ヒトガタ呪術の要は自分自身を癒すこと! ヘイズ中村「ヒーリング・ドール・マジック」理論編

文=ヘイズ中村

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    古来、人を象ったツールは洋の東西を問わず呪術に用いられてきたが、海外と日本を比べたとき、大きな違いが見いだせると、ヘイズ中村氏はいう。それは、日本のドール・マジックでは、まず術者自身の癒しが優先されることだ。その点を踏まえた効果の高いヒトガタ呪術を紹介する。まずは理論編だ。

    共同体があれば必ず人形呪術がある

     日本人ならば、人形を使った呪術として真っ先に思い浮かべるのは、藁人形を五寸釘で樹木に打ちつける「丑の刻参り」だろう。白装束をまとい、髪を振り乱し、顔に白粉を塗り、頭には3本のロウソクを立てた五徳をかぶった異形の術者が、憎い相手を呪い殺すために7日間つづけるという呪術だ。
     人を象った用具は、人類が存在するところに必ず見つかるもののひとつだ。そのどれもが、今日のような子供の愛玩物としてではなく、なんらかの呪術を目的としてつくられていたことは、疑う余地がない。たとえばエジプトのピラミッドでも、死者の従者になるようにと埋葬された人形が発見されている。

     古来、民間信仰においては、流し雛のように厄災を持ち去ってもらう人形、何かのショックで魂が抜けたときにそれを捉える人形、安全や豊作を願う人形、悪霊や疾病を祓う人形、神の依り代となる人形など、ありとあらゆる術に人形が使われている。
     歴史を振り返れば、ひとつの共同体にひとつのドール・マジックといっても過言ではないほどの多様性が見つかる。ただ、現代に継承されているタイプに絞るなら、カラフルなキャンドル人形に火を灯す術、布製の人形に相手の髪の毛や爪を埋め込んで感応力を高めるヴードゥードールの術、そして前述した丑の刻参りや、大祓に使うヒトガタの術が挙げられるだろう。

    針が刺されたヴードゥードール。

     キャンドル人形の術は、かの有名な錬金術師パラケルススが記した16世紀の文書にも「古代エジプト時代から実践されてきた術」として紹介されているが、発祥がいつ、どこなのかはわからない。だが、キャンドル人形に火を灯して呪文を唱えながら、その姿が溶けていくのを見守るというセンセーショナルな術式は、まさに「魔術」のイメージにぴったりだ。
     また、相手の髪の毛を詰めた人形を針で刺したり、火の中に投げ込んだりするヴードゥードールの術も(その名に反して、実際にはヴードゥー教とは無関係であることがわかっている)、おそらくはアフリカの精霊信仰に使われた、依り代としての人形がはじまりだったのではないかと考えられている。

     おどろおどろしさのある人形呪術が、どのように現代ふうのポップな呪術の代表になっていったかについては諸説ある。ひとつには、髪の毛や爪といった身体の一部を使うグロテスクさが、まさに「それらしさ」を高めてくれることや、実際の効力が高いことが理由として挙げられており、海外にはとても多くの実践者がいる。

    海外由来の術式は、日本人にはあまり向かない?

     だが、こうした海外由来のドール・マジックは、それに用いられる人形の特徴的なルックスがオカルトショップで人目を引くのは確かだが、日本人のオカルト実践者のなかでこの術を得意とする人がいるとは、正直あまり聞いたことがない。
     また、筆者がオカルトショップの店員だったころも、真剣な用途で人形を購入していく人は案外少なく、買っていったとしても「やっぱり使う気になれなくて……」と、返品を申しでる人がわりといた記憶がある。悩み抜いたすえに購入していくのだから、たんに気が変わったという話ではないだろう。

     その一方で、紙のヒトガタを使った日本古来の術を実践しようとした人たちに、こうした気の迷いが起きたという話はあまり耳にしない。神社の大祓でも行われているといった安心感があるからだろうか?

     筆者は西洋魔女術の参入者だが、自分のルーツである日本の術式を無視する気は毛頭なく、土地と民族に根づいた呪術には常に敬意を払っている。そのこともあり、西洋のドール・マジックと日本のヒトガタ呪術の違いを長年、調べてきた。
     だが、術をかけたい相手を模した人形をつくり、一定の儀式を行うという基本の部分に東西の違いはなく、ならばいったいどこが違うのかと、謎は深まるばかりであった。

    日本のヒトガタ呪術は癒しを願うのが基本!

     だがある日、神道修行者の知人が行う儀式に参加させてもらったとき、やっとこの謎の一部が解けた。それは、日本のドール・マジックが、願望成就よりも「癒し」に軸足を置いているということだ。

     西洋のキャンドル人形もヴードゥードールも、目指すのは願望成就であり、いわゆる「プラス思考」がその根底にある。もっとお金がほしい、もっと恋愛がしたい、もっと出世を、という「もっと」の世界観だ。
     この思考に抵抗を感じることなく実践できる人もいるのだろうが、一般的な日本人だと、そうした自分中心の願望成就を求めることに、どこか罪悪感を感じて実践がうまく運ばず、結果的に願望も成就しないことが多いのではないだろうか。
     言葉を換えるなら、日本のドール・マジックは「もっと」という積極的なものではなく、「自分は今困っているので、なんとかそれを癒してほしい」という、へりくだった誓願をメインとすることが多いように思うのだ。

     あくまでも筆者自身が西洋の技法と比較したうえでの感覚だが、和風の疾病快癒の祈願が癒しを求めるのは当然のこととして、恋愛成就でも、愛を得るのではなく孤独を癒すと考え、金運ならば貧困を癒し、出世を願うよりは現在の不遇を癒す、という取り組み方をしているように感じる。
     そのため過剰な貪欲さはないし、罪悪感を抱く必要もない。さらに、術のしっぺ返しもないはずだ。日本人がとくに嫌悪する図々しさもなく、穏やかで使いやすい術なのである。
     この恭しい姿勢こそが実践中の集中力を高め、成功へと導かれやすいポイントだと考えれば納得がいく。

     そこで今回は、日本の呪術の基本と、西洋のドール・マジックの高い共感力を融合させた、新たな癒しのヒトガタ呪術を紹介していきたい。(つづく)

    ヘイズ中村

    魔女・魔術師・占い師・翻訳家。中学生頃から本格的に西洋密儀思想の研究を開始。その後、複数の欧米魔術団体に参入し、学習と修行の道に入る。現在はタロットを使った魔術的技法に関する本を執筆しながら、講座などでの身近な人との触れあいを大切に活動中。

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