ビッグフットの正体は聖書に登場する殺人犯カインか？ 民間伝承と結びついた古くて新しいUMA論に迫る

ビッグフットは弟殺しのカインなのか？

　旧約聖書『創世記』によると、“最初の人間”であるアダムとイヴの間に生まれた子どもたちは数多くいるが、その中で聖書に登場するのが兄のカインと弟のアベルである。

　カインは農業に従事し、アベルは羊の放牧に専念していたが、神がアベルの羊の捧げ物をカインの農作物の捧げ物より好んだため、嫉妬に駆られたカインはアベルを殺害した。それを知った神は怒り、カインを楽園から追放した。

　米国を中心に世界各地で多数の信者を抱える「末日聖徒イエス・キリスト教会（通称：モルモン教）」だが、その信者の一部は、ビッグフットの正体とはカインであり、神の罰を受けて毛むくじゃらの獣人に姿を変えられ、永遠に荒野をさまよう運命を定められたのだと主張している。

　その根拠は、モルモン教の指導者であるデビッド・W・パッテンが1835年に「放浪の追放者」、つまりカインと考えられる“毛深く黒い人物”に出会っているからだ。パッテンの言葉を集めた1969年の書籍『The Miracle of Forgiveness』で初めて世に知られることになった。モルモン教会の初期の指導者であるアブラハム・スムートが、パッテンから聞かされたカインとの遭遇体験を書き留めていたという。

　その時、パッテンはラバに乗っており、いつのまにか隣を歩いている巨漢の見知らぬ男に気づいたという。鞍の上に乗ったパッテンは地面からかなり高い位置にいたにもかかわらず、その男の頭はパッテンの肩の高さまであったという。

「彼は衣服を身につけておらず、毛で覆われていた。肌は非常に黒かった。どこに住んでいるのか尋ねると、彼は『家はなく、地上を放浪し、あちこちを旅している』と答えた」
「さらに質問すると、彼は自分について『とても惨めな生き物』と語り、真剣に死を求めたが死ぬことはできず、人々の魂を滅ぼすことが自分の使命であると言った」（パッテン談）

　そんなカインは、ビッグフットと呼ばれるようになって今でも北米の森を彷徨っているのだろうか。懐疑論者は、ほかの宗教文書によると神はカインに永遠の命を与えず、ノアの洪水で命を落としたとされている。

　ビッグフット＝カインの伝説はモルモン教の公式の教義ではないが、1980年代にビッグフットの目撃情報が一般的になって以来、この話は広く知られるようになり、現在でもSNSのユーザーを中心に議論は続いている。

ユタ州でビッグフットとカインが結びついた

　米国における宗教分野の歴史家、マシュー・ボウマンはビッグフット＝カイン説に関する数少ない査読済みの学術論文を2007年に「Mormon History Association」で発表している。

　ボウマンは伝承の起源をたどり、カインとビッグフットの物語を組み合わせた話が1980年頃にユタ州サウスウェーバーで人気を博すようになったと指摘。そしてこの伝説は、モルモン教徒の一部が、説明不可能な出来事を理解するために民間伝承を利用していることの典型例であると示唆した。

　またボウマンは、毛むくじゃらの獣として描かれたカインは、信者に敵対する悪の象徴と見なされていたとも指摘する。そして海外巨大掲示板「Reddit」では、元モルモン教徒を名乗る人物が、この説は「本来、内輪だけの伝承であった」と語っている。また、カインの不死性やビッグフットへの変身はいかなる公式の宗教文書や教えにも裏付けられていないとの指摘もある。

　ご存じの通り、ビッグフットは北米の森林に生息する大型類人猿タイプのUMAとされているが、その存在を示す決定的証拠はまだ見つかっていない。それでもビッグフットの目撃情報は今も続いている。

　アメリカの一部の地域、特にユタ州では野人の伝説が何世紀にもわたって語り継がれており、遭遇談や目撃報告も少なくない。ユタ州ではこの野人こそがビッグフットとなり、さらに聖書のカインと結びつけられたのだ。

　カイン＝ビッグフット説はモルモン教の正式な教えではないものの、人口の６割がモルモン教徒であるユタ州の民間伝承と結びついた、古くて新しいビッグフット論といえるだろう。

【参考】
https://www.dailymail.co.uk/sciencetech/article-15046945/secret-Mormon-legend-Bigfoot-Bible-murderer.html