開けるな! 災いの扉、災いの箱/黒史郎・妖怪補遺々々
開くから〝災い〟があるのか? 災いが〝開かせる〟のか? 各地に伝わる、開けてはならないものを補遺々々しましたーー ホラー小説家にして屈指の妖怪研究家・黒史郎が、記録には残されながらも人々から“忘れ去ら
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恐ろしい鬼の首領・酒呑童子は新潟では恋愛の神さまになっていた!さらにタニシを待ち受けていた衝撃の酒呑童子絵巻とは。
酒呑童子行列がおこなわれる国上(くがみ)には、酒呑童子を祭神としてまつる酒呑童子神社が建立されている。
神社には、地域の異業種交流会という団体が設置した「縁結びの願い書」なる看板があったのだが、そこには酒呑童子・外道丸伝説が紹介されたうえで次のような神社建立の経緯が記されていた。
このような伝説がある中で、酒呑童子の御霊から、異業種交流会に対して「外道丸の頃に受けた娘さんたちの熱い想いを、いま昇華させて、若いカップル達の幸せのために尽くしたい」という思召がありました。そこで当会では、この神社を建立し、縁結びの神として酒呑童子をまつることにしました。(現地の看板より)
なんと酒呑童子の神霊から直々に、現代の若者たちに幸せになってほしいとのメッセージがあったというのだ!
そんなわけで現在、酒呑童子は恋愛の守り神、酒呑童子神社は縁結びの神社となっているのである。心中伝説のある崖が恋人たちの聖地になったり、悲恋の現場が恋愛のパワースポット化するという逆転現象は全国的にもおこりがちなものだ。
社殿には酒呑童子の絵も掲げられているのだが、やっぱりイケメンである。このイケメン外道丸が鬼となって各地で暴れまわり、やがて流れ流れて大江山に腰を据え、京の都を襲うことになるなんて。
さて、そうこうしているうちに酒呑童子行列がやってきた。
けっこうな数の鬼さんたち登場に、周りからは「きゃーっ」「酒呑童子さまこっち向いてくださいー!」と黄色い声援があがる。地元ではけっこうイベントもやっているのだろうか、囲みの撮影会がはじまるほどの人気だ!
燕市観光協会ウェブサイトにある説明によると、越後くがみ山酒呑童子行列は、毎年9月の最終日曜日、酒呑童子が赤鬼、青鬼、黄鬼とそのしもべの鬼たちを引き連れ、国上に集う人たちの心願成就を祈って練り歩く行列なのだそうだ。
世の中では「鬼=悪者」とされてはいるが、彼らは人を寄せ付けてやまない魅力をもっていた。
魅力、人気は大切なんだなとあらためて痛感。もしかしたら「イケメンになる」というのも超人化修行のひとつなのではないだろうか。
さらに酒呑童子について知りたくなり、外道丸が修行をしていたという国上寺にいってみる。
新潟でも屈指の古刹、国上寺は良寛さんゆかりの寺でもある。良寛さんが40歳を過ぎた頃から20年ほど、国上寺のはずれにある五合庵というところで起居していたのだ。良寛さんは自らの寺をもたず、住職になることなく子どもたちとまりつきをしたり、凧揚げをしたり、歌を詠んだりして暮らす。「何もしない」ということが、良寛さんの修行だったのだ。
金持ちや有力者がどんなに「うちで住職をやってくれ」と頼みにきても全てを断り、何もしない、という生活を貫いた良寛さん。彼もまた、ひとりの超人である。
さてそれでは酒呑童子はどこに……と探していると、国上寺の本堂にふしぎな説明書きを発見。そこには「イケメン偉人空想絵巻」との謎めいた文字が。
イケメン偉人空想絵巻。それは、国上寺の住職がずっと抱いていた「もしも国上寺にゆかりのある酒呑童子、源義経、弁慶、良寛、上杉謙信の5人の偉人が同じ時代に生き、一堂に会していたら……」との想像を、世界的アーティストの木村了子さんに作品化してもらったものだという。
説明書きには、上杉謙信は熱く温和な性格から五人の中では長男的な性格、義経は一見若く見えるけれど五人の中で性格は一番大人、そして酒呑童子は、五人の中では最年少で甘えん坊……などなど、斬新で詳細なキャラクター設定が書き込まれている。
その設定に基づいて描かれたのが、こちらの絵巻だ。
イケメン絵巻だから、お尻くらいは出るのである。
絵巻は本堂の四方の壁面に描かれていて、だれでも拝観することができる。
こちらはいっしょに湯に浸かるイケメン酒呑童子と偉人たち。こんな絵巻をみたら、タニシの顔もこうなります。
つづく。
松原タニシ
心理的瑕疵のある物件に住み、その生活をレポートする“事故物件住みます芸人”。死と生活が隣接しつづけることで死生観がバグっている。著書『恐い間取り』『恐い旅』『死る旅』で累計33万部突破している。
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