心霊写真はカメラに霊が憑依する現象だ!? 人魂がデジタルデータ内を移動する恐怖体験/久野友萬

文=久野友萬

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    読者は、心霊写真を撮ったことがあるだろうか。筆者はある。心霊スポットの取材をしていた時期に撮れた。奇妙な現象が何度か起きたが、中でも興味深かったのが人魂を撮った時のことだ。

    オーブはタダのホコリ

     よくオーブといって、白い球がたくさん写っている写真があると思う。あれはホコリにフラッシュの光が反射しているだけだ。砂埃が舞っている時に撮ると、何枚かは写っている。雨の日でも、雨粒に光が反射して無数の球状に写る。

    カメラマンが撮ったオーブ。ホコリにフラッシュが反射しただけ ©谷口雅彦

     あの手の写真を見てオーブだ霊だという霊能者や占い師がいたら、自動的にインチキ認定だ。

     光がレンズ内で反射して、不思議な形の光や虹を作ることはよくある。手間をかければ、再現できる。私はカメラメーカーと仕事をしていたので、そのあたりはいろいろ教えてもらった。手が一本多いみたいな写真も再現したことがある。ほんの少しの角度で、人は人の後ろにすっぽり隠れてしまうのだ。

    シミュラクラの例。木に女の顔のようなものが……。

     点が3つあれば顔に見えるというシミュラクラ現象の写真も撮った。理屈がわかっていても、あれは気持ちが悪いが。

    奇妙な緑色の球体… 人魂が撮れた!

     さて、先日の真夜中、幽霊が出ると噂される八王子の女子大生殺人事件の現場へ行き、プロのカメラマンや編集者と組んで写真を撮っていた。

     某大の助教授が不倫相手の女子大生を殺害し、別荘の裏に埋めたという事件。報道によれば、絞殺された女子大生が竹林で発見された時、片方の靴がなかった。白いパンプスの片方は今も行方知れずだ。

    「これじゃないっすか!?」

     殺人現場の、まさにここで殺人が行われたという場所に着くと、マンホールがあり、その上にポツンと白いパンプスが片方だけ置いてあった。

    「マジか……!」

     さまざまな妄想が頭をよぎるが、正体不明の靴を前に、あーだこーだと話をしていたら、背後の林からバキバキバキと木を折りながら、何かが走って降りてくる。最初は気にしていなかったが、どんどん駆け下りてくる。近づいてくる。夜中の2時に、さすがに何かがおかしい。

    「ジョギングですかー!?」

     同行していたスタッフの人が、そう大声で呼びかけた途端、ピタッと降りてくる音が止まった。

    (なるほどな、変なことが起きたら、普通に声を掛ければいいのか)

     次の瞬間、次の瞬間、不意に虫の声が聞こえてきた。
     そういえば、さっきまで虫の声も止まっていたなと思う。怪異が起きる時、生き物は息をひそめるのだ。

     気を取り直して、死体が隠されていたという竹林を撮っていたら、カメラマンが何かに気づいた。

    「お、これって?」

     なんだなんだと全員でデジタルカメラのディスプレイを覗いた。

    イメージ画像:「Adobe Stock」

    ――人魂だ!!

     真緑で、完全な球形で、何よりデカい。妙にデカい。背景の竹と比較するとソフトボールぐらいあるんじゃないか。ホコリの反射ではないし、光学的な像でもこんなのはないとカメラマンが言う。

     つまりは人魂、決定である。

    「撮れた、撮れた!」

     と我々は深夜の殺人現場で、全員、喜びのダンスを踊った。心霊写真が撮れて、こんなに喜ぶのは我々と実話怪談の作家連中ぐらいだろう。

    消えた人魂はデジタルを移動する

     1週間後。編集者から電話がかかってきた。

    「なくなっちゃったんですよ」

     何の話かと思ったら、人魂の写真だった。なくなった?

    「あの時、みんなで見たじゃないですか。確認しましたよね」

     しましたよ、ついでにビリージーンも踊ったよ。

    「でね、谷さんがデジカメからパソコンに移したら、写ってないんですって」

     谷さんはベテランのカメラマンで、絶対にデータをなくすようなミスをしない。

    「それがね、勘違いかと思って探したんですって。そしたらさ、ほら、八王子の城跡行ったでしょ?」

     殺人現場の前に、そこも取材していた。

    「あの城跡に墓石あったじゃないですか。そっちの画像に人魂が写っていたらしいんです」

     意味がわからない。ファイルの番号は? 200も前? じゃあ移動したのか? 人魂がデジタルデータというかSDカードの中を移動したっていうわけ?

    イメージ画像:「Adobe Stock」

    「しりませんよ。それで、その画像を別名で保存したら、今度はパソコンの画面がネガポジ反転みたいになってデータが消えたって」

     消えた? パソコンのデータが? 

    「それで元のSDカードにデータは残ってるから、今度はそっちを確認したら、城跡の墓石の写真からも人魂は消えていたらしくて」

     どこに行ったの?

    「さあ……」

    霊はレンズの向こうにいるのではない

     デジカメで撮った画像に写り込んだ人魂が、SDカードの中を移動し、コピーしたらコピー先のパソコンに移動、最後はパソコンのデータを壊して消えた。

     そんな話、聞いたことがない。SDカードやハードディスクの中をデータが移動する?(んん?)

     ということは人魂のあのデータ自体が幽霊的な何かということか。

     私たちは人魂がプカプカ浮いているのを撮影したのではなく、SDメモリに吸い込まれた(?)人魂が撮影素子に反応して写ったということか。つまり、私たちは人魂をデジカメに閉じ込めて持って帰ってきてしまったのだ。心霊写真というのは幽霊が撮れたのではなく、カメラ、正確にはフィルムやSDメモリに幽霊が憑依している状態なのだ。

    イメージ画像:「Adobe Stock」

     霊はレンズの向こうにいるのではなく、こちら側にいる。

     そう考えれば、人魂の映像がデジタルメディアの中を移動したのもわからなくもない。あれはモニターにとまったハエのように、竹林の画像の上に乗っていただけなのだ。

     昔の心霊番組では、視聴者から送られてきた心霊写真をお焚き上げしていた。幽霊は写真が撮られた場所にいるんだから、写真を燃やしたところで意味ないだろうと思っていたが、そうではない。写真にこそ霊の本体が憑りついている。

    電磁波と幽霊と宇宙人と河童

     以前、UMA評論家の中沢健氏が面白いことを言っていた。

     宇宙人を見たという人の絵は、子どもの絵のように下手くそで、絵の下手な人を選んで宇宙人は現れるのか? というぐらい下手だが、あれは違うのだと。ある時、画家が宇宙人を見たのだという。絵がうまい人が初めて宇宙人と遭遇したのだが、しかし画家が宇宙人の絵を描こうとすると、なぜか手がうまく動かない。結局、画家の描いた宇宙人も今までと同じ、画家の作品とは似ても似つかない下手くそなものだったという。

     さらに中沢氏が河童を取材した時、中沢氏が河童の棲む池をレポートしている真っ最中に、池が渦巻き始めたのだという。みんな見ていたのだが、撮影していたテレビカメラは障害を起こし、録画できなくなっていた。何かがテレビカメラに干渉したのだ。

    イメージ画像:「Adobe Stock」

     心霊写真も、宇宙人のへたくそ似顔絵も、河童も、いずれも同じ仕組みが背景にある。SDカードも脳もテレビカメラも電子機器だ(脳も電気で情報をやり取りする電子機器の一種だ)。怪異は電子機器に干渉し、エラーを起こしたり、記録を書き換える仕組みを持っている。彼らに意志があるかはともかく、電子機器を攻撃できる。

     池が渦を巻いたのは、強力な磁場に伴うモーゼ効果(水は反磁性体なので、磁力と反発して逃げようとする。水なら磁石の周りで割れる。旧約聖書のモーゼの奇跡のように。だからモーゼ効果だ)か? 池の水が渦巻くほどの磁界が発生して、果たして周囲の人間が平気でいられるのかは謎だ。数百テスラの強力な磁場で正気を失い、だから河童を探すなんてことを真面目にやれたのか(冗談です、中沢さん)。

     電磁波が異界と我々の世界をつなぐカギではないかと思う。私たちはまだ電磁波の性質を完全には把握していないのだ。

    久野友萬(ひさのゆーまん)

    サイエンスライター。1966年生まれ。富山大学理学部卒。企業取材からコラム、科学解説まで、科学をテーマに幅広く扱う。

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