異星人発見の鍵は“核融合の痕跡”にある! 科学者が提唱する地球外文明の探査法

文=仲田しんじ

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    太陽系外で繁栄している文明をどうやって見つければよいのか――。その鍵を握るのが、大気中の水蒸気の重水素の量であることが最新の研究で報告されている。

    人類より進んだ文明は核融合を実現

     地球以外に知的生命体が存在する惑星はいったいどこにあるのか? ひとつの指標となるのが技術文明の存在を暗示するテクノシグネチャー(technosignature)の探索と検出である。

     1964年、ソ連の天文学者、ニコライ・S・カルダシェフは、宇宙文明の発展度をそのエネルギー消費量で分類する方法として「カルダシェフスケール」の概念を提起した。カルダシェフスケールでは利用可能なエネルギーの規模によりタイプ1~タイプ3までに区分している。

     進んだ文明であるほど周囲との違いが目立つため見つけやすいと考えるのが自然であり、たとえばカルダシェフスケールでタイプ2の文明は、恒星からエネルギーを得るため「ダイソン球」を形成しているともいわれる。一部の研究者は、太陽系外でこのダイソン球の痕跡を探しており、その候補となる天体もいくつかピックアップされている。

    画像は「Wikimedia Commons」より

     ちなみに我々の文明は、再生可能エネルギーをまだ完全に達成していないことから、カルダシェフスケールではタイプ1未満の「0.73」と評されている。未熟な我々から見れば、恒星系のエネルギーをすべて活用しているタイプ2文明は雲の上の存在であり、その実態がどんなものであるのか、なかなか想像が及びにくい。そして、それほどの技術を持つ文明であれば、我々のような文明から発見されないようなカムフラージュを施している可能性もある。

     核廃棄物の問題を抱えながらも原子力発電を活用している現在の人類文明だが、我々よりももう一段階進んだ文明であれば、核融合によるエネルギー生産を実現していると想定するのはきわめて妥当であろう。では、核融合を活用している文明にはどのようなテクノシグネチャーが見られるのか。

     そこで米ワシントン大学のデイビッド・C・キャトリング氏は、天体の大気中の重水素の量に着目した。

     キャトリング氏をはじめとする研究チームが2024年11月に「arXiv」で公開した研究では、遠く離れた惑星で核融合の兆候を探すために、惑星の重水素対水素比(D/H比)が指標になることが説明されている。

     D/H比を低下させる自然現象は存在しないと考えられており、研究チームは、遠く離れた惑星のD/H比が星間物質の「基準値」よりも著しく低く、重水素が少ない場合、なんらかの怪しいことが起こっていると仮定したのだ。その怪しいこととは、もちろん核融合である。

     我々よりも一歩進んだ文明は、海水から重水素を抽出して核融合に利用していると考えられるため、環境中の重水素が著しく少なくなっているはずだというのだ。

    画像は「Wikimedia Commons」より

    太陽系外天体の大気の測定は可能なのか?

     重水素は、宇宙全体に存在する水素の自然発生同位体であり、非常に安定していて寿命が長い。水素には陽子が1個あるのみだが、重水素は中性子1個と陽子1個をもっている。

     この中性子により、重水素は通常の水素よりも重くなり、遠くから原子を分析する際に簡単に区別できる。そして重水素は、核融合の燃料になり得る。重水素を核融合炉の主燃料として使用すれば、通常の水素に比べて、より多くのエネルギーを放出できると考えられている。

     重水素同士の核融合を実現できれば、日常用途から先進技術の動力源まで、人々のニーズを満たす豊富なエネルギーが提供されるのだ。

     海水から重水素を極限まで抽出し尽くし、核融合に支障をきたすほどに重水素がなくなってしまえば、その惑星は放棄され文明はほかの惑星に移住することになるのだろうが、重水素はきわめて安定しているため放棄後のD/H比もほぼ変わらない。したがって、かつて文明が栄えたが今は放棄されている惑星についても、このテクノシグネチャーが残されることになるという。

     環境中の重水素の少なさがテクノシグネチャーとして有望であることが示唆されているのだが、しかし、遠く離れた太陽系外の天体の大気中のD/H比を測定することなど可能なのだろうか。

    「太陽系外惑星の水蒸気のD/H比を測定するのは、決して簡単なことではありません。しかし、それは夢物語でもありません」とキャトリング氏は説明する。

     研究チームはスペクトルマッピング大気放射伝達(SMART)モデルを使用して、重水素化した水(HDO)と水(H2O)を放出線の中から探す特定の波長を提案している。HDOは電磁スペクトルの赤外線と近赤外線部分に強く示されるが、実際に2019年には分光分析によって生命が存在する可能性のある惑星「K2-18b」の大気中にある水蒸気が初めて検出されている。

    Peter SchmidtによるPixabayからの画像

     現在開発中のNASAの宇宙望遠鏡「ハビタブル・ワールド・オブザーバトリー(HWO)」と、欧州主導の「太陽系外惑星用大型干渉計(LIFE)」も、D/H比を測定できる可能性があるという。

     8ミクロンの波長付近のスペクトル領域に大気中の水蒸気が豊富に含まれている太陽系外惑星であれば、D/H比の測定は実現可能とされる。なお、キャトリング氏はLIFE開発チームの1人の科学者が当論文を読み、この問題を検討していることも明かした。

     HWOもLIFEも2040年代の運用を目指しており、それ以降は太陽系外の文明探索がドラスティックに進展することは間違いない。もちろん、現在も地球外文明のテクノシグネチャーを見つけるための大規模な調査は鋭意行われており、新型宇宙望遠鏡の登場を待つ前に地球外文明が発見されても驚くことではないだろう。

    ※参考動画 YouTubeチャンネル「The Cosmos News」より

    【参考】
    https://interestingengineering.com/science/alien-detection-with-hidden-fusion-signs
    https://phys.org/news/2024-12-technosignature-extraterrestrial-civilization-reliance-nuclear.html

    仲田しんじ

    場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
    ツイッター https://twitter.com/nakata66shinji

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