西洋版コックリさん「ウィジャボード」の誕生と流行/初見健一・昭和こどもオカルト回顧録
霊との交信に用いられる神秘の文字盤「ウィジャボード」。19世紀欧米の心霊ブームを機に普及したスピリチュアル・アイテムだが、商品としての大ヒットの仕掛け人は、意外な業界の人物だった。
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都市伝説研究家の宇佐和通氏の新刊『AI時代の都市伝説』から、今改めて知るべきトピックを抜粋して紹介!
日本人なら、大流行した昭和世代の人たちはもちろん、ほとんどの人が「こっくりさん」を知っているはずだ。よく似たものとして欧米では「ウイジャ・ボード」があるが、この項目で紹介するのはこっくりさんやウイジャ・ボードのネット由来版ともいえる「チャーリー・チャーリー・チャレンジ」というゲームのネットロアだ。〝デジタル降霊会〞という呼び方もよく目にする。
2015年頃から行われるようになったゲームで、直接ダウンロードするのではなく、ネットで遊び方を見ながら進めていく。SNS経由で急速に拡散し、ティーンエイジャーのユーザーから熱烈な支持を受けて、さまざまなサイドストーリーがネットロア化した。基本的にはきわめて単純な占いゲームで、チャーリーという名前の超自然的存在――精霊あるいは霊体――とコミュニケーションをとりながら進められる。媒体となるウイジャ・ボード的な道具もシンプルだ。
まず紙を1枚準備し、その上に全体を四分割するよう縦と横の線を入れる。四つのスペースに〝Yes〞と〝No〞を書きこんでいくが、同じ項目が対角になるように配置する。そして鉛筆を紙の上に置き、うまくバランスを取りながら十字架のように組み合わせる。
バリエーションはいくつかあるが、参加者のひとりが「チャーリー、チャーリー、遊んでもいい?」と唱えて精霊を呼び出す。鉛筆が動き出してYesを指したら、チャーリーがその場に来ていて、参加者からの質問に答える準備ができている。その後は〝Yes〞か〝No〞で答えられる質問を重ね、コミュニケーションを深めていく。やめたくなったら「チャーリー、チャーリー、やめてもいいですか?」と言って許可を得なければならない。鉛筆がYesを指すまで待ち、感謝の言葉をかけて儀式は終わる。
拡散の場となったのはTwitter(現X)やFacebook、Instagram、Vine といったソーシャルメディア・プラットフォームで、ユーザーがチャーリーとコミュニケーションを取ろうとするたくさんの動画が共有された。こうした傾向は特にティーンエイジャーの間で急速に目立つようになり、各種メディアで報道された。状況があまりにも加熱したため、一部の宗教関係者や教育関係者からこのゲームの本質的な要素によってパニックや精神的苦痛がもたらされる可能性を指摘する懸念の声が上がった。
「チャーリー・チャーリー・チャレンジ」が引き金になって、物理的なパニック症状を起こしたといわれるケースも実際にある。2015年にコロンビアのトゥンハという都市で4人のティーンエイジャーの女の子たちが集団ヒステリーと思われる症状のために入院した。土着信仰を大切にする世代の人たちから非難の声も上がり、ゲームが悪魔崇拝につながる可能性や憑依現象の危険性が叫ばれ、東リビアをはじめとする一部の国では自殺との関連性を懸念した政府当局がゲームそのものを禁止するという措置が取られた。
この章で紹介しているゲームすべてにあてはまるのだろうが、「チャーリー・チャーリー・チャレンジ」もまた、インターネット空間の民間伝承であるネットロアがどのようなプロセスを経て文化や言語の壁を超えて生まれ、世界中で同時多発的に拡散していくのかを検証する好例といえる。
アーバン・フォークロアやネットロアは、現代神話と形容されることが多い。新時代の神話が紡がれる主な場はソーシャルメディアというデジタル由来のスペースであり、そういうスペースで超自然的な内容の話が生み出されるという事実も興味深い。
「チャーリー・チャーリー・チャレンジ」の本質は、日本の昭和時代の小学生たちが放課後の教室で行っていたように、シンプルで無害なゲームだったはずだが、このゲームに副次的かつ意図的な情報がデジタル由来のスペースで生まれ、拡散した。
専門家は、ゲーム中に観察される現象について、さまざまな角度から心理的/科学的説明を試みた。紙の上に十字架状に重ねて置いた鉛筆が動くメカニズムについてあえて解釈を加える試みもあった。鉛筆がひとりでに動く現象は、無意識の小さな運動動作の結果としてのイデオモーター効果、あるいは単に参加者の呼吸といった単純な物理的説明が次々と挙げられた。ゲームを進めていく上で生まれる予測や暗示によって、人々が完全に自然な出来事を超常現象として認識してしまう可能性がある。これは、同じ思いを抱く人々の影響によってさらに増幅され、特に集団としての恐怖体験に対処することが強い絆になりえるティーンエイジャーの間で顕著となる。
それでも、広く拡散して確立されてしまったネットロアは認知度も信頼度も高い。名のある専門家がいかに言葉を尽くしたところで、同じ世代の多くの人たちによってシェアされている感覚が崩れることはなかった。
アイスバケット・チャレンジとか、ボトルキャップ・チャレンジなどポジティブな内容のチャレンジ系ゲームが流行した時期がある。一見無害でシンプルな「チャーリー・チャーリー・チャレンジ」の急速な拡散は、そういう流れに乗る形で起きたのではないだろうか。
<書籍情報>
『AI時代の都市伝説: 世界をザワつかせる最新ネットロア50』
宇佐和通・著/笠間書院
https://shop.kasamashoin.jp/bd/isbn/9784305710147/
宇佐和通
翻訳家、作家、都市伝説研究家。海外情報に通じ、並木伸一郎氏のバディとしてロズウェルをはじめ現地取材にも参加している。
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