霊に憑依された兄弟がテレポーテーションを連発！バチカンも調査した「パンシーニ兄弟」事件の謎

夢の新生活が一転、悪夢の日々に

　1901年、マウロ・パンシーニという名の質素な石工兼建築家が家族とともにイタリア・バーリ郊外のルーヴォ・ディ・プーリアという小さな町に移り住んだ。そこはのどかで魅力的な小さな街で、モザイク状に広がるオリーブ畑とブドウ畑に囲まれた場所であった。静かな生活を送りながら２人の幼い息子、アルフレードとパウロを育てるには絶好の場所だった。一家は引っ越してくるとすぐに趣のある古い家の修復工事を始めたが、わずか数日で新生活は悪夢へと激変。ポルターガイストなどの奇妙な出来事からテレポーテーションまで事態は深刻化していく。

　当初は、物や家具がいつのまにか移動している程度のことだった。それだけならば、単なる物忘れで済んだかもしれないが、やがて物や家具が勝手に動く光景を目撃するようになり、その勢いは増すばかりだった。日が経つにつれて、物や家具が置かれていた場所から飛び上がり、部屋の中を横切ったり、壁にぶつかったり、怒りに任せて壊したような状態で発見されるなど、どう見ても非常に暴力的かつ破壊的な幽霊の仕業であるように思えた。そして、よく考えず一家は自分たちを苦しめている霊との交信を試みるために交霊会を開くことにした。この交霊会の直後から、超常現象はさらに爆発的で恐ろしいものとなり、マウロは幽霊ではなく悪魔の仕業ではないかと考えるようになるのだ。

悪魔は幼い兄弟を狙っていた？

　ある日、７歳の息子アルフレードが突然深いトランス状態に陥り、「演説家のような奇妙な声」で、フランス語、ラテン語、ギリシャ語など、彼が知るはずもない言語で話し始めた。彼はやがてトランス状態から抜け出せたが、何も覚えていなかった。しかも、その後だんだんと同じような状態に陥る頻度が増えていった。彼がトランス状態のまま「霊が必要なものは何でも持ってきてくれる」と言い放つと、テーブルの上やパントリーの中に、何もないところから食べ物が現れる現象もしばしば発生した。トランス状態のアルフレードに「なぜこのようなことが起こるのか」と尋ねると、「家の中の悪霊を追い払い、今は善良な霊に取って代わったのだ」と答えたという。現地の新聞『ジョルナーレ・デ・イタリア』には、こう書かれている。

「ある晩、７歳のアルフレード・パオリという男の子が、他の家族がいるときに眠りに落ち、別人の声で、自分は悪霊を追い払うために神から遣わされたと話し始めた。しばらくの間、目に見えない善良な霊たちが彼にキャンディーやチョコレートなどのお菓子を運んできた。 ある夜、少年はトランス状態になりながら、善良な霊と邪悪な霊との間で行われている戦いを描写した。次に、少年は機械的に歩き始め、知るはずのない物事に関する質問に答えるようになった。両親は少年を教会に連れて行った。そこで少年は死体のように意識を失ったが、司教が名前を呼ぶと覚醒した。少年は司教のもとに数日間とどまり、それから両親のもとへと戻った」

　誰も何が起こっているのか分からなかったが、アルフレードの家族は息子が憑依されていると確信し、最終的に彼の身の安全のために神学校に通わせることにした。彼はそこで３年間を過ごしたが、その間、怪奇現象や憑依は完全に止み、一家の生活は平穏を取り戻した。ところが、アルフレードが戻るとすぐに再発し、そればかりか、弟のパウロまで同様の状態に陥るようになった。

原因不明のテレポーテーションまで頻発

　そんなある日、母親が司祭と話し合っていると、部屋にいたはずの兄弟の姿が消えているという奇妙な現象が起きた。すると、しばらくして別の地元住民から電話があり、少年たちが数マイル離れた場所で彷徨っていると告げられた。部屋にいなさいという教えに背いて抜け出したと思った父親は怒り、兄弟を部屋に閉じ込めたが、またしても少年たちは姿を消し、今度は遠く離れた叔父の家に一瞬のうちに現れた。また、ある時は、走っている馬車の中から忽然と姿を消し、馬車が到着した時に目的地で発見された。テレポーテーションと思われる現象はその後も続き、『ジョルナーレ・デ・イタリア』紙もその詳細を解説している。

「ある日の午前９時、少年アルフレードと弟パオロはルヴォにいた。しかし９時半、彼らは（30マイルも離れた）マルファッティにあるカプシーヌ修道院で発見された。別の日の午後12時半、家族全員がテーブルについていた時、兄弟にワインを取りに行かせたところ、そのまま突然姿を消し、午後１時に２人ともバルラッタ港からほど近い海上の漁船で発見された。漁師は突然出現した２人に怯えたが、２人を陸に戻すと、幸運なことに兄弟のことを知っている御者（馬車の運転手）を見つけ、家まで送ってもらうことができた。このようにして、彼らは何度も神隠しに遭い、他にもビシェリエ、ジョヴィナッツィ、マリオッティ、フェルリッツィなどで発見され、そのたびに両親のもとへと連れ戻された」

　どのケースでも、兄弟は「深い催眠状態」にあり、何が起こったのか覚えていなかった。これらのテレポーテーションは、教皇レオ13世とピウス10世の医療顧問であったジョセフ・ラッポーニによって調査された。彼は兄弟を部屋に閉じ込め、窓やドアなどの逃げ道を全て封鎖したというが、それでも２人は消え、直後に数マイル離れた場所に現れた。他の科学者や医師も兄弟を調査したが、合理的な説明は見つからなかった。やがて、この奇妙な事件はニュースを賑わし、イタリア全土で話題になった。魔女、悪魔、（異次元への）ポータル、精神のパワーなど、あらゆる可能性が囁かれたが、アルフレードがトランス状態にある時に（彼の体を借りて）霊が語った言葉によると、これらは霊による非物質化と再物質化によるもだという。

誰にもわからない真実

　しかし、『Annals of Psychical Science』誌に掲載されたある報告書には、こう書かれている：

「パンジーニ兄弟が謎の失踪を遂げ、ほぼ瞬時に別の場所に現れたことについて、この問題を調査したイタリアの博識者による仮説は、兄弟が歩行自動症であるというものである。ペトリュス博士は、筋肉が過緊張状態にある２人の少年が、30キロ、40キロ、80キロ、90キロの距離を休むことなく歩いたり、あるいは走ったりする現象について否定しない。とはいえ、30分で14キロも歩いたり走ったりすることができるだろうか？　兄弟が急ぎ足で徘徊していたとしても、なぜ通行人の注意を引かないのか？」

　この説明は、一連の事件の最初期に頻発していたポルターガイストに触れていない。しかも、兄弟はしばしば鍵のかかった部屋から消えており、そのことへの考察もない。

　いずれにしても不可解な現象は何年も続いたが、兄弟が思春期を過ぎるとピタリと止まり、２人は不思議な力を失ったと考えられている。事件は多くの議論を呼んだものの、今となっては真実を知ることは難しい。なにか合理的な説明があるのか？　それとも私たちには理解できない力の一例なのか？　パンジーニ兄弟の物語は、史上最高レベルに不可解かつ明確なテレポーテーション事件なのだ。