ネット上には本当にタイムトラベラーが潜んでいるのか? 科学者たちの本気の捜索活動

文=仲田しんじ

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    まるで“完全犯罪”を目論む知能犯のように、タイムトラベラーは訪れた痕跡を一切残さずに立ち去っているのだろうか。物理学者チームがネット上でタイムトラベラーの痕跡を徹底的に捜索したのだが――。

    タイムトラベラーの痕跡を物理学者チームが徹底捜索

     誰にも知らせず魅力的なパーティーを開催し、それが終わった後に招待状を一般公開する。当然パーティーの参加者はいないはずで、まったくナンセンスな行為にも思えるが、もしも参加者がいた場合はどうだろう。その人物は、未来の情報をあらかじめ知ることのできた予知能力者か、未来で招待状を見たタイムトラベラーではないのか? 

     この冗談のような実験を理論物理学者の故スティーブン・ホーキング博士は2009年6月28日に英ケンブリッジ大学で行っていたという。もっとも、ホーキング博士の実験ではパーティーの参加者は一人もいなかった。だが、ひょっとすると博士は身近にいるタイムトラベラーの存在を常日頃感じていたのかもしれない。

    画像は「Pixabay」より

     ホーキング博士のこの拍子抜けするようなアイデアに興味をそそられたのが、米ミシガン工科大学の物理学者のチームである。インターネット上の痕跡から、タイムトラベラーを探し出そうと考えたのだ。

     彼らは「特定の日付以前には誰も知り得ないが、その後は多くが知っている特定のキーワード」を選んだ。そのワードは、できる限り過去に偶然に言及された可能性が少ない“新語”であったほうがよいし、その日以降はより多くの人々が知ったワードであるほうがよい。

     検討を重ねた結果、2つのワードが選ばれることになった。それらは、2012年9月21日に発見されてその後命名された「アイソン彗星」と、2013年3月13日に第266代教皇に選出されて命名された「フランシスコ教皇」である。

     この2つのワードについて、その日時以前にネット上に書き込まれた記録があるかを調査し、もしも見つかれば、それを書き込んだ人物がタイムトラベラーである可能性が生じることになる。

    「アイソン彗星のような明るい彗星の歴史は、世界中の学会や雑誌でよく記録されてきた。それらが人々の印象に残る可能性は大いにある」
    「予知情報を持たない人が、2012年9月以前に何かを『アイソン』と呼ぶ理由はない。したがって、2012年9月以前の“アイソン彗星”という言及は、未来からのタイムトラベラーである証拠となり得る」(研究チーム)

    “自己顕示欲”のあるタイムトラベラーはいるのか?

     研究チームはFacebookやTwitter(現X)の投稿やGoogleトレンドなどを広範囲に検索し、「アイソン彗星」と「フランシスコ教皇」が含まれるツイートや記述を徹底的に調べあげた。

     しかし、残念ながら研究チームは、命名前にこれらのワードがインターネットで使われた証拠を見つけることはできなかった。

     人類の歴史に比べればインターネットの歴史はきわめて浅いと言わざるを得ないが、少なくとも現在検索できるネット上にはタイムトラベラーの痕跡はなかったのだ。

     もしもタイムトラベラーがいるとすれば、普段彼らは自分が目立つことがないようにひっそり暮らしているとも想像できる。しかし、諦めることができなかった研究チームは次に“自己顕示欲”のあるタイムトラベラ―に賭けてみることにした。タイムトラベラ―の中には、完全な“身バレ”は避けたいものの、その片鱗をチラ見せすることで周囲を驚かせて悦に入るタイプの人物もいるかもしれない。

    画像は「Pixabay」より

     そこで研究チームは、未だ見ぬタイムトラベラーに向けてSNSで情報発信をした。過去の特定の時期(2008年11月から2013年8月まで)に、特定のハッシュタグ(#ICannotChangeThePast2)を記したツイートをSNSに投稿するか、あるいはそのハッシュタグを記したメールを特定のメールアドレスに送るようにと、どこかで見ている“自己顕示欲”のあるタイムトラベラーに指示したのである。

     はたしてタイムトラベラーの中には世間を驚かせてやろうという気持ちのある者がいたのか?

     しかし、これも残念ながらタイムトラベラーからの予知的なツイートやメールはなかった。残念な結果であり、タイムトラベラーが少なくともインターネットの時代には存在していないことが示されたが、研究チームは他にもいくつかの理由を挙げている。

    「タイムトラベラーが過去に滞在した痕跡をインターネット上に残すことは物理的に不可能かもしれない。まだ知られていない物理法則に反するような情報を見つけることも不可能かもしれない。タイムトラベラーは発見されたくないかもしれないし、痕跡を隠すのが上手なのかもしれない」(研究チーム)

     この研究結果をホーキング博士は天国からどう受け止めているのだろうか。研究チームにアドバイスするホーキング博士の“天国からのメッセージ”が届くとすれば、それはまた別の話になりそうだが……。

    【参考】
    https://www.iflscience.com/physicists-searched-the-internet-for-evidence-of-time-travelers-75191

    仲田しんじ

    場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
    ツイッター https://twitter.com/nakata66shinji

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