「なんとみゑますか」大正時代の妄想絵葉書に衝撃! 話題の古書店主が語る摩訶不思議なコラージュ写真たち

構成=伊藤綾 編集=千駄木雄大

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    いま密かに話題の古書店「書肆ゲンシシャ」の店主・藤井慎二氏が、同店の所蔵する珍奇で奇妙なコレクションの数々を紹介!

    「驚異の陳列室」を標榜し、写真集や画集、書籍をはじめ、5000点以上にも及ぶ奇妙なコレクションを所蔵する大分県・別府の古書店「書肆ゲンシシャ」。

     まるで、温泉街には似つかない雰囲気だが、SNS投稿などで同店のコレクションが話題を呼んでいる。その奇妙さに惹かれ、九州のみならず全国からサブカルキッズたちが訪れる、別府の新たな観光スポットになった。

     知覚の扉を開くと、そこは異次元の世界……。ようこそ、書肆ゲンシシャへ。

    巨大な野菜と動物にみんなだまされた?

    藤井慎二(以下、藤井)  そういえば、『クレイジージャーニー』(TBS系)でおなじみの写真家・佐藤健寿さんの特別展「佐藤健寿展 奇界/世界」が大分市美術館で開催されています。

    ――市営の美術館で、そんな尖った企画展が行われているのですね。

    画像は「佐藤健寿展 奇界/世界」より引用

    藤井  全国を巡回しているようで、大分市美術館では9月23日までなのですが、臼杵市にある鹿や猪の骨が山積みにされた洞窟「白鹿権現」などを撮影した写真や、大分で撮り下ろした新作もあって、大分県内の不思議なスポットの写真も何枚か展示されていました。きっと、前々から大分で気になっていたところがあって、巡回に合わせて撮ったのでしょうね。

    ――意外に大分にはそのような奇怪な名所いっぱいありますよね。

    藤井  そのほかにも、アメリカの医学博物館「ムター博物館」や、“死体博物館”とも呼ばれるタイの「シリラート病院法医学博物館」などの写真も展示されていました。このような文脈であれば、大きな美術館で、死体写真も展示することができるんですね。

    ――そんな写真もあるのですね……。さて、今回は昔の絵葉書がテーマになります。また、鬼のミイラでしょうか?

    藤井  いえ、トリックアート的な絵葉書を中心に紹介していきます。まず、これは1900年初頭の絵葉書です。合わせ鏡になっており、本当は真ん中にしか人がいないのに5人いるように見えるというものですね。

    ――そういえば、ゲンシシャにはPhotoshop登場以前にコラージュされた作品などを集めた写真集『Faking it: Manipulated Photography Before Photoshop』がありますよね。

    藤井  今回はその写真集に載っている写真の元ネタ・現物になります。あまりにもクオリティが高いので、当時、本当に信じる人もいたとかいないとか……。今でもこうした絵葉書は、ゲンシシャの人気コンテンツですね。

    ――モノクロだからこそ、余計にリアルに見えますよね。

    藤井  こちらは1908年のアメリカでつくられたコラージュ写真の絵葉書です。あり得ないような大きさの果物や野菜の写真ですね。マックス・エルンストなど20世紀のシュルレアリスムの有名な画家が、似たようなコラージュ作品を手がけていますが、それ以前にも、こうしたコラージュ写真の絵葉書が市民レベルで流行していたことを証明しています。

    ――コラージュということは、別の写真を切り取って貼り付けて、一枚の写真にしているわけですね。

    藤井  そうですね。そして、「こんなに大きな果物が獲れました!」というように見せているんですね。これと同じ手法でつくられた動物バージョンの絵葉書もあります。これはうさぎ狩りをしている様子なのですが、うさぎがめちゃくちゃデカいという。

    ――もはや、RPGゲームみたいな世界観ですね。

    藤井  1900年台初頭のアメリカなどで、こういう絵葉書は多く作られていたのですよ。

    ――1900年代初頭というと、まだ日本は明治時代で写真自体が珍しかった時代のはずです。

    藤井  また、変わった絵葉書に多いジャンルで「だまし絵」もあります。これは鏡に映った女性とその後ろ姿を描いた絵ですが、髑髏にも人間にも見えるというようなだまし絵ですね。

    ――このだまし絵、よくインターネットでも見かけますが、元ネタは何なのでしょうか?

    藤井  ヨーロッパのほうの絵です。要するに「メメント・モリ(死を想え)」ということですね。当時は、スペイン風邪やコレラなど、いろいろな伝染病がはやっており、死が身近にあった時代には、こうした絵がよく描かれていました。ちなみに、この絵葉書自体は日本の絵葉書です。どこかの会社がこの図版の版権みたいなものを買ったのか、勝手に使ったのかはわかりません。

    ――いつ死ぬかわからないとはいえ、何でもアリだったのでしょうかね……。

    人々の妄想が凝縮した大正時代の絵葉書

    藤井  また趣が変わって、これは一見すると馬の絵なのですが、よく見ると人間が3人くらい集まっているようにも見えるというだまし絵の絵葉書です。

    ――「欽ちゃんの仮装大賞」みたいですね。これはどこで買ったんですか?

    藤井  ネットオークションで買いました。「ホワットドゥユーシィ?(なんとみゑますか)」と書かれた封筒に入れられた状態で、封筒と一緒に売られていていました。

    ――えっ、なんかオシャレ……。昔もトレーディングカードのように、中身がわからない状態で売られていたのでしょうか?

    藤井  どうなのでしょうね。単純にだまし絵ということで、そう書かれたのではないでしょうか? また、こちらの絵葉書は大正時代の日本のものですが、封筒には「皮一重」と書かれていました。明治時代には医療用X線装置が日本に入ってきていて、みんな人間の中身にとても興味津々だったんですね。そういった時代背景もこういったメディアからも読み取れます。

    ――いやはや、時代性や当時の風俗も現れていますね。でも、不思議とちょっとオシャレな感じもありますよね。

    藤井  描かれているシチュエーションもさまざまで、「結婚」「一夜快楽」「海水浴」といったタイトルの絵葉書もあります。

    ――グラビアアイドルの世界だと、“妄撮”みたいなジャンルがありますが、これはレントゲンみたいに骨まで覗いちゃうわけですね……。とはいえ、シリーズ化するほど需要があったんですかね。(笑)

    藤井  「皮一重」の封筒には8枚の絵葉書が入っていて、それを2セット所有しています。

    ――絵師はどういう方なんでしょうか?

    藤井  アサノカオルという人らしいのですが、調べてもよくわからないんですよね……。

    ――すごい。本当に埋もれた歴史を感じます。

    書肆ゲンシシャ

    大分県別府市にある、古書店・出版社・カルチャーセンター。「驚異の陳列室」を標榜し、店内には珍しい写真集や画集などが数多くコレクションされている。1時間1,000円で、紅茶かジュースを1杯飲みながら、それらを閲覧できる。
    所在地:大分県別府市青山町7-58 青山ビル1F/電話:0977-85-7515
    http://www.genshisha.jp

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