君は有名心霊スポットで霊圧に忖度したことはあるか?/大槻ケンヂ・医者にオカルトを止められた男
大槻ケンヂの連載「医者にオカルトを止められた男」が二見書房より書籍化される。刊行を祈念して、書きおろしコラムを期間限定公開!
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伝説のV系バンドのメンバーが語る怪奇体験。ツアー先で、PVの収録現場で、それは発生していた。
漆黒に鮮血、鎖に十字架……ヴィジュアル系バンドの世界観には、ゴシックやホラー、オカルトといった要素が宿りがちだ。
では、当のV系バンドマンたちは、怪奇現象に遭遇したことがあるのだろうか。ライブハウスやホテルなどで、何か“不思議なこと”が起きていたりしないか?
もし、同じ場所で複数のアーティストが似た体験をしていたら……?
そしてその場所、ひいては土地に、「何か」があったとしたら。
そんな仮説のもと、情報を集めるべくチャンレジする本企画。第1回目となる今回は、90年代~2000年代初頭のV系シーンを熱狂させた伝説のバンド「PIERROT」のギタリスト潤さんに話を聞いた。
万が一、ご存じのない方に説明しておこう。「PIERROT」は90年代ヴィジュアル系ブームの終盤を象徴する存在として、熱狂的な支持を集めたV系バンド。哲学や死生観を内包したVo.キリトの歌詞とダークな音楽性が注目を集め、当時のデビュー最短記録で武道館とドーム公演を成功させた。「ピエラー」と呼ばれる熱狂的なファンを生み出すも、2006年に解散。2014年、2017年、2024年に一時的な再集結を果たし、2025年2月に約10年ぶりとなる単独コンサート「END OF THE WORLD LINE」を開催している。

子供の頃から月刊「ムー」を愛読していたという潤さん。怖い話は大好きだが、自身については「霊感があるとは思っていない」と語る。にもかかわらず、不思議な出来事に何度も遭遇してきたという。
「僕、心霊現象についてはどちらかというと懐疑派で、完全に信じているわけではないです。でも、説明のつかないような体験は何度かしています。周りの人からそういった話を聞くことも多いですね。たとえば、PIERROTは昔から『武道館でライブをやると、白いドレスを着た女の子の霊が出る』と有名でした」
PIERROTの武道館ライブには、白いドレスの女の霊が出る――そのウワサは、古いV系ファンなら一度は耳にしたことがあるのではないだろうか。筆者自身も聞き覚えのある話だ。
「当時、何人もの方から、『ライブ中に白いドレスを着た女が、演奏しているメンバーの前を下手(しもて)から上手(かみて)に向けて走っていった』と聞きました。決まって、武道館ライブのときだけ現れていたそうです。僕たちにはまったく視えていなかったんですけどね……」
その霊はライブ中だけでなく、開演前後にも目撃されていたという。
「武道館の敷地内に噴水があるんですが、そこに佇んでいたとか……。僕たちに何か影響があったわけでもないので、ただ純粋にPIERROTが好きで、ライブを見に来ていただけなのかもしれません。なぜ武道館限定なのかは、謎ですが……。余談ですが、当時はファンクラブの会報に、ファンから寄せられた写真を紹介するコーナーがありました。そこに、武道館の敷地内で撮られた心霊写真が送られてきたことがあって。草むらの中に“白いゴブリン”のようなモノが写っていたんです。さすがに掲載できませんでした(笑)」
正体不明の白いゴブリン。もしかすると、白いドレスの女の別の姿だったのだろうか。そしてPIERROTの活動中に起きた不可解な出来事は、これだけではなかった。
「メジャー7枚目のシングル『神経がワレル暑い夜』の撮影で使用した病院で、おかしなことがありました。建物自体は比較的新しかったのに、ナースセンターだけが封鎖されていて、入れないようになっていたんです」
気になった潤さんは、隙間からそっと覗いてみた。すると、カルテが床一面に散らばっているのが見えたそうだ。
「それだけなら『誰かが荒らしたのかな?』と思うじゃないですか。でも、荒れた部屋に響きわたるかのように、ナースコールがピピピッと鳴っていたんです。僕たちが撤収するまで、ずっと鳴り止まなかった。まるで誰かが病室から呼び出しているかのようでした……」
この出来事だけでも十分に背筋が寒くなるが……「脳内モルヒネ」のPV撮影をおこなった廃病院でも、異変が起きたという。
「そこは東京郊外にあった廃病院で、当時撮影スタジオとして貸し出されていました。あそこは本当にヤバかった……」
今は取り壊されたその病院は、潤さんの記憶によると、地上5階建てで地下もあったという。しかし撮影に訪れた際、3階に上がる階段がバリケードのように塞がれていたそうだ。
「板のようなもので全面的に封鎖されていて。『何でだろう?』と眺めていたら、人ひとりくらいなら入れそうな隙間を見つけました。そこから中を覗いてみたものの、真っ暗で何も見えなかった。光が一切入ってこないような、おかしな塞ぎ方をしていたんです。撮影前にメンバー同士で、『じゃんけんで負けたヤツが、ビデオカメラを持って中を徘徊しよう』とふざけて話していたのを覚えています」
結局バリケードの先には忍び込まなかったものの、その後のPV撮影中に不可解なトラブルが連発した。
「急に音が止まったり、近くにあったガラスがいきなりパンっと割れたり……。あとから知ったのですが、閉鎖されていた3階より上は、精神病棟だったそうです。『悪ふざけをするな』という警告だったのかもしれませんね」

怪奇現象は、ライブや撮影だけにとどまらなかった。
「昔、埼玉の東浦和にあったリハーサルスタジオを使ったとき、ちょっと変なことが起こりました。地下のスタジオで練習していたとき、とあるメンバーが『女の子の声が聞こえた』と言い出して……。そのときは『気のせいかも』と笑っていたんですが、後日そこのスタッフに話したら、『地下のスタジオだけ女の子の霊が出るんですよ』と。バンドマンたちからの目撃情報も多かったみたいです」
潤さんの周りで次々と起こった不思議な現象。ツアー先のホテルでも、身の毛もよだつ出来事がバンドスタッフに襲いかかった。
「20年以上前、PIERROTのツアーで大阪に行ったとき、あるホテルに泊まりました。内装がちょっと古い、洋館のようなホテルです。当時は『夜走り』といって、ライブが終わったら大型バスでメンバーとスタッフが一緒に次の土地へ移動していたんです。その日も夜中の1時に大阪に着いて、そのままホテルにチェックインしました」
ホテルに入った瞬間、潤さんは異様な雰囲気を感じた。寒々しい気配が、まるで足元から這いずり上がってくるようだったという。
「事前にスタッフから『出るらしい』と聞いていたので、恐怖感から錯覚したのかもしれません。15階建てくらいのホテルで、僕は8階に泊まることになり、エレベーターに乗りました。すると、13階のボタンが真っ黒に塗りつぶされていて、押せないようになっていたんです」
疑問に思いながらも、気にすることなく部屋に行き、何事もなく一晩を過ごした潤さん。だが翌朝、スタッフのひとりが真っ青な顔でこう切り出した。
「『部屋に出た』と……。そのスタッフは12階に宿泊していて、お酒を飲んで寝ていたそうです。すると、何かの気配がしたらしくて……。パッと目を開けたら、部屋の中にルームサービスのワゴンを持った男性が立っていたそうです。おかしいですよね。普通、客に無断でホテルマンが部屋に入ることはありませんから。でも寝ぼけていたし、酔っていたから、『何も頼んでいないですよ』と声をかけて、再び寝たらしいんです」
朝になり、フロントに確認しにいったスタッフ。しかしそのホテルでは、ルームサービス自体を提供していなかった。
「どうやら、『昔13階で火災があり、何人か亡くなった。上下の階に霊が出る』というウワサがあったそうです。12階に泊まると、天井から逆さに人が出てくる、とか。今はもう潰れてしまったホテルなので、本当に火災があったかは分かりません」
狙ったかのように「13階」というのが、出来すぎている……筆者がそう呟くと、潤さんも「ちょっと嘘臭いくらいですよね」と笑って返してくれた。

奇妙な出来事を数多く見聞きしてきたにもかかわらず、潤さんは「僕に霊感はないし、スピリチュアル的なものを信じているわけでもない」と繰り返す。しかし時折、「説明のつかない何かに導かれる感覚」があるのだという。
「僕自身は『運命』というものに対しても、半信半疑なんですが……じつは物心がついたときから、武道館に立っている自分の姿が、映像記憶として見えていたんですよね」
一枚絵のように、武道館に立つ光景が見えていたという潤さん。しかし幼い頃は楽器が苦手で、自身がギタリストになるとは思っていなかったとか。
「学校の音楽の授業でリコーダーや鍵盤ハーモニカをやらされたけど、どうしても好きになれなかった。中学でバンドブームが来たときもボーカル志望だったんですが、毎回ほかの子に『俺がやる!』って先を越されてしまって。結局ギターをやることになり、そこからギタリストの道を歩きはじめました。今思えば、そうなるように導かれたのかもしれません」
PIERROTのボーカル・キリトさんとの出会いの前にも、象徴的な出来事があったそうだ。
「当時バイトをしていたBARに、『手相を見れる』というおじさんが来店しました。『兄ちゃん、見てあげるよ』と声をかけられたので、酔っ払いの遊びだろうと思って手を見せたら、『仲間を探せ。そうしたら道が開ける』と言われて。キリトと出会ったのはその後すぐくらいだったと思います。働いていたBARに彼がやってきたことがきっかけで、PIERROTの全身となるバンドを組むことになったんです」
のちにバンドで上京する際も、「自分の意思だけでは動けなかったかもしれない」と潤さんは振り返る。
「上京を考えていたときに母親が事故に遭い、半身不随になってしまいました。『これは実家を出られないな』と思っていたものの、先に上京していたキリトは、『まだ来ないの』とずっと電話をくれていた。思い切って両親に相談したところ、『男は家を出るものだから、頑張った方がいい』と快く送り出してくれたんです」
思いがけない事故と家族の変化。夢を諦めてもおかしくない状況の中で、潤さんの背中をそっと押してくれたのは、両親の言葉だった。そうしてたどり着いたのが、幼い頃から“見えていた”武道館のステージだ。

偶然とも、必然ともいえる出来事をいくつも経て、潤さんは自分の人生が「導かれてきた」と感じるようになった。それを強く意識したのは、“憧れの存在”を失った後のことだと、彼は静かに語る。
「年齢を重ねるにつれて、近しい人の死に直面することが増えました。別れを乗り越えるたび、少しずつ死を前向きに受け入れるようになっていった。ただ、BUCK-TICKの櫻井敦司さんが亡くなったときは、さすがに生きる活力がわいてこなくなりました。彼は僕の神様だったので、『あ、神様も死ぬんだ』と思うと、精神的に堪えてしまって」
BUCK-TICKは80年代から活動を続け、ダークで耽美な世界観を貫いたヴィジュアル系の先駆者的バンド。そのボーカルを務めた櫻井敦司さんは、カリスマ性と表現力で多くの後進に影響を与えてきた存在だ。それは潤さんにとっても例外ではなかった。
櫻井敦司さんが死去する前年、当時組んでいたバンド「ALvino」のメンバーであるKOJIさんとの死別も経験していた潤さん。立て続けの訃報に、彼が感じたものは計り知れない。
「そんなとき、PIERROTの再集結が決まったんです。もともと『もう一回やろう』という話は何年も前から出ていたんですが、なかなか決まらなくて。だけど、僕が精神的に落ちているタイミングで、急にバッと話が動いたんです」
「やるしかない」というスピードで物事が進んでいき、2024年10月、同時代にV系シーンを牽引し、ともにしのぎを削ってきたDir en greyとのライブ「ANDROGYNOS- THE FINAL WAR -」が開催された。
「ANDROGYNOSの準備と並行して、PIERROTのワンマンライブも決まって。落ち込んでいる暇もありませんでしたね。そして今年2月にワンマンやったとき、すごく心地よさを感じたんです。メンバー全員の気持ちが同じ方向に向いていて、ひとつになっている感覚があった。それを感じたときに、『俺にはまだ、やらなきゃいけないことがあるんだな』と思わされました」
「ちょっと不思議ですよね」そう語る潤さんの表情は、どこか確信めいていた。人生の節々に現れる小さな違和感や偶然の積み重なり。それらをどう捉えるかは、人それぞれだ。ただひとつ言えるのは——彼はまだ、“何か”に導かれている途中なのかもしれない。

潤 official site:https://jun-0504.bitfan.id/
潤 official Instagram:https://www.instagram.com/jun_official54/
潤 official X:https://x.com/ALvinoJUN
PIERROT official site:https://pierrot.jpn.com/
PIERROT「LASTCIRCUS」先行上映会
2025年12月12日(金)19:00~(5月17日公演上映)
2025年12月13日(土)16:00~(5月18日公演上映)
会場:https://liveviewing.jp/pierrot_lastcircus/
チケット一般販売(先着):2025年11月29日(土)18:00 ~12月11日(木)12:00
◎イープラス: https://eplus.jp/pierrot_lastcircus_lv/
◎全国のファミリーマート店舗
潤solo album『Meaning of Gravity(通常版)』発売中
【収録曲】
倉本菜生
寺生まれオカ板育ち、京都在住。
魑魅魍魎はだいたい友達なルポライター、日本史研究者。
オカルト×歴史学をテーマに、心霊スポットや怪談の謎を追っている。
住んでいるマンションに何かいる。
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