150年前、カナダの大自然で起きたタイムスリップ事件に戦慄! 巨木を引き裂く落雷後、跡形もなく消えた村の真実
病気とは無縁の心身壮健な騎馬警察官が、極めて不可解な「タイムスリップ」を体験していた。19世紀末のカナダの大自然の中で起きた、説明のしようのない”奇妙な出来事”とは――!?
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ミステリー分野で世界的な知名度を誇る伝説的ライター、ブレント・スワンサーが「日本人がまだ知らない世界の謎」をお届け!
祟りや霊障の中には分類が難しい、本当に奇妙なものがある。1889年、農夫のジョージ・ヘンリー・ダッグとその家族(妻のスーザン、4歳のメアリー、2歳のジョン、養女で11歳のダイナ・マクレーン)は、カナダ・ケベック州ショーヴィル近郊のクラレンドンにある平穏な田園地帯で、質素で静かな生活を送っていた。しかしその年の9月、彼らの暮らしに異変が起きる。
ことの始まりは些細なことだった。ある日、ジョージは妻に2枚の紙幣を渡し、妻はそれを部屋の引き出しにしまった。後でジョージが引き出しを確認すると、紙幣は2枚ともなくなっていた。ジョージは最初、ディーンという若い見習い農夫がいたずら半分でお金を盗んだのではないかと疑った。しかし彼は断固として身の潔白を訴えた上、その後も物が消えてしまうことが続いたため、誰の仕業なのか一向にわからなかった。
やがて、家の中で物が消えるだけでなく、どこからともなく石や棒などの物が現れるようになっていた。ある日、スーザンが家事を済ませてリビングルームに入ると、床一面に豚の糞が山積みになっていた。この時点でジョージの怒りは頂点に達し、ディーンが悪ふざけをしていると確信。少年を追い返した。しかし、それでも奇妙な出来事は終息せず、むしろ事態はどんどん悪化していく。
いつの間にか、夜中になるとドンドンと壁をたたくような音が家中に響くようになっていた。一家は外に出て周囲を確認したが、野生動物や不審者がいるわけでもない。しかし、部屋に戻って眠ろうとすると、また不気味な音が始まる。さらに、物や家具が勝手に動き出す現象も始まった。ロッキングチェアがひとりでに揺れ、ありえない衝撃で窓ガラスが割れたこともあったが、いくらジョージが調べても原因はわからなかった。
ほかにも、食器や牛乳瓶が押し潰されたり、家具が汚されたり、オルガンが勝手に演奏を始めたり、見えない力に体を引っ張られるのなどの現象が起きたが、とりわけ恐ろしいのは、家のあちこちで自然発生する火事だった。なんとか燃え広がる前に消火することはできたが、1日に8回発生したこともあった。
加えて、一家はどこからともなく聞こえてくる不機嫌な老人らしき唸り声に悩まされるようになった。その声は、子どもたちに向かって 「俺と一緒に地獄に行きたいか?」と尋ね、またある時は「俺は悪魔だ、お前たちを手にかけてやる 」と吐き捨てた。謎の声は、怯える一家をあざ笑った。こちらが質問を投げかけると答えることもあったが、ほとんど意味をなさない返答ばかりだった。正体について尋ねられると、その家で死んだ男の霊であるとか、悪魔であるとか、黒魔術によって呼び起こされたとか、はたまた天使であると語るなど、毎回違う答えが返ってきた。しかも、声色や声質が変わることもあり、子供のようないたずらっぽい声と、動物的な唸り声とが交互に繰り返された。これらの声を耳にした隣人や訪問者も数多くいたという。
そしてついに、子どもたちの前に無気味な幽霊まで現れるようになった。「大きな黒いものが布団を引っ張っている!」というダイナの叫び声を聞いた両親が駆けつけると、ベッドシーツが宙に浮いていた。またある時、庭で遊んでいた子どもたちは「頭が牛で体が人間の男」がいたと訴えた。これらの幽霊は、子どもにしか見えないようだった。
やがて両親は、その存在が何であれ、超常現象がダイナに引き寄せられているとの結論に達した。ダイナがいるときにしか超常現象は起こらず、幽霊の攻撃もダイナが標的となることが多かったからだ。
恐怖に怯える一家は、地元のホーナー牧師を呼んで悪魔祓いを依頼したが、これは裏目に出た。声は牧師をあざ笑い、牧師が持っていた祈祷書を奪い取り、オーブンの中に投げ込んだのだ。もう一人のベル牧師(バプテスト派)も、罵る言葉とともに激しく物を投げつけられ、恐怖のあまり逃げ出した。すると次の瞬間、声は慈悲深い口調に変わり、自らは天使だと主張して賛美歌を歌い始めるのだった。
その後、パーシー・ウッドコックという地元の心霊研究家が一家のもとを訪れ、ダイナにインタビューを行った結果、彼女には敷地内の古い小屋に住んでいる霊とチャネリングできる能力があることがわかった。ウッドコックはダイナの助けを借りて小屋で霊と接触し、長い対話と問答を行った。当初、声はウッドコックに向かって「ここから出て行け、さもないと首をへし折るぞ」と唸り、罵声を浴びせたが、彼は暴言が終わるのを辛抱強く待ってから、さらに5時間にわたり言葉を戦わせたのだ。地元の劇作家でアマチュア歴史家のグレッグ・グラハムは、次のように解説する。
「目撃者が集まっている中、ウッドコックは霊に向かってダイナを放っておくようにと頼んだ。ウッドコックと霊は、哲学・神学・神の性質・善と悪について議論し始めた。そして、彼が幽霊を怒らせると、ダイナの体は平手打ちされたり、蹴られたり、殴られたり、引っ掻かれた時のような反応を示した」
この対話の間、結果的に霊はさまざまな内容を語った。家族を傷つけようとしているというよりも、すべては自分の楽しみのためにやっていること。また、20年前にこの土地で亡くなった80歳の男性の霊であり、天使であり、悪魔でもあることなどを訴えてきたという。
そして驚くべきことに、長時間にわたるウッドコックの交渉が実を結び、霊は一家の元から去ることに同意した。翌朝、一家の子どもたちは、流れるような白いガウンを着た背の高い老人が近くを歩いている光景を見たと言った。そして、家族を苦しめてきた不可解な現象は終息した。
後に本件の報告書も作られたが、政治家・警察・聖職者を含む17人が、そこに記録されている内容のすべてが真実であるという宣誓供述書に署名している。
これでダッグ一家の騒動は一件落着したかに思えたのだが、不思議なことに近年になって再びこの土地で異変が起きているという報告がある。2014年、『オタワ・シチズン』紙のクリス・ラックナーが現地を訪れ、かつてダッグ一家が暮らしていた屋敷の現オーナーであるシャーリーン・ラボンバードに会った。ラックナーはシャーリーンとの会話について次のように書いている。
「シャーリーンが10代の頃だ。何者かが古い階段を上ってきて、彼女の部屋のドアの前で立ち止まる音がした。兄妹のいたずらだと思い、彼女はドアを開けたが、そこには誰もいなかった。『私は迷信深くない』と語るシャーリーンだが、白いガウンかドレスを着た少女が家の中を徘徊している様子を目撃したことがあるという。彼女の亡くなった夫も、一度同じ光景を目にしていたそうだ。ちなみに、ダッグ一家の事件後、この家には別の家族が暮らし始めたのだが、イライザ・ジェーンという幼い娘が熱湯の入った鍋で大火傷を負い、命を落としたという。この悲劇と、ダッグ一家の事件に、なんらかのつながりがあったとしたら――」
つまり、ダッグ一家を襲った悪霊が、戻ってきて次の住民の命を奪い、その犠牲者である少女もまた霊となり、家を徘徊している可能性を示唆しているわけだ。まだまだ謎は多いが、100年以上経った今でもダッグ一家の事件は地元で語り継がれている。さまざまな議論があるものの、特定のジャンルに分類することさえ難しい奇怪な事件だったことに変わりはない。郷土史家のベニシア・クロフォードは、こう語っている。
「霊はそこにいるみんなを動揺させたいと思い、それをうまくやり遂げた。とてもユニークな性格かつ奇妙な霊だった。善で悪でもなく、その時その時で、ただやりたいように振る舞ったのでしょう」
それにしても、ダッグ一家の事件に多くの目撃者がいることをどう説明すればよいのだろう。本当に超自然的な存在による仕業だとしたら、なにを望んでいたのか? なぜ養女ダイナが標的になったのか? そしてどこへ行き、実際にまた戻ってきたのか? この事件がカナダで最も奇妙な幽霊事件のひとつであることに変わりはない。
Brent Swancer(ブレント・スワンサー)
豪ミステリーサイト「Mysterious Universe」をはじめ数々の海外メディアに寄稿する世界的ライター。人気YouTubeチャンネルの脚本、米国の有名ラジオ番組「Coast to Coast」への出演など、多方面で活躍。あらゆる“普通ではない”事象について調査・執筆・ディスカッションを重ねる情熱と好奇心を持ちあわせる。日本在住25年。『ムー』への寄稿は日本メディアで初となる。
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