呼吸と記憶の深いつながり、最新研究で判明! 吸って手がかりを認識、吐いて思い出す!

文=仲田しんじ

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    思いがけない事態に直面した時、まずは呼吸を整えてみればいろいろな解決策が思いつくかもしれない。最新の研究では、記憶を思い出すことが呼吸と関連していることが報告されている。

    呼吸のリズムと記憶想起の関係

     アニメ・漫画『鬼滅の刃』の人気で、はからずも子どもたちの間で呼吸法の重要性が周知されることにもなっているが、パフォーマンス向上を目指すだけではなく、ストレス緩和や美容などの目的で各種の呼吸法を実践する者も少なくないだろう。

     呼吸の大切さがこれまで以上に意識されてきている現在、新たな研究によって呼吸のリズムが人間の記憶に重要な役割を果たしていることが判明した。

     独ミュンヘン大学をはじめとする研究チームが1月に学術誌『The Journal of Neuroscience』で発表した研究では、記憶の想起に関する脳活動が吸気(息を吸う)と呼気(息を吐く)のタイミングと同期していることが示されている。

     呼吸には身体に酸素を供給する以上の機能があることは、科学者の間で古くから知られている。動物と人間の両方を対象としたこれまでの研究では、呼吸が睡眠中および覚醒中の脳活動に影響を与えることが実証されている。また、人間は呼吸をしているときに、表情をより正確に認識したり、触覚刺激をより正確に知覚したりする傾向があることもわかっている。

     こうした知見がある一方、呼吸と記憶の関係についてはよくわかっていなかった。過去の記憶研究の多くは脳内の神経メカニズムに焦点を当てるものであり、呼吸に代表される身体のリズムが記憶を支える特定の神経プロセスにも影響を与えているかどうかは依然として不明だったのだ。そこで今回、研究チームは呼吸のさまざまな段階が記憶想起の神経学的特徴と直接関連しているかどうか――つまり、呼吸が記憶のメトロノームとして機能しているかどうか――検証するため、呼吸のタイミングと脳の神経パターンを調べたのだ。

    Michal JarmolukによるPixabayからの画像

    吸気で手がかりを認識し、呼気で思い出す

     18人(女性15人、男性3人)の健康な成人(平均21歳)が参加した実験では、約1週間の間隔を空けて2回の異なるセッションが行われた。

     各セッションで、まず参加者には「走る」などの動詞と、物体または風景の画像が提示された。参加者は、動詞と画像を結びつけるイメージや物語を心の中で作り上げるよう指示され、このプロセスによって無関係な2つの項目を結びつける記憶の一種である連想記憶が形成された。たとえば「走る」という動詞と「砂浜」の風景が提示された場合、ビーチフラッグス競技の光景や、運動部の砂浜ダッシュの練習風景などが連想記憶として形成されるかもしれない。

     その後、参加者は記憶テストを受け、情報をどれだけ正確に記憶できているか確認された。テストでは参加者に以前見た動詞が提示され、それに関連する物体あるいは風景を思い出して回答することが求められた。

     参加者がこれらの課題を行っている間、研究チームは参加者が頭部に装着している脳波計(EEG)で脳内の電気的活動をモニタリングし、同時に風速風量計(サーミスタ式気流センサー)を用いて参加者の呼吸パターンも追跡。こうして収集したデータを分析した結果、呼吸と記憶の関連性が明らかになった。

    Amore SeymourによるPixabayからの画像

    脳波と呼吸の同期の強さが記憶力を占う

     なんと参加者は息を吸っている時に手がかりとなる言葉が現れると、画像を思い出す確率が高くなっていたのだ。記憶を思い出すために最適なパターンは、動詞が提示された時に息を吸い込み、脳が記憶を処理して思い出す際に息を吐き出すことであった。

     さらに神経データを解析すると、脳波が呼吸周期と連動していることも判明した。吸気は手がかりを捉える上で重要である一方、脳が記憶を効果的に思い出すのは呼気の段階であることが示された。

     また、脳波と呼吸の同期が強いほどテストの成績も優れているという相関関係も判明した。これは呼吸と脳の協調がランダムなものではなく、認知・記憶と機能的に関連していることを示唆している。情景と感情がセットになって思い出されるような印象的記憶は「エピソード記憶」と分類されるが、今回の研究結果は、呼吸がエピソード記憶を支えている可能性も示されることになった。

     とはいえ今回の研究では、相関関係は特定されたものの、呼吸が脳活動の変化を引き起こすことを決定的に証明したわけではない。一般的な覚醒度や注意力といった第三の要因が、呼吸と記憶の両方に同時に影響を与えている可能性もあるという。また、今回の研究はあくまでも自然発生的な呼吸を対象にしたのもであり、意識的な呼吸法によって記憶を引き出しやすくなるのかどうかについては不明だ。

     不意に懐かしい旧友の顔が思い浮かんできたり、かつて訪れた旅先の美しい情景がよみがえってきたりする時、自分の呼吸は安定し精神的にきわめて落ち着いた状態にあるのかもしれない。普段から呼吸を整えておけば、それだけ多く美しい思い出に浸れそうでもある。

    ※参考動画 YouTubeチャンネル「Neuroscience News」より

    【参考】
    https://www.psypost.org/scientists-have-found-a-fascinating-link-between-breathing-and-memory/

    仲田しんじ

    場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
    ツイッター https://twitter.com/nakata66shinji

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