インドで突き付けられた己の「カルマ」とは? 呂布カルマ「人生の旅」前編・混沌のデリー

文=遠野そら

関連キーワード:

    「カルマ」を名にし負うラッパー、呂布カルマがインドで自己を探求する「人生の旅」にムーが同行。ときに暴力的な現実を肯定する社会システムに圧倒されつつ、輪廻や解脱というヒンドゥー4000年の問いを、呂布カルマはいかに受け止めたのか?

    信仰と喧騒の首都デリー

     孤高の天才ラッパー、呂布カルマ。自らの作品やメディア出演などを通じて独自の人生観を提示する呂布が、インドへ自己探求の旅に出るという。

    「輪廻(りんね)」と「解脱(げだつ)」にまつわるヒンドゥー教の死生観が根付いたインドで、己の業(カルマ)を問い直すというのか? 探求を通じて己を知る、呂布カルマの「人生の旅」に伴走するため、「ムー」もインドの首都・デリーへ向かった。

     最初の滞在先は、混沌のインド世界そのままの街、オールドデリーである。騒音と混沌、それを当たり前のように受け入れる虚脱。熱を持って膨らんだイキモノの臭いと、歴史ある美しさが同居した、まさに「カオス」な場所であった。道路は、車線関係なしに走る車やバイク、オートリキシャと呼ばれる三輪タクシーで溢れ、路辺には路上生活者がうつろな目をして寝転んでいる。口を覆うほどの排気ガスと鳴り止まないクラクション音の中、「マネー」と言いながら指をすり合わせ近づいてくる裸足の子供たち。道々に捨てられた大量のゴミ、まだらに毛が抜けた野良犬、牛、糞尿……。

     不十分なインフラに衛生環境、そして深刻な貧困問題という現実。今や世界人口第一位とされるインドだが、14.2億人を超える人口のうち約8割がヒンドゥー教徒であり、自身の職業はもちろんのこと、結婚相手の選択も厳しい階級制度「カースト」に基づき暮らしている。法的に差別はないとされているものの、カーストにも属せないアウトカースト「ダリット」にいたっては、古くから差別や虐待、偏見の対象とされ、同じ神を信仰する人間であっても寺院への立ち入りさえ許されないのだ。

    オールドデリーには貧困層が暮らすエリアもまだまだ多い。

     現代の日本で暮らす我々からすれば理不尽にも思えるが、彼らの根底にあるのは「カルマ」である。カルマとは過去世から引き継がれた業(ごう)であり、今世のカーストや宿命として現れる因果の道理である。我々を案内してくれた現地人ガイドによると、宗教思想によって違いはあるものの、インドではカーストは社会構造として浸透しており、その複雑な背景から脱却にはまだまだ課題が多いようだ。

     とはいえ目にしたオールドデリーは、過酷な現実を抱えながらも活気があり、平日の夜にも関わらず、イスラム教、シーク教、ジャイナ教などの寺院には大勢の人が祈りを捧げに来ていた。女性は宗教装束やサリー姿がほとんどだったが、男性はシャツにジーパンと日本と対して変わらない服装。インド人=長いひげにターバン姿を想像する人も多いが、これはシク教徒のドレスコードなのだという。

    インド旅のガイドのひとり、シンさん。ターバンとヒゲの姿はシク教徒の装いだ。

     のっけから強烈な洗礼を受けた我々だったが、ホテルに入り一息つくと肌にまとわりつくような暑さが少し和らいでいた。屋上へ出てみると、夕影の中、鳥の大群と見紛うほどの凧があがっている。まだあどけなさの残るホテルマンに話を聞くと、夕方になると家の屋根などに登り思い思いの凧を上げるのが流行しているのだとか。
     凧はわら半紙に竹ひごを2本くくりつけた簡素なものだが、空に放り投げるだけで面白いほど上昇していく。凧上げに宗教的な意味は無いというが、「空を見上げて凧を上げると気持ちがいいし、1日の終わりを感じる」という。夕日に照らされた数々の寺院と、その上空を飛ぶ無数の凧。混沌としたこの町で人々は何を思い、空を見上げているのだろうか。

    オールドデリーの空に凧が舞う。

    「一生分のクラクションを聞いた」談・呂布

     名古屋を拠点にラップのみならず、メディアやCM出演、DUNLOP REFINED公認大使など多彩な才能を発揮している呂布カルマ。まずはインドで彼の心に触れた出来事、そして自身のカルマについて聞いてみることにした。

    すざまじい喧騒の中に佇む呂布カルマ。撮影=塙新平

    ――インドは初めてと伺いましたが、印象はどうですか?

    いや、もう本当にカルチャーショック。これほどこの言葉がしっくり来ることは無いですね。一生分のクラクションを聞きました(笑)。なかでも印象的だったのが路上生活者ですね。ガイドさんから彼らの生活について話を聞いたんですけど、「こいつら終わってるな」と思っているわけではなくて、社会としてこうだから、しょうがないというか。彼らにも事情があるから、と受け入れて、悪人として見ていないんですよね。本当にカーストもあるし、街はすげー汚いし、悪人も多い。でも、ここまでむき出しだと、そもそも人間ってそういう生き物だよなって感じがします。道路事情や衛生管理についてもカオスなりの秩序があるんだなと。「教育をよくしよう」とか「治安を」とかそういうレベルの話ではないですね。

    ――悪いものというか苦しみを抱えた、「カルマ」がある人を社会がそのまま受け入れているのかもしれませんね。

    蒸し暑く、人が多い。遠慮していると一歩も進めなくなる。撮影=塙新平

    ――呂布さんはまさにカルマを名に背負っているわけですが、自分の「カルマ」とはなんだと思いますか?

    自分の名前をつける時、「呂布」だけ先に決めて、語感だけで「呂布カルマ」にしたんです。すごい中二病っぽい動機で(笑)。その恥ずかしいカルマをずっと精算し続けています。でも、今ではいい名前だなと思っていますよ。僕はラッパーなんですけど、自分のラップした批判的なこと、強気のメッセージが結構そのまま自分にも刺さってくるんですよ。良くも悪くも。ネットやSNSにそういう都合悪いものも結構残っているんで、いつか自分の子供に「お父さんも昔こんなこと歌ってたじゃん」みたいなことを言われたら俺どうするんだろうな、みたいなのはあります(笑)。それもカルマです。

    ――すべて抱えて、背負っていく。ちなみに「ムー」という雑誌はご存知でしたか?

    雑誌として手に取ったことは無いですけど、オカルト雑誌として知ってはいます。まゆつばというか。もともとはダンロップの撮影旅行と聞いていて、いろいろな場所は候補になっていたんですけど、最終的に「インドに決まりました、『ムー』さんと一緒です」ってそこで初めて知らされました。「呂布さん、オカルト得意ですか?」って言われて、「全然信じてないです」って(笑)。

    ――そんな感じはしていました(笑)。

    旅の目的は写真集の撮影だが、どこでどう撮っても人やモノが写り込む雑踏ぶりである。撮影=塙新平

    ――ヒンドゥー文化では『カルマを背負った苦しい現世からの解脱』が目標とされますが、呂布さんが抱えている「カルマ」がインド滞在中にどう変わるのか気になります。

    解脱はよくわからないんですけど、『無が一番美しい』みたいな状態はなんとなくわかります。ただそれは生まれて死ぬイキモノとしての限界というか……。僕はサイボーグ化された未来が来ると思っていて、肉体的な死は無くなって好きな時に人生止められるようになるだろうって考えています。神様に作られた僕らと、神様と肩を並べた僕たちが生み出した新しい命に差がなくなっていく未来です。だから「どうせいつか死ぬんだから好きなことやろうぜ」みたいな甘っちょろいこと言ってる奴らには、死なないかもしれないじゃんって言いたい(笑)。だからこそ丁寧に生きろよって思います。人はゼロから生まれて、ゼロが1番美しくて、1番シンプルな状態だと思うんです。色んなことをやればやるほど足されていって汚くなっていくから。なので、苦しい人間を脱する、解脱を答えとする考え方も理解はできます。

    輪廻と解脱と、サイボーグ

     4000年という長い歴史の中で、ヒンドゥーの信仰文化は「輪廻(りんね)」と「解脱(げだつ)」を中心に重ねられてきた。人は、魂に記録された過去世の業(ごう)を引き継ぎ、車の輪がまわるように生死を繰り返す。そして、己の背負ったカルマを浄化し、因果の道理から解き放たれた解脱こそが最大の目的であり、喜びなのである。

     ちなみに、呂布カルマは、自身のカルマに向き合うためインド占星術での鑑定を受けた。その結果は、「ここまで素晴らしい結果が出る人はそういない」「時代が違うなら間違いなく王族」と驚くほど、仕事、生活、家庭ともに最高の言葉を捧げられた。インド占星術は厳しい運命を正直に告げるイメージがあるが……、呂布カルマの現在は、インド文化への適性が強かった、ということだろう。

    「ここまで褒められると逆に胡散臭く感じますね」と照れくさそうに笑う呂布だったが、オールドデリーでの滞在を通して、自身の新たな面が少しずつ見えてきたようである。

    インド占星術は凶兆もバッチリ出てしまう占いだが、今後10年単位の成功や10万人にひとりの吉相など、運勢を絶賛された。ただ「リラックスが足りない」ので、ムーンストーンを持つべし、というアドバイスも。

     サイボーグ化され、霊魂という自我が現世に留まる未来が来るのだとしたら、輪廻転生からの解脱を前提としたヒンドゥー教の価値観は大きく変わっていくだろう。
     己はいったい何者なのか――。
     呂布のさらなる自己探求のため、次はヨーガの聖地とされる「リシケシ」へ向かうことにした。

    「カルマ」インタビュー後編はこちら! https://web-mu.jp/column/26853/

    ムー旅インドの様子は動画でも公開!

    前人未到の写真集「カルマ」も無料公開!

    この写真集は「人生を旅しよう。」をブランドスローガンに掲げるDUNLOP REFINEDと、己の信じる道を進む、人生の旅人・呂布カルマ氏との出会いにより生まれました。

    写真集の閲覧はブランドサイトより → https://sports.dunlop.co.jp/sportscasual/

    DUNLOP REFINED公認大使 
    呂布カルマ(Ryoff Karma)

    1983年1月7日生まれ、名古屋市在住。JET CITY PEOPLE代表。ラッパーとして活躍する一方、グラビアディガー、コメンテーターとしても異彩を放つ。公式X(旧Twitter)【@Yakamashiwa】

    【PR】DUNLOP REFINED
    DUNLOP REFINEDは、“人生を旅しよう。Explore Your Life.”をコンセプトに掲げる、スポーツカジュアルブランドです。
    https://sports.dunlop.co.jp/sportscasual/

    遠野そら

    UFO、怪奇現象、オーパーツなど、海外ミステリー情報に通じるオカルトライター。超常現象研究の第一人者・並木伸一郎氏のスタッフも務める。

    関連記事

    おすすめ記事