「なんとみゑますか」大正時代の妄想絵葉書に衝撃! 話題の古書店主が語る摩訶不思議なコラージュ写真たち
いま密かに話題の古書店「書肆ゲンシシャ」の店主・藤井慎二氏が、同店の所蔵する珍奇で奇妙なコレクションの数々を紹介!
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いま密かに話題の古書店「書肆ゲンシシャ」の店主・藤井慎二氏が、同店の所蔵する貴重なコレクションの数々を紹介!
「驚異の陳列室」を標榜し、写真集や画集、書籍をはじめ、5000点以上にも及ぶ貴重なコレクションを所蔵する大分県・別府の古書店「書肆ゲンシシャ」。
まるで、温泉街には似つかない雰囲気だが、SNS投稿などで同店のコレクションが話題を呼んでいる。その異色さに惹かれ、九州のみならず全国からサブカルキッズたちが訪れる、別府の新たな観光スポットになった。
知覚の扉を開くと、そこは異次元の世界……。ようこそ、書肆ゲンシシャへ。
――今回のテーマは精神科病院です。ホラー映画や都市伝説では廃墟の精神科病院が舞台となることも多く、オカルトとの結び付きは強いですね。
藤井慎二(以下、藤井) 映画や都市伝説よりも、現実のほうがオカルティックだったりしますね。例えば『忘れられた人々』(第三書館)は馬小虎という北京出身の写真家による、中国の精神科病院を収めた写真集です。彼は本名を呂楠というのですが、日本では馬小虎、台湾では李小明と名前を変えて写真集を出版しています。中国で疎外された人々を被写体にしており、本書は日本の第三書館から刊行されています。
――同社はタブーや検閲を恐れない出版社として知られていますよね。
藤井 この写真集も、中国の精神科病院の悲惨さを克明に写し出しています。例えば発病した時に雪の中に長時間いたため凍傷になり、足と手の指を切断せざるを得なくなった男性や、2か月も炭窯に鎖で繋がれているという23歳の女性など……。1989年に撮られた写真が多いですね。
――まだ、30年くらい前の話なんですね。
藤井 出版が1993年ですからね。そのほかにも、天津の精神科病院で、ベッドの下に置かれた、餌皿のような器に入った水を飲んでいる患者の様子も撮られています。
――人権意識のかけらもない衝撃的な内容ですね。このような出来事がホラー映画や都市伝説で肉付けされていく……。
藤井 あと、病院生活が単調で、スペースも狭いため、庭にある円形のテーブルの周りをずっと目的なしにグルグル歩き続けている患者さんたちを収めた写真もあります。
――海外の事例とはいえ、ここまで劣悪な環境がほんの数十年前まではあったとは……。
藤井 巻末にある文章も壮絶です。街の人たちが精神科病院に「見物」にやってくる場面が紹介されているんですが、女性の患者の服を脱がせ、命令に従ったご褒美として残飯などを投げ与えたり……。そのほかにも、爆竹を詰めたタバコを与え、火をつけた患者の唇と手が爆発で血だらけになってしまったとか……。
――30年経った今ではかの国の精神科病院を取り巻く環境や、人権意識も様変わりしたと願いたいものですね。
藤井 2冊目はブラジルの精神科病院の写真集『MADNESS』です。サンパウロ州にあるブラジルで最も古く、最大級の精神科病院であるジュケリ精神科病院の患者を被写体にしています。この写真集に写っている患者の多くが裸です。写真家は「精神病患者にとって、服を着ているかどうかはあまり関係ありません」と書いています。
――裸の患者が檻のようなところに入れられている写真もあり、ショッキングな光景ですね。
藤井 写真家が、おそらくアルツハイマー病のため認知症になり、自分を認識できなくなった祖母を撮影したことが、精神科病院の患者たちを被写体にするきっかけになったそうです。
――この写真集は全編モノクロですが、年代的には比較的新しそうです。
藤井 前出の『忘れられた人々』と同年代で、1989年頃に撮られた写真が多いです。本書が出版されたのは1997年になります。2人の患者が裸で手を繋いでいる写真もありますが、片方の人物は歯がほとんどなく、本当に悲惨な状態です。
――本当にこれは病院施設といえるのでしょうか……?
藤井 次は『Morire di classe』というイタリアの写真集です。フランコ・バザーリアという精神科医が編集しています。この写真集は、精神科病院がどのような状況であるのかを知らせるため1969年に出版されました。フランコ・バザーリアは、精神科病院の院長で、窓の鉄格子を外し拘束衣を廃止するなどの改革を行いました。1978年、同国では「バザーリア法」という法律ができて公立の精神科病院は廃止され、患者を精神病院に入院させるのではなく、地域でケアするようになりました。そのような社会的意義のある写真集ですが、原書は10万円近くのプレミアが付いているため、うちにあるのはその復刻版です。
――日本語の翻訳版がないので、当然ですが、すべてイタリア語ですね。
藤井 フェンスの囲いの中にいる患者の様子や、床に横たわっている様子など、精神科病院の悲惨さを訴える写真がたくさん載っています。鉄格子をはめられた窓から外に向けて患者がなにかを叫んでいるような写真もありますし、「水治療」をするための場所の写真もあります。
――バスタブに入浴させたり、運動機能を回復させるためのリハビリテーションのことを指しますね。閉ざされた院内ではいろいろな治療が行われてきたのですね。
藤井 『Ward 81 Voices』というアメリカのオレゴン州立病院の写真集もあります。マリー・エレン・マークという写真家の作品で、1979年に出版されました。うちにあるのは復刻された増補版です。
――ここまで紹介されてきた写真集よりも、判型が大きくて分厚いですね。
藤井 中国やブラジルの写真集よりも悲惨さはありませんが、本書では閉鎖病棟に収容された女性たちの生活を記録しています。この写真集の表紙も水治療を受けている患者の写真です。ちなみに、マリー・エレン・マークはほかにも興味深い写真集を刊行していて、ストリートチルドレンやサーカスを題材にした写真も撮っています。
書肆ゲンシシャ
大分県別府市にある、古書店・出版社・カルチャーセンター。「驚異の陳列室」を標榜し、店内には珍しい写真集や画集などが数多くコレクションされている。1時間1,000円で、紅茶かジュースを1杯飲みながら、それらを閲覧できる。
所在地:大分県別府市青山町7-58 青山ビル1F/電話:0977-85-7515
http://www.genshisha.jp
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