UMAと動物、妖怪と伝奇…現役の不思議研究家・實吉達郎の現在

文=羽仁 礼 写真=福島正夫

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    UMAをはじめ、動物、昆虫から妖怪、中国の古典に至るまで、さまざまな分野の著書を持ち、日本における動物研究に大きな影響を与えたレジェンドの実像に迫る。

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    Chapter7 原動力は湧きあがる好奇心と探究心

    UMAに対する實吉氏の向き合い方

     広島県庄原市の西城町で目撃されたヒバゴンの正体についても、戦争中のスパイがまだ潜んでいたという説まで含めた仮説を検討した結果、實吉氏はもっとも可能性があるのは山男だとしている。
     實吉氏のいう山男とは、民俗学者の柳田國男などが書き残している山岳民で、ときに山人や大人などとも呼ばれる。山奥に住んでいて、平地の人間とは異なる独自の文化を持ち、言葉も通じない。柳田はこれを日本の先住民ではないかとするが、實吉氏によればヒバゴンもその生き残りということになるのだ。
     またツチノコについても、實吉氏はヒメハブの一種ではないかとするなど、個々のUMAの正体については、自らの該博な知識に照らしてかなり常識的な判断をすることもあるようだ。
     さらに、UMAについて調べてみると、かなりウソや誤認も多いと述べる。その一方で、UMAという未確認動物は常に存在するし、今後も生まれてくるという。
     しかし、真にUMAと認定されるためには、その報告について真偽をきちんと調べる必要があると述べている。實吉氏によれば、UMAについて報告があった場合、まず目撃者がどれだけ動物に関する知識があり、目撃した動物についてどれだけ正確に確認できるかを確かめる必要があるという。知識が乏しい人であれば、普通の動物を見ても、見知らぬUMAだと考えることもあるだろう。
     続いて、その報告の内容を吟味する必要がある。動物というものは、それが属する科や種によって、おおむね形状や大きさが定まっている。それに照らして異なっているのがUMAというわけだが、たとえば脚が3本しかないなど、明らかに動物の普遍的な性質から外れた話は怪しいと思うべきだ。
     それに、普通と違うという程度がどれくらいのものかも、知識がないと見分けることは難しい。キツネやタヌキなども、通常より色が薄かったりする個体はいるし、普通より大きかったとか小さかったという場合も、種としての許容範囲内にあるかどうかを判断する必要がある。その結果、普通とは違うと判断された場合でも、できればきちんと飼育するなどして、時間をかけて観察することが望ましい。

    中国の古典にも造詣が深い實吉氏。写真は2007年に中国・北京を訪れたときのもの。

    興味と関心の赴くままに現役でありつづける

     インタビューの機会に、實吉氏にUMAや動物以外の関心事項についても訊ねてみた。空から魚が降ってくる、いわゆるファフロツキーズについて、鳥が丸呑みした魚を空中で吐きだすという説を話題にしたところ、「そんなに雨のように降るほど、鳥がたくさん吐きだすだろうか」と實吉氏は懐疑的であった。
     その口ぶりからすると、竜巻がある水域の水を魚と一緒に巻きあげ、それが降ってくるという竜巻説を支持しているようだ。ただ、それほど頻繁に起こる現象ではなく、ごく稀に起きた話を少年誌などが面白おかしく取りあげ大げさに伝わったのではないかという。


     妖怪に対する関心については、UMAへの興味にも通じる部分があるようだ。つまり、何か奇妙な存在について耳にしたとき、それが実在するかどうか確かめること、その過程自体が楽しいらしい。もしかしたらいるかもしれない、あるいは実在する何かを目撃してその話が伝わった可能性があるという点では、實吉氏にとって妖怪もUMAも似たようなものなのかもしれない。
     アラビアン・ナイトや中国の古典、シャーロック・ホームズに対する関心も、青年時代にこうした書物に触れて興味を持ち、関係書を集めて調べてみると非常に奥が深いと知ってのめり込んだという。その結果、そうした内容をほかの人にも紹介したくなって本を書いたのだそうだ。

    動物に関するものをはじめ、さまざまな分野の著書がズラリと並ぶ實吉氏の自宅の書棚。

     男色や美少年への関心も、似たような過程をたどっている。じつは学習院出身者にはそのような傾向を持つ者が多く、どこからかそうした話を聞いて、それがどれくらい昔からあるものか調べたところ、戦国武将の逸話や古典などから多くの事例を発見し、その成果をまとめたという。
     つまり、UMAと動物学、妖怪、シャーロック・ホームズ、中国の古典、アラビアン・ナイトや男色など、一見異なる分野のさまざまな関心事項であるが、好奇心を刺激する奇妙な話という意味では、實吉氏の中では同じような位置づけなのだろう。
     こうしたさまざまな分野のうち、現在何に一番関心があるかも訊ねてみたが、特にこれというものはなく、いずれのテーマも従来同様関心を持っているという返事が返ってきた。だが、やはり動物については特別な思い入れがあるらしく、言葉の端々からも、最近の動物関係の記事やテレビ番組にも目を光らせている様子がうかがえた。
     實吉氏は今年95歳になるが、今も矍鑠としている。地元の東京都多摩地区においては、交流のあるミュージシャン・岡崎忍氏のマネジメントで、「ようこそ摩訶不思議ゾーンへ」や「昔話から未確認動物UMAをさがせ」などと題したトークイベントを何度も開催し、「實吉先生の動物の話」をはじめ、YouTubeでの発信も続けている。

    最近開催されたカフェイベント「ようこそ摩訶不思議ゾーンへ」(上)と
    新刊発売キャンペーンのトークショー(下)の様子(写真=ベッドタウンミュージック)。


     2022年に2階にわたり開催された「うわっ! 町田の妖怪伝説!?」と題するトークイベントでは、居住する町田市の妖怪に関する考察を語り、今年公開された今井友樹監督の映画『おらが村のツチノコ騒動記』では初の映画出演も果たし、独自の視点から解説を披露している。まさに實吉達郎の面目躍如というところだ。

    最近開催されたカフェイベント「ようこそ摩訶不思議ゾーンへ」の様子(写真=ベッドタウンミュージック)。

    (月刊ムー 2024年9月号)

    羽仁 礼

    ノンフィクション作家。中東、魔術、占星術などを中心に幅広く執筆。
    ASIOS(超常現象の懐疑的調査のための会)創設会員、一般社団法人 超常現象情報研究センター主任研究員。

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