瞑想とマインドフルネスの知られざる副作用とは!? 見直される潜在的リスク

文=仲田しんじ

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    今やポピュラーな心身の健康法として広く理解されている瞑想。実は、実践後のうつや不安障害などの副作用も報告されている。マインドフルネスを手放しで万人に推奨するわけにはいかないのかもしれない――。

    語られないマインドフルネスの副作用

     本来「マインドフルネス」とは仏教に基づいた瞑想の一種で、現在の瞬間に自分が何を感じ、何を考え、何をしたいのかを意識することに集中し、メンタルヘルスの増進を促すことが期待されている。

     自宅で無料で実践できるため、ストレスや精神衛生上の問題にとって最適な解決法のようにも思えるが、科学メディア「Science Alert」によれば、マインドフルネスには実は副作用があることが指摘されている。

     仏教的瞑想の副作用について、実は古来よりインドで報告されているという。1500年以上前の仏教徒コミニュティの記録にはさまざまな症例が記されており、瞑想後に起こりうるうつ病や不安の症状についての報告がある。

     仏教徒は一般的に、解脱への道には完全な集中、超自然的な洞察、あるいはその両方が必要であると考えている。そのため、集中力が得られないことや洞察力が失われる可能性についての懸念に必要以上に苛まれ、その結果として精神に変調をきたす可能性があるというのだ。そして仏教徒は、このような状態を病気とみなし、「瞑想病」と呼ぶことさえあったようだ。

     マインドフルネスの分野では科学研究が急速に進んでいることから、「瞑想病」のような副作用がレアケースではないことが示されている。

     2022年の米ウィスコンシン大学の研究では、定期的に瞑想する953人を対象とした調査で、参加者の10%以上が日常生活に深刻な悪影響を及ぼし、症状が少なくとも1か月続いたことが示されている。

     また過去40年以上にわたる83件の研究レビューによると、最も一般的な副作用は不安と抑うつで、これに続いて、妄想症状、解離または離人症、そして恐怖または強い恐怖が続くことが報告されている。

     これらの研究では今まで精神衛生上の問題を抱えたことのない人や、瞑想の中級者にも悪影響が起こり、長期にわたる症状につながる可能性があることも判明した。

     もちろんマインドフルネスが心身の健康に良い影響を与えるというエビデンスも数多くあるのだが、問題はマインドフルネスのコーチ、ビデオ、アプリ、書籍などが、その潜在的な悪影響について警告することがほとんどない点である。

     経営学教授で仏教の導師でもあるロナルド・パーサー氏は、2023年に出版した著書『McMindfulness』の中で、マインドフルネスは一種の「資本主義的精神性」になってしまったと述べている。つまり、マインドフルネスはもはやビジネスになっているというのだ。とすれば、自ずからマイナス要素は語られない傾向にあるのかもしれない。

    Honey Kochchaphon kaensenによるPixabayからの画像

    マインドフルネスは児童の精神的健康を改善しない

     アメリカだけでも瞑想についての市場規模は22億ドル(約3300億円)に達しているだけに、マインドフルネス業界は瞑想についての社会的責任を負うべきだとの声も上がり始めている。

     マインドフルネス運動の中心人物であるジョン・カバットジン氏は、2017年の英紙「The Guardian」のインタビューで「(マインドフルネスのプラスの影響についての)研究の90%は標準以下です」と認めている。

     マインドフルネスに関するメディアの議論にもやや偏向が見られる。

     2015年、瞑想の専門家であり英コベントリー大学准教授のミゲル・ファリアス氏と臨床心理学者のキャサリン・ウィクホルム氏の共著『Buddha Pill』は(瞑想の副作用に関する研究をまとめた章も一部含まれるが)、科学誌「New Scientist」の記事や「BBCラジオ4」のドキュメンタリーなど、メディアで広く取り上げられている。

     その一方、研究慈善団体「ウェルカム・トラスト」が12億円以上を資金提供し、瞑想科学史上最も費用のかかった研究については、2022年にメディアでほとんど報道されなかった。

     この研究では、2016年から2018年にかけてイギリスの84校の8000人以上の児童(11~14歳)を対象に検査が行われた。その結果、マインドフルネスは対照群と比較して児童の精神的健康を改善しないばかりか、精神衛生上の問題を抱えた児童には有害な影響が及ぶ可能性さえあることが示されていたのだ。

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    瞑想を安全に実践するために

     マインドフルネスアプリを販売したり、瞑想クラスを教えたり、あるいは臨床現場でマインドフルネスを実践したりする際、その副作用について言及しないことは倫理的に問題ないのか。こうした副作用がいかに多様で一般的であるかを示す証拠を考慮すれば、確かに倫理的に問題があるはずだ。

     しかし瞑想やマインドフルネスのインストラクターの多くは、瞑想の実践は良い影響しかないと固く信じており、悪影響の可能性についての知識が不足している。

     瞑想の副作用に苦しんだ人から最もよく聞くのは、インストラクターやコーチがメンタルの不調を信じてくれないというケースである。たいていは、ただ瞑想を続ければ症状は治まると言われるというのだ。

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     瞑想を安全に実践する方法に関する研究はごく最近始まったばかりで、まだ人々に明確なアドバイスを与えることができずにいる。瞑想は特殊な意識状態を扱うものであり、これらの状態を理解するのに役立つ心理学的理論が存在しないという問題もある。

     しかし、これらの副作用について学ぶためのリソースは存在する。深刻な副作用を経験した瞑想者が作成した個人的なウェブサイトや、この症例に特化したセクションを設けた学術的ハンドブックなどだ。

     実際にアメリカでは、マインドフルネス研究者が主導する急性および長期的問題を抱える人々専用の臨床サービスも立ち上がっている。瞑想が健康増進や治療の手段として広く使用されている以上、その潜在的なリスクについて一般の人々に広く周知を図る必要があることは間違いない。

    ※参考動画 YouTubeチャンネル「Omarsoide」より

    【参考】
    https://www.sciencealert.com/meditation-and-mindfulness-have-a-dark-side-we-dont-often-talk-about

    仲田しんじ

    場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
    ツイッター https://twitter.com/nakata66shinji

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