呼吸困難の犬を獣医に診せたら… ディープすぎる米国の都市伝説の世界! 驚異の陳列室「書肆ゲンシシャ」の奇妙なコレクション
密かに話題の古書店「書肆ゲンシシャ」の店主・藤井慎二氏が、同店の所蔵する珍奇で奇妙なコレクションの数々を紹介!
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超常現象の宝庫アメリカから、各州のミステリーを紹介。案内人は都市伝説研究家の宇佐和通! 目指せ全米制覇!
1984年、筆者はオレゴン州アッシュランドにあるサザン・オレゴン・ステート・カレッジに留学していた。
オレゴン州は、ざっくり分けるとパシフィック・ノースウェスト(太平洋岸北西部)という地域に分類される。マイクロソフトやニンテンドー・オブ・アメリカの本社があるベルビューやシアトルで有名なワシントン州、そしてサンフランシスコやLAなどの観光都市を擁するカリフォルニア州に挟まれており、やや地味な印象だ。
そんなオレゴン州南部に位置するアッシュランドは、カリフォルニア州境まで車で40分くらい、毎年行われるシェークスピア・フェスティバルというイベントで知られている都市だ。今でこそ「サザン・オレゴン大学」と名称が変わったが、筆者が通っていた当時まだ学部の数が少なかった。そして当時、オレゴン州の中でもかなり田舎の部類に入るケイブ・ジャンクションという町出身のルームメイト、エリックから人生初のアメリカン・アーバン・フォークロア(=都市伝説)を聞いた。思えばこれが、40年以上にわたるライフワークとの最初の出会いだったことになる。
「オレゴンに大きな遊園地はない。せいぜいカーニバルのときに移動遊園地が回っているくらいだ。俺が知っている話は、ここ(アッシュランド)から車で1時間くらい行ったところにある、俺が生まれ育ったケイブ・ジャンクションという町で本当に起きた事件だ」
こうエリックは語り始めた。
「何年か前のカーニバルで、ちょっとした事件があったらしい。家族と一緒に来ていた7歳の男の子が、両親がちょっと目を離した隙にいなくなった。会場のあちこちを捜しても、どこにもいない。そこで母親が会場にいた警官に事情を話して、一緒に捜してもらうことにした。だが、会場をくまなく歩いても男の子は見つからない。これは大変だということになって、警察署から応援が駆けつけて、会場の出入口を全部塞いだ。両親がそのまま探し続けていると、少し離れたところに人だかりができているのに気づいた」
「『捕まえろ!』という声が聞こえてくる。そこに走っていくと、いかにも人相が悪いメキシコ系の男が2人、警官に銃を突きつけられながら両手を頭の後ろに回していた。男たちのすぐ横には大きな麻の袋があって、そこから子どもの足が突き出している。母親は思わず叫び声を上げた。2日前に息子に買ってやったのと、まったく同じスニーカーを履いていたんだ。思わず駆け寄って袋の中を見ると、ぐったりした状態の息子がいた」
エリックは、気が優しくて力持ちの“ザ・オレゴン人”という感じの若者だった。そんな彼が教えてくれた話は、牧歌的な田舎町で起きた事件の不可解さが際立って聞こえた。
さて、このストーリーラインなのだが、どこかで聞いた覚えはないだろうか。1996年の春から夏にかけて、日本の定番都市伝説として広まった「有名遊園地の人さらい」という話とまったく同じなのだ。念のためにストーリーを紹介しておく。
とある4人家族が◯◯ランドに遊びに行った時の話。人気アトラクションの列に並ぼうとした時、6歳になる息子がトイレに行きたいと言い出した。父親がトイレに連れて行き、入口のそばで待っていたが、10分経っても出てこない。父親が中に入って探してみると、息子がいなくなっていた。
慌てた父親がパークのスタッフに事情を説明すると、すべてのゲートを閉めてくれた。そして父親は、母親と娘と一緒に出口ゲートに立ち、人の流れを見張ることにした。しばらくして、母親が「あっ!」と小さく叫んで指を指した。その先にいたのは民族衣装を着た一団で、子どもが大人たちに抱きかかえられている。母親が指さしたのは、その子どもが履いている運動靴だった。息子が今日おろしたばかりの靴ではないか。父親は駆け寄ると、大人たちを押しのけ、子どもに被せられていた布を剥ぎ取った。するとそこにいたのは、髪を金髪に染められ、カラーコンタクトをつけられ、うつろな目をしたわが子だった。
筆者がフリーライターになって、まず取り組んだのはこの話だった。国内外で街頭調査を徹底的に行い、まだ普及し始めたばかりのインターネット掲示板を通してアジアから南米、そしてヨーロッパの話を集め、徹底的に話の背景を探ったのを覚えている。そして、とある雑誌の編集者を経由して「被害者を直接知っている」という人に会えるチャンスに恵まれ、群馬まで向かった。
実際に会ってみると、「自分が直接知っているわけではなく、知り合いの知人が被害者だ」というような話になり、結局そこから和歌山、山口、最終的には長崎まで噂の連鎖を辿っていったが、被害者に出会えることはなかった。結局、Friend Of A Friend(=友だちの友だち)という、都市伝説ならではの「直接知っているわけではないけれども、実在することが十分感じられる架空の人物」を追いかけていたことになる。
日本国内での調査過程においても、事件が起きたとされる舞台になっているのがベイエリアの超有名遊園地だけではなく、筆者が実際に訪れた4県では、県民なら誰もが知っているレベルの遊園地に話が変化していることが明らかになった。アメリカから入ってきた話が、ベイエリアの超有名遊園地を舞台にした「日本で起きた話」に変容、さらに各地に拡散して、それぞれの土地の派生バージョンが生まれたのではないか、と筆者は考えるようになった。
こうなると、学生時代に聞いたケイブ・ジャンクション・バージョンが原話であるとも思えない。そこで、カリフォルニア州アナハイムに行き、アメリカ中から集まってくる人たちに聞き取り調査を行うことにした。
3日間で100人くらいから話を聞いたところ、同様の話を知っているのは82%という認知度の高さに気づいた。確認の意味で「これはオレゴンで起きた事件が基になった噂ではありませんか?」と訊ねると、「アメリカ中の有名遊園地が舞台になっている話だ」とあしらわれた。オレゴン州ポートランドから来た家族は、「その話、ポートランド周辺ではオークス・アミューズメント・パークで起きたということになっている」と教えてくれた。1905年に開園したポートランドの老舗遊園地だが、真相は不明だ。
このときの調査で、「遊園地の人さらい」は日本で生まれた都市伝説ではなく、アメリカ中に広まった話がそのまま舞台を日本に置き換えて語られるようになったことを確認し、アーバン・フォークロアの拡散のメカニズムを体験できた。
大都会が少ないオレゴンでは、大規模なテーマパークの数も極めて限られている。だからこそ、カーニバルの移動遊園地を舞台にした話が拡散したのだろう。その方がリアルだからだ。それに、カリフォルニア州ほどではないが、メキシコ系移民の人口がそこそこ多いこともリアリティを高める要素になっているはずだ。一方、ポートランドでは舞台がオークス・アミューズメント・パークのほうがリアルなので、別バージョンが拡散したということだと思う。
すでに触れたように、この話は厳密な意味でオレゴン生まれの話ではない。しかし、キャリアのきっかけになったという意味も含め、全米50州都市伝説の「オレゴン編」として、リストアップしないわけにはいかないのだ。
宇佐和通
翻訳家、作家、都市伝説研究家。海外情報に通じ、並木伸一郎氏のバディとしてロズウェルをはじめ現地取材にも参加している。
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