エイリアン・アブダクション「ヒル夫妻誘拐事件」の痕跡から新事実が発覚へ/並木伸一郎
1961年にアメリカで発生した異星人によるヒル夫妻誘拐事件。これまでにさまざまな検証が行われてきたが、事件発生時に着ていた衣服に着目した例はないだろう。誘拐された際、激しく抵抗したヒル夫人が着用してい
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心霊大国タイの街中に、シマウマの像が大量に置かれている場所がある。そこはいわゆる心霊スポットで、目印のようにシマウマ像が密集しているのだ。だがなぜ、シマウマなのか? タイ在住の筆者が、そのルーツを探ったのだが……。
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キッチュなシマウマの置物がいつもそこにある。心霊スポットを中心に取材しているうちに、多くの場所に共通点があることに気がついた。それがそのシマウマの置物だ。陶器製、石膏なのかセメントでできているもの、紙粘土風など素材は様々あるが、どれもリアルなシマウマではなく、女性受けしそうなかわいらしいものばかりだ。
タイの心霊スポットは、日本のように「霊道だから」といった漠然とした要因の場所は少なく、事件事故が起こったりしたなど、実際に因果関係があって噂になることが多い。それもただ死亡事故や事件が発生したというよりも、多数の死者が出ている、凄惨なものだった、子どもが被害者、女性がむごたらしく殺害されたなど、特に残酷なケースを因縁として地縛霊や怨霊がその地に憑いたと囁かれる。
そんな傾向から「シマウマの置物は人が死んだ場所にあるのではないか?」という仮説が立つ。ところが、周囲のタイ人に問いかけても、シマウマの置物の由来どころか、その存在すら知らない人もいた。確かにボク自身も心霊スポットを周るようになってだいぶしてからふと気がついたくらいである。
今回、そんなシマウマ置物の由来を調べてみた。寺院などで聞き込みを行えばすぐにその謎は解ける。そう思っていたが、そう簡単にはいかなかった。
なぜ死亡者が出た場所にシマウマが置かれるのか。タイにシマウマ――少なくとも野生のシマウマは存在しない。
とはいえ、タイの寺院には狛犬のような位置づけでライオンがいる。タイには野生で存在しないどころか、そもそも地球上にいない。しかし、タイに来たことがある人なら一度は目にしたことがある。寺院でなくとも、街中や飲食店、コンビニ内で。それは、タイのプレミアム・ビール「シンハ・ビール」のロゴでもある。タイ語ではハを読まないので「シン」と発音するのだが、これは架空のライオンである。日本のキリンビールの麒麟と同じようなものだ。
架空の動物は宗教関係の神話や伝承によく登場する。このように、死者の魂を弔うため、架空の動物としてシマウマが選ばれ、死亡事件事故の現場に置かれるようになったのではないか。
ーーところが、タイ人にシマウマの置物について訊いていくと、困ったことに仮説とはまったく違う話まで出てきてしまった。
「シマウマの置物ね、うちの職場のビルにもあるよ。定期的に業績が伸びるようにお供えものをするんだ」
シマウマの置物には商売繁盛祈願の意味もあるという。
仮説を根底から覆すため慌てて調べてみれば、バンコク都内だけでも確かに数か所、シマウマの置物が大量に置かれた祠があり、それらは主にビジネス街、あるいは巨大なオフィスビルの下にあった。そこで事件や事故が起こった、あるいは多発しているという形跡がなく、ただ商売繁盛を願うためのもののようだ。
なぜシマウマが商売繁盛に使われているのか。改めて調べてみると、世界的に有名なある祭に伝わるある行動から新たな仮説が出てきた。
その祭はプーケット県で行われる奇祭「ベジタリアン・フェスティバル」だ。タイは全土的に中華系移民が多いが、プーケットなどタイ南部からマレーシアにかけては福建省出身者が中心になる。彼らが太陰暦の9月1日から9日まで道教の神である九皇大帝の生誕を祝い、この期間、斎戒沐浴として肉や刺激のあるものを食べないようにする。
この期間に地元の若い男たちがシャーマンとして選ばれる。彼らには中国の神のひとり関羽(あるいは関帝)が降り、トランス状態に入る。そして、身体に串や刃物などあらゆるものを刺して自傷行為をしながら街を練り歩く。シャーマンは神と民衆を繋ぐ役目となり、諸説あるが自傷行為は不健康な状態を表し、それでも生き延びている自分に神が生きる力を与えてくれ、それを大衆に還元しているという。
このシャーマン的な存在になった男たちをタイ語で「マー・ソン」と呼ぶ。マーは馬という意味で、天にいる神のところへ駆け上がって、大衆の願いを届けるという意味合いがあるようだ。
タイ人、というよりも人間の願いというのはだいたい似たようなものだ。いろいろと言葉を変えるものの、基本的には金儲けと健康に関する願いに集約される。そんな祈りを天まで届けてくれる存在として、架空の動物のようなものであるシマウマが選ばれた。だから、ビジネス街の祠にシマウマがいる。そう考えることもできる。
しかし、現実的にシマウマの置物は死亡事件や事故のあった現場、タイの至るところにある神木、心霊スポットに必ずと言っていいほど置いてある。それはどう考えても商売繁盛に結びつかない。
そんなことを考えていたある日、タイのテレビ番組でタイ人の考古学・人類学学者がシマウマの置物の由来を語った動画をネット上で見かけた。その内容を意訳をすると、次のような話だった。
「バンコクは、住民らの考え方や生活の変化よりもずっと早いスピードで発展している。めざましいのは交通網の発達だ。道路は国にとっての血管、車は血液である。悪い血流を断ち切って乗り越えていく、あるいは悪い流れに当たらないように生きていかねばならない。それはすなわち車にぶつからないようにすること。それに必要なのは『横断歩道』である」
インタビューがいつだかはわからないが、動画サイトにアップされたのはごく最近だ。しかし、内容はやや「昭和の話か?」と思うような、時代遅れの印象を受ける。その学者は若くなかったので、相当昔に立てたご自身の意見なのだと思う。
さて、この説のどこがシマウマなのかというと、タイ語で横断歩道は「ターング・マー・ラーイ」と言うのだ。ターングは道や通りを意味し、マー・ラーイがまさにシマウマである。ゼブラゾーンがそのままタイ語になっただけなのだが、横断歩道とシマウマの柄が重なり、シマウマの置物が普及したのだと学者は言うのだ。そして、横断歩道は近代に導入されたものなので、シマウマの習慣は最近始まったばかりだという。
事故が起こったとき、交通の悪い血流を断ち切る意味でシマウマが置かれる。それは、シマウマに死者の魂を天へと連れて行ってもらうためと解釈できる。さらに、それはすなわち、死者を弔う生者の気持ちを天に届ける、という意味でもある。要するに願いを天に届けることであるので、商売繁盛の祈願をシマウマに乗せて天へ送るという解釈にも合致する。シマウマの置物が死亡事故現場とビジネス街の両方にあることが説明できる。
ところが、これだけではまだ解決できない問題があった。ちょうどそのころにタイ上座部仏教に詳しい護符刺青「サック・ヤン」の彫り師に聞いた話と矛盾が出てきてしまうのだ。
その考古学・人類学学者の説では、シマウマの置物は最近始まったことである。しかし、彫り師はまったく違う意見だった。サック・ヤンの彫り師は仏教の歴史や知識に長けていないと就けない。知識は豊富である。
「シマウマを置く風習は昔からある。200年前にはあったはずだ。シマウマは走る動物だから、天に霊魂を連れて行ってくれると信じられている」
ここには疑問がある。年代的にシマウマが選ばれることにちょっと納得しがたい部分があるからだ。
というのは、シマウマはヨーロッパではグレビーシマウマを指す。古代ローマ時代にはサーカス団が引き連れていたようだが、その後17世紀まで忘れ去られた存在になってしまう。ヨーロッパの影響を強く受けているタイではあるが、シマウマが一般的なタイ人の知識に入ってくるのは、もっとあとの時代であることは想像に難くない。テレビもラジオもなかった時代にシマウマがタイの大衆に周知されていたとは考えにくい。
行き詰まっていたとき、別の説を発見した。バンコクに隣接するノンタブリー県のラタナティベート通りにあるガソリンスタンド起源説だ。バンコク中心地から見るとチャオプラヤ河の西岸にある、日本製電車の路線・パープルラインのバーンラック・ノーイ・ターイット駅目の前のガソリンスタンドにシマウマが置かれるようになったのが起源なのだという。
正直、この話を聞けば聞くほど、ボクはこの説が全土に広まったものであると感じる。妙に納得のいく話なのだ。
ここの置物は1993年前後に始まったものだとされる。
このガソリンスタンド前の通りは道幅が広く、かつ直線になっている。タイ人は直線で思い切りクルマを飛ばす傾向にある。これによって、この近辺では死亡事故が相次いでいた。
1993年ごろのある夜、近隣住民の夢に、このスタンドに置かれた祠の主が現れ、ここにシマウマを置くように告げた。そうすることで交通事故が減るという。
ところが、それまでシマウマを置く習慣などなく、現在のようにどこにもシマウマの置物などなかった。そこでお告げを受けた近隣住民は幼稚園児向けの教材店に行って小さなシマウマの人形を購入し、そこに置いたのだ。すると、確かにその効果が見られ、のちにテレビでも取り上げられたことから全国区になった。
子供向け教材だったために、そのシマウマの置物は心霊スポットらしさを台なしにするレベルでキッチュだった。だが効果があったことで多くの人が真似をし、伝言ゲームのようにいつしか「死亡事故」が「死亡事件」に拡大解釈され、最終的に「人が死んだらシマウマ」となったと見られる。
実際にバーンラック・ノーイ・ターイット駅前にあるガソリンスタンドに行ってみると、尋常ではない数のシマウマが置かれている。意外と整然と並んでいるのは、白髪の老婆が管理していたからだった。彼女はガソリンスタンドのオーナーの親戚で、祠の掃除と管理を任されているという。
祠には「プー・ジャン」というルーシー(老師)が祀られていた。老婆にこの老師が近隣住民の夢に出てきたのか訊ねる。
しかし、彼女は首をかしげた。
「シマウマが増えたのはいつだったかね。このプー・ジャンは元々は違うところにいたから」
彼女の説明ではこの祠は200年、あるは300年も前からあったという。当初はここから数キロ離れた寺院にあったが存続できなくなり、同時期にガソリンスタンドができたため移設した。プー・ジャンはどこにでも祀られる神でこの土地特有ではなく調べることが難しいため、この祠の歴史は紐解けない。
しかし、この隣にあるサイマーと呼ばれるエリアは、アユタヤ王朝時代(1351~1767年)には村落として存在していたことから、祠が200年前に存在していた可能性はある。
さらにこの老婆から「シマウマは交通事故のためだけではない」とも言われた。商売繁盛祈願、さらに健康祈願の場所でもあるという。まだ祠が寺院にあった数十年前、どこの病院でも原因不明とされ歩けなくなった老人が、たった数回ほどプー・ジャンに参拝したら完治したという。
商売繁盛に関する逸話もしっかりと残っている。失業した近隣住民が完全に困窮してしまい、神頼みでプー・ジャンに会いに来た。数回ほど参拝したある夜、自宅2階から人が歩く音が聞こえた。見に行くとなにもない。しかし、2階から庭先を見ると、2階に祀っていた仏像がまるで歩いたかのようにそこに立っていた。直後、その人は面接先から採用通知を受け取った。
それはなんの力なのか?
老婆は淡々と「まあ神の力か、たまたまか」と答えた。そして思い出したように小さな怪談を語る。
「このガソリンスタンドに以前いたマネージャーが夜中に来て、従業員に、なんで祠にあんなにたくさん人が来ているんだ? と訊いたの。でもほかの人には見えないの。マネージャーは家に帰って、そのまま退職したよ」
老婆はほとんど抜け、残った数本の歯を見せて笑う。老婆自身は心霊話にはあまり興味がないようだが、もうひとつ、心霊なのか神の力について教えてくれる。
「2011年の大洪水のとき、この辺りも沈んだんだけど、このガソリンスタンドの地面はほかの建物と同じ高さなのに、ここだけ一切水が入ってこなかった。あれは絶対にこの祠の力だった」
この一連の調査は、昨年ボクが出版した『亜細亜熱帯怪談』(晶文社)の中でも紹介している。書籍内では様々な背景を説明するためにまとめているが、今回のこの記事では取材の時系列に沿って書いている。
この本が出た時点では知らなかったのだが、チャオプラヤ河沿いにある「サイアム博物館」に実はシマウマの展示があった。この博物館は歴史的価値があるものというよりも、タイの今を紹介する博物館になっている。ここにシマウマの置物もあったと、ニコ生で心霊やオカルト関係の番組「モノガタリ」を配信する木村茂之さんに教えてもらった。
出版後であったが、ボクがプー・ジャンの祠でみつけたシマウマの由来が正しいのかどうか、博物館に確認しに行った。
ところが、である。
スピリチュアルな展示物の諸々に説明が書かれているにも関わらず、なぜかシマウマには説明書きがなかった。おそらく、サイアム博物館にしてもシマウマの置物の真相がわからなかったのだろう。
いずれにしても、その因縁となる事件事故が凄惨であるほど、心霊スポットに置かれるシマウマの数が多い。その数が、霊的にどれほど強さがあるかのバロメーターにもなる。一方で、シマウマの数が増えるほど、日本の心霊スポットのようなおどろおどろしい雰囲気が減る。シマウマは元々子どものおもちゃなので、そのかわいらしさが心霊スポットの雰囲気を壊しているのだ。
もしタイに来ることがあったら、ぜひシマウマの置物に注目してもらいたい。きっとそこはかつて「なにか」が起きた場所である。
髙田胤臣
1998年に初訪タイ後、1ヶ月~1年単位で長期滞在を繰り返し、2002年9月からタイ・バンコク在住。2011年4月からライター業を営む。パートナーはタイ人。
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