古地図に記された幻の島・北極圏の「ルペス・ニグラ」の謎/遠野そら
北極海には巨大な岩山を中心とした「島」がある! 歴史上、いくども地図に記されたそこは、未踏の楽園か、それとも地球内部への入り口か?
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航海中の聖職者によって発見され、一度は地図にも載ったが、その存在が確認されていない島がある。カナリア諸島の端に浮かぶ幻の島の伝説とは――。
ヨーロッパの人々に人気の定番リゾート地であるカナリア諸島は7つの島で構成されているが、18世紀まではもう1つの島があると考えられていた。大航海時代の地図に記載されていたこの幻の島は、なぜそれほど長きにわたって実在が信じられていたのか。
9世紀のラテン語文書『Navigatio Sancti Brendanani Abbatis(修道院長聖ブレンダンの航海)』によると、6世紀に聖ブレンダンは「約束の地」として知られる聖書の理想郷を求めて14人の修道士と共に大西洋へ出航した。
彼らは現在のカナリア諸島にたどり着き、西暦512年に魅惑的な島に上陸した。そこは文字通りの理想郷であり、肥沃な土地に草木が茂り、豊かな果物が実り、川には飲み水が流れる楽園であったが、滞在して15日目に、彼らは自分たちが巨大なクジラのような浮遊物体の上に立っていることに気づいた。
彼らはこのクジラの島が海に潜水しそうな気配を感じて急いで撤収し、なんとか島が沈む前に船に逃げ込むことができた。
以来、クジラの島は復活祭の時期になると毎年浮上し、人々はその“背中”に上陸して復活祭を祝うことが恒例行事になったということだ。この逸話にちなんでこの島は「聖ブレンダンの島(Saint Brendan’s Island)」と名づけられたのである。
この聖ブレンダンの旅のストーリーはその後、ファンタジーとして話が虚飾され続け、何世紀にもわたって「聖ブレンダンの島」の実在が噂されるようになったのである。
そしてブレンダンの航海から1000年後、大航海時代を迎えて「聖ブレンダンの島」の伝説が再燃した。
「海は“新天地”を発見しようとする探検家、冒険家、海賊、旅行者、商人でいっぱいでした」とグラン・カナリア島にある「カナリア博物館」の学芸員、ルイス・レゲイラ氏は旅行系メディア「Atlas Obscura」の取材に答えている。
15世紀後半にスペイン人が植民地化したカナリア諸島は、その後すぐにヨーロッパの冒険家たちの拠点となるのだが、彼らの何人もがこの海域で“幻の島”を目撃した。そして、この島こそ「聖ブレンダンの島」であるとの噂が広まったのだ。
16世紀には目撃情報が非常に頻繁にあったため、実際にいくつかの地図に掲載され、フランスの地図製作者、ギョーム・ドリルによる1707年の北アフリカの地図にも「聖ブレンダンの島」が描かれている。
「聖ブレンダンの島」を発見、上陸しようと探検隊も組織され、艦隊による本格的な捜索が何度か行われている。その中にはほんのわずかの間「聖ブレンダンの島」に上陸したとの報告もあったのだが、いずれの捜索でも島の正確な位置を特定することはできなかった。
「大気中には、実際には何もないのに島が見えるという光学効果があります」とレゲイラ氏は説明する。
船乗りたちが目にする「聖ブレンダンの島」は、光の屈折によって海面に生じた蜃気楼であると考えられ、水平線上にラ・パルマ島の姿が反射して見えていると説明されている。現在でも条件が揃った時には目撃することができるのだ。
1957年9月にカナリア諸島のラ・パルマ島を訪れていた写真家のマヌエル・ロドリゲス・キンテロは丘の中腹をさまよっていたとき、夕日を背景に鮮明なシルエットで浮かび上がった島の姿をカメラに収めた。
キンテロのこの写真は、すぐにスペインのメディアでトップを飾り、これこそが「聖ブレンダンの島」であると当時のニュースを賑わせている。もちろんこれは島ではなく、蜃気楼を写したものであると思われる。
ほぼ正体が浮き彫りになったともいえる「聖ブレンダンの島」だが、それでもカナリア諸島ではこの島の存在感はしっかりと定着しているといわれている。
“聖ブレンダン”の名称はカナリア諸島の企業、農場、通り、村につけられており、詩、歌、壁画アートなど多くの芸術作品の主題となっている。カナリア諸島のほとんどの人々は、子供時代から学校での活動、絵本、祖父母の物語などを通じて「聖ブレンダンの島」のことを知っているのだ。もちろん子供たちもこの島が実際には存在しないことは知っているが、カナリア諸島のある種のアイコンであることを理解しているのである。
一部からは「聖ブレンダンの島」はかつて存在していたが、火山活動によって沈んだのではないかとの指摘もある。地質学者の中には、将来の破滅的な噴火によってラ・パルマ島の陸地が海の中へと崩れ落ちる可能性があるとさえ示唆する者もいるようだ。
「聖ブレンダンの島」の伝説が今も語り継がれているのは、人々が胸に秘めているある種の“ユートピア願望”の反映であり、地元の誇らしい“レジェンド”であるからかもしれない。
【参考】
https://www.atlasobscura.com/articles/canary-islands-saint-brendans-phantom-island
仲田しんじ
場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
ツイッター https://twitter.com/nakata66shinji
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