ペルシア湾に巨大海竜が棲息! 1936年に報じられていた水棲UMA事件/並木伸一郎
デジタル化された1930年代の古新聞の記事が話題になっている。イランやイラクなどに囲まれたペルシア湾で、謎の巨大水棲獣が目撃されていたのだ。 広大な海には知られざる巨大生物が存在している――。歴史の闇
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毎回、「ムー」的な視点から、世界中にあふれる不可思議な事象や謎めいた事件を振り返っていくムーペディア。 今回は、1000年もの昔から語り継がれてきた、トルコのヴァン湖に潜む伝説の巨大水棲獣を取りあげる。
ジャノは、トルコのヴァン湖に棲むといわれる巨大水棲獣である。ジャノというのはどうも日本だけの呼び名らしく、トルコ語で「怪獣」を意味する「ジャナワール」が縮められたものらしい。海外では一般に「ヴァン湖の怪獣」と呼ばれている。
ジャノが棲むといわれるヴァン湖は、トルコ東部アナトリア地方のヴァン県とビトリス県にまたがって位置する、同国最大の湖である。この湖は、約60万年前の地殻変動で地面が大きく陥没したところに、周辺の河川から流れ込む水が溜まってできたものだ。
最大幅は119キロあり、平均水深は171メートル、最大水深は451メートルとなる。面積は3755平方キロで、日本最大の湖である琵琶湖が669平方キロだから、その5.6倍ほどもある。

ネッシーが目撃されるスコットランドのネス湖よりも、遙かに大きい。また、ノアの方舟伝説で知られるアララト山も比較的近くに位置している。
この地域は、古くはアルメニア高原、あるいは大アルメニアと呼ばれており、紀元前1000年ごろからウラルトゥ王国と呼ばれる古代王国が栄えていた。
しかし、その後はアケメネス朝ペルシア、共和制ローマ、パルティア、ササン朝ペルシアなど、幾多の世界帝国による争奪の対象となり、最終的にオスマン帝国の支配下に入って、そのまま現在のトルコ共和国の領土となっている。現在ではこの地域の住民の大多数がクルド人である。
こうした古い歴史を反映し、ヴァン湖の湖底にはウラルトゥ王国時代の都市遺跡も確認されており、湖上の島々には、アルメニア使徒教会の遺跡や修道院跡などの遺跡も残されている。
そうした遺跡のひとつ、アクダマル島にある聖十字架教会には奇妙な浮彫が存在する。915年に建てられた教会の石造りの外壁には、さまざまな浮彫が彫られているのだが、そのひとつに、船の下に潜む怪獣のような姿が描かれているのだ。

怪獣は魚の胴体に猛獣のような頭をもち、ちょうどシンガポールのマーライオンのような姿だ。大きさは4人の人間が乗る船と同じくらいで、しかもそのうちのひとりが他の3人に抱きかかえられ、まるで怪獣の生け贄にされようとしているように見える。

この教会は915年に建設されたものであり、ヴァン湖に怪獣が棲むという伝説は1000年以上前から伝わっていたことになる。
ヴァン湖の怪獣については、ほかにも伝説が残る。
5世紀のアルメニアの年代記作者モヴセス・コレナツィや、7世紀の自然哲学者アナニア・シラカツィは、ともにヴァン湖に棲んでいた「ヴィシャプス」という怪獣についての神話を書き残している。
ヴィシャプスとは、アルメニア神話における竜であるが、この神話によると、ヴァン湖には世界を飲み込めるほど大きな竜が何匹も棲んでいた。そこで竜殺しの異名をもつ神ヴァハグンが、湖に潜って全部引きずりだしたというのだ。
これらの神話や教会の浮彫は、ヴァン湖に怪獣が棲むという伝説がかなり古い起源をもつことを示している。
さらに17世紀の高名な旅行家エヴリヤ・チェレビも、彼の著書『旅行記』の中で、ヴァン湖の怪獣について述べている。それによれば、チェレビがヴァン湖周辺に旅行したときに、地元民から怪獣の存在を聞いた。彼らはチェレビを、怪獣が棲むと述べるヴァン湖の岸の洞窟へ連れていき、怪獣の子どもがこの洞窟に棲んでおり、しばしばそこから出てヴァン湖に入り、狩をすると洞窟に戻ると述べたという。チェレビ本人は、怪獣を見ることができなかったが、声を聞いたという。


そして1889年には、当時のオスマン帝国の日刊紙に怪獣についての記事が掲載された。
この年の4月29日付「サーデト・ニュース」の記事によれば、3人の男がヴァン湖西岸の町タトヴァンから少し北にあるアフラに旅行した際、ヴァン湖の近くでキャンプをした。
イスラム教の礼拝を行うため、3人が湖水で手を洗おうとしたとき、巨大な怪獣が現れてひとりの脚を捉え、湖に引き込もうとしたという。ほかのふたりが何とか助けようとしたが、怪獣の力は強かった。そこで、キャンプの火から燃えている木を取ってきて攻撃すると、怪獣は叫び声をあげたものの男を離さず、結局彼は湖に引き込まれて二度と見つからなかった。
その後、事件の続報も掲載されている。それによれば、オスマン帝国政府が公式の科学調査団を湖に送ったが、怪獣を見つけることはできなかったという。


この事件から100年ほどの間、ジャノの目撃報告は確認されていない。しかし、1990年代になってからいくつもの目撃報告が寄せられるようになり、トルコのみならず世界中の注目を集めるようになった。ジャノの姿をビデオ映像に収めたという事例も何件もあるが、特に有名なのが、1997年5月に撮影されたものだ。


このビデオを撮影したのは、湖畔のヴァンの町にあるユズンジュ・ユル大学で助手を務めるユナル・コザックという人物で、この映像はアメリカのCNNでも放映されて世界的に知られるようになった。
その後、コザックはユズンジュ・ユル大学のムスタファ・ヌトゥク教授と一緒に、『ヴァン湖の怪獣』というトルコ語の本を書いており、本書には多くの目撃証言が集められ、想像図なども掲載されている。



もっとも、このコザックのビデオ映像については当初から数々の批判がなされていた。
映像では、湖面に浮かんだ生物の頭部のようなものが大写しにされ、上下することもなく静かに右から左に湖面をすべっていく。この様子について、最初から遠方の物体に焦点を当てており、アップになっているのはおかしいとか、怪獣はまったく上下することなくまっすぐ進んでおり、左右にカメラを動かさないのは進行方向にボートがあって模型を引っ張っているからだ、などの批判が寄せられていた。
実際、日本のノンフィクション作家でUMA研究家でもある高野秀行が2006年、友人ふたりと一緒に現地を訪れた際には、コザックは模型を作って撮影したことがばれ、その後消息不明になっていたそうだ。
他方、ジャノについてはほかにも多くの目撃証言がある。しかも、時には数十人が同時に目撃することもあり、2匹あるいは3匹が同時に確認されたこともある。それらの証言を総合すると、体長は15メートルから20メートル。しかしもっと小さなものが目撃されたこともある。色は黒あるいは濃い茶色で、背中がぎざぎざになっているという報告もいくつもある。
身体を上下にくねらせるように動き、時速60~70キロの高速で泳ぐこともあれば、ただ水面に浮かんでいることもある。人によっては、真上にジャンプするのを見たとか、鳴き声を聞いた、クチバシを見たとも述べている。
前述の高野秀行一行は、現地でこうした証言を可能な限り確認しようとしたが、彼にとってはどれも信用できるものとは思えなかった。さらに、現地住民の大多数も、ジャノの存在については否定的だった。
代表的な否定説としては、鳥や魚の見間違いというものや、観光振興のためにだれかがでっちあげたとする説、さらには、クルド問題を隠蔽するために政府が仕組んだ、とするものもあった。
この最後の説は、ジャノが話題になった1993年から1997年にかけては、ちょうどクルド人の独立を求める結社PKKと政府軍の戦闘が激化し、何十万のクルド人が政府の圧迫でヴァン周辺に移住した時期にあたり、政府がこうした問題から目をそらすため、ジャノの騒動を生みだしたのだとする。
現地調査でこのような証言を得た高野たちは、ジャノは実在しないという結論に傾いて帰国しようとした。ところが、帰国の直前、高野たち自らが、湖面に奇妙な黒い物体を目撃し、ビデオに撮影するという事件が起きた。
高野秀行著『怪獣記』によれば、ほぼ調査を終えて現地ドライバーの叔父の家に向かう途中、日本からのメンバー3人と現地ガイド、それにドライバーの計5人が、湖面に黒いものが浮き沈みしているのを見た。この物体は、大きさが10メートル以上もあり、浮きあがるときに水を噴きだしているようにも見えた。あっけにとられた高野たちの前で、物体は40分も浮き沈みを繰り返し、やがて夕暮れとなって薄暮の影に見えなくなった。
高野たちは撮影したビデオを、早速現地ドライバーの叔父に見せたが、このようなものは見たことがないという返事だった。
翌日、魚に詳しいというユズンジュ・ユル大学のファズ・シェン教授にも見せたが、教授は、動物ではないのではないかと述べるのみだった。
ただ、その場にいた学生の中には、植物か岩がのぞいていたのではないか、という者もいたので、高野らは目撃現場に戻り、ボートで怪獣がいたらしき場所まで湖面を移動し、水中を確かめた。しかし、そこには岩も植物もなかった。
日本に戻って関係者の意見を求めたところ、沖野外輝夫信州大学名誉教授は、湖底の硫化物が硫化ガスとなり、湖泥をともなって湖面に浮上した可能性があると指摘した。しかし、物体は40分も浮き沈みしている。硫化水素ガスで浮きあがったのなら、ガスが抜けると同時にそのまま沈んでしまうはずだ。
結局、高野一行が見たものの正体は不明のままであり、ヴァン湖に実際に謎の生物が潜んでいる可能性が残る。
ではその正体は何なのだろう。
ジャノ実在説支持者の間では、潮を吹いたり、身体を上下にくねらせるという特徴から、約4000万~3400万年前の始新世に棲息していたバシロサウルスの生き残りではないかとする者もいる。しかし、バシロサウルスは現在のクジラ類と違って鼻孔が頭頂にはないため潮吹きはできない。それに尾びれが未発達で、時速60キロもの高速で泳ぐことはできなかったものと見られている。どうもジャノの正体としては適切でないようだ。
なお、湖岸の町ゲバシュの中心には、ジャナワールの像も建てられている。

●参考資料=『怪獣記』(高野秀行著/講談社)、『未確認動物UMA大全』(並木伸一郎著/学研)
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