ヨーロッパにもツチノコがいる!? アルプスの魔物タッツェルブルムの謎/遠野そら

文=遠野そら

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    古来、日本各地で目撃情報がある怪蛇ツチノコ。それに似た怪物がヨーロッパにもいるという……。その正体は

    ツチノコと酷似する伝説的な怪蛇

     海外のUMA研究家が、〝ツチノコに似ている〟と指摘する幻獣UMAをご存じだろうか。
     アルプス山脈に棲息しているという「タッツェルブルム」だ。

     タッツェルブルムはアルプス山脈の近隣諸国で何世紀にも渡り目撃が報告されている伝説の怪物で、地域によって形態に違いはあるが、太くずんぐりとした「ヘビ」や「トカゲ」のような姿をしているとされる。その体長は50センチ〜2メートル。体色は、茶、または濃い灰色で、腹部の色は薄い。屈強な男性の腕ぐらいの太さで、2本か4本の太く短い脚があり、前後に歩くとされる。こちらが何もしなければ岩陰などにすぐ隠れてしまうが、石を投げるなどして挑発すると、体を垂直に起こし、2メートル以上も飛び上がってくるのだという。主な活動期は春から秋。中には猛毒を吐くものもいるそうだ。

     ——と、報告されている事例から特徴をざっと羅列してみたが、ずんぐりした見た目や跳躍する動き、毒があるかもしれないなど、ツチノコと一致する部分がある。
     タッツエツブルムのイメージに「足があり猫のような顔の蛇」という典型があるため、ツチノコとの類似を想像しにくいかもしれない。だが、ジャン・ジャック・バルロワは著書『幻の動物たち』で日本のツチノコを解説しつつ「ツチノコには、タッツェルブルムという兄弟がヨーロッパにいる」と指摘しているし、澁澤龍彦は『幻想動物誌』で両者を近いものとして挙げているのだ。

     ヨーロッパを8か国またがるアルプス山脈だけに、名称も国によって様々だが、どれも「太い脚の蛇」「洞窟ワーム」「トンネルドラゴン」といった意味のようだ。このことから、ここでは一般的に使用されているドイツ語の「タッツェルブルム(足のあるワーム)」で統一したいと思う。

     タッツェルブルムはアルプス山脈全域で目撃が報告されており、ヨーロッパで最も記録が残されているされている。正体は未確認ながら伝説に留まらない情報があることから、未確認動物UMAの一種といえる。
     特に、国土の6割をアルプス山脈が占めているスイスはタッツェルブルムの目撃多発地帯。1814年にはスイス・ベルン自然科学協会が「タッツェルブルムを捕獲した者に金貨3枚の報奨金を支払う」と発表し、大きな話題となったことが記録に残っている。成功者はいなかったが、当時、スイスを含む近隣諸国ではタッツェルブルムによる家畜への被害や遭遇事件が相次いでいたことから、もはや伝承では片付けられない状況だったようだ。

    1779年にタッツェルブルムに遭遇してなくなった人の慰霊碑? 「1779年突然の恐怖により死亡」と記されている。
    画像参照:https://www.unken.co.at/kalvarienberg/das-marterl-beim-fuchsbauern-und-der-sagenumwobene-tatzelwurm

    タッツェルブルムは2種類いる?

     スイス人の作家フリードリヒ・フォン・チューディは自身の著書『アルプスにおける動物の生活』(1861年)の中で、「ベルンやジュラの麓には、太くずんぐりとした姿の〝洞窟蛇〟が棲息していると広く信じられている。体長は0.9m〜1.8mで、2本の短く太い脚が生えている。多くの住民が目撃しており、長い干ばつの後、大雨の前に現れるそうだ」と記している。
     大雨の前に現れるというのは、水を求めて洞窟内から出てくるのだろうか。ツチノコに脚があるという情報はないようだが、ここでの洞窟蛇の姿形は、アルプス・ツチノコといったところである。

     しかしながら、改めて整理してみると、「頭部が猫に似ていて、鋭い歯がある」「ニワトリのような目で、舌が二股に分かれ、背中には鋭く尖ったたてがみが生えている」「4本の脚で、立ち上がると人間よりも大きく、口から火を吹く」などの報告もあることから、形態にかなりバラつきがある。
     ざっくり大きく分けると、「猫顔のドラゴン型」と「アルプス・ツチノコ型」の2種類といったところだろうか。目撃報告があまりにも多いため、境界線をはっきりと断言することはできないが、恐らくアルプス山脈の北と南で分かれているようである。

    猫顏のタッツェルブルムの例。
    画像参照:https://dinoanimals.com/animals/tatzelwurm/
    猫顏ドラゴン型タッツェルブルム!?
    画像参照:https://vamzzz.com/blog/haselwurm-and-tatzelwurm/
    二足の蛇の記録。『蒹葭堂雑録』国立国会図書館デジタルコレクションより。https://web-mu.jp/column/405/
    ツチノコ型タッツェルブルムの例。
    画像参考:https://ru.wikipedia.org/
    井出道貞『信濃奇勝録』(1886年)に描かれた「野槌」。ツチノコを描いたものとされる。

    未だ目撃事件が続くことこそ実在の裏づけ

     近年でもタッツェルブルムの目撃は跡を絶たず、2009年にはイタリア・トレヴィーゾで騒動にもなっている。地区当局は、「脱走したオオトカゲである可能性が高い」と発表し、沈静化を狙ったが、今でも「あれはタッツェルブルムで間違いない」と信じられているようだ。

     タッツェルブルムの正体については、「サンショウウオ」や「アメリカドクトカゲ」といった説もあるようだが、中世から「魔物が棲む」と伝えられるアルプス山脈だけに、そこにいかなる未確認生物が棲息していてもおかしくはないだろう。
     日本から遠く離れたヨーロッパにもツチノコに酷似したUMAが存在していたことは驚きだが、彼らもそろそろ冬眠から目覚めるころだ。両種にどのような繋がりがあるのかは不明だが、いつか捕獲される日を心待ちにしたいと思う。

    町の像にもなっているタッツェルブルム。
    画像参考:https://vamzzz.com/blog/haselwurm-and-tatzelwurm/

    【参考】

    https://vamzzz.com/blog/haselwurm-and-tatzelwurm/
    https://ru.wikipedia.org/wiki/%D0%A2%D0%B0%D1%82%D1%86%D0%B5%D0%BB%D1%8C%D0%B2%D1%83%D1%80%D0%BC
    https://dinoanimals.com/animals/tatzelwurm/
    https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%84%E3%83%81%E3%83%8E%E3%82%B3

    遠野そら

    UFO、怪奇現象、オーパーツなど、海外ミステリー情報に通じるオカルトライター。超常現象研究の第一人者・並木伸一郎氏のスタッフも務める。

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