跡が重要なイベントであったことを示唆しているのだ。

     さらにホモ・エレクトスは、黄土のような赤色顔料を意図的に収集した最古の人類であると考えられている。意図的に形を整え、削って装飾を施した棒が数多く発見されている。

     さらにホモ・エレクトスは、人類よりも前に火を使っており、顔料を加熱することでさまざまな色を生み出していた可能性もある。ホモ・エレクトスにとって意識的な美的選択だったのかもしれない。

    Jack DrafahlによるPixabayからの画像

     彼らの身の回りの装飾は、周囲の世界に対する精神的な理解――きわめて初期の宗教的行動の形態――を示唆するものにほかならない。ホモ・エレクトスとホモ・サピエンスの間には顕著な違いがあるが、少なくとも宗教に関してはホモ・サピエンスが実践していたものと類似した儀式的な信仰や行動が見られたのだ。とすれば、ホモ・サピエンスの側がホモ・エレクトスの宗教を真似て導入した可能性も考えられる。

     残念ながらホモ・エレクトスが死者を弔っていたという証拠はまだなく、(もっと多くの発見がもたらされるまでは断言することはできないが)それでも初期ヒト属における宗教の起源はきわめて興味深いテーマであることは間違いない。

    ※参考動画 YouTubeチャンネル「Ancient Survivors」より

    【参考】
    https://www.historicmysteries.net/p/god-and-the-dawn-of-man-did-homo

    仲田しんじ

    場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
    ツイッター https://twitter.com/nakata66shinji

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