意識は生命よりも前に存在した!? 小惑星「ベンヌ」の地表サンプルに“意識の種”が含まれる可能性も
われわれの意識とは、実は生命よりも先にあるものかもしれない――。いや、むしろ意識こそが生命を形作ったのだとする最新の科学理論を紹介する。
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生涯忘れることのない思い出は、文字通り脳に刻み込まれたものなのだろうか? もしそうだとすれば、死後に保存された脳からその記憶の痕跡を抜き出して思い出を再現できるかもしれない。
広い駐車場で車を停めた場所はしばらくの間は憶える必要があるが、用事を終えて無事に帰路に就けば、それ以上記憶に留めておく必要はない。このような短期記憶の一方で、いつまで経っても色褪せず生々しくよみがえる記憶もある。暗証番号やパスワードのように意図的にしっかりと憶えるものもあれば、一生忘れることのない印象深い体験もまたその種の長期記憶だ。
では長期記憶は、脳に物理的な痕跡を残しているからこそいつまでも忘れないのだろうか。この点については神経科学者の間でも議論が続いているのだが、昨年に興味深い調査が行われている。
豪モナシュ大学をはじめとする研究チームが昨年6月にオンラインジャーナル「PLOS One」で発表した研究では、312名の神経科学者を対象に調査を行い、記憶の保存方法に関する神経科学界の見解を評価している。
神経科学者たちは、人口統計属性、記憶の構造的基盤に関する信念、記憶保存の理論的含意、脳の保存、全脳エミュレーションの実現可能性、関連トピックへの精通度、という6つのセクションに分かれた全28の質問に回答。その結果、回答者の70%はニューロン(神経細胞)と、それらをつないで情報の受け渡しをするシナプスの強度が持続的に変化することが長期記憶の構造的基礎となっていることに同意した。つまり、専門家の多くは長期記憶には脳内に物理的痕跡があると考えているのだ。
印象深い体験によって、脳内のニューロンの集合体に化学的・物理的な変化(エングラム)が起こるという。そして、形成される記憶が強ければ強いほど、エングラム内の細胞間の接続の数は多くなり、生涯にわたって持続する神経接続の強度とパターンは「コネクトーム」と呼ばれる。
では、この物理的痕跡は死後に保存した脳にも留まっているのだろうか。
この質問に対する回答を分析した結果、アルデヒド安定化凍結保存(ASC)法で保存された脳が長期記憶を解読するのに十分な情報を保持していると信じる専門家は41%(中央値)であったという。つまり、4割の専門家が人間の脳と記憶を保存することが可能かもしれないと考えており、死後であろうと良好な状態を維持した脳であれば、長期記憶を解読できる可能性があると考えているのだ。

人間の脳が死後も保存可能で、その脳に長期記憶の物理的痕跡が残されているならば、脳の全情報をすべてコード化してコンピューターにアップロードする「全脳エミュレーション(Whole Brain Emulation、WBE)」の実現へ向けた道が拓かれることにもなる。
2014年の映画『トランセンデンス』では、人間の人格をサイバー空間にアップロードする様子が描かれているが、全脳エミュレーションのアイデア自体はSF分野などで古くからあるものだ。実現の暁には、死者が肉体を捨てた人間となって生き永らえることになるのか。
調査の質問にはこの件も含まれており、保存された脳から全脳エミュレーションが実現できると考える専門家は40%(中央値)、記録技術が事前に確立しているという前提がある場合、その割合は62%に上昇したという。また、全脳エミュレーションの実現時期について学者たちは、線虫では2045年頃、マウスでは2065年頃、ヒトでは2125年頃と考えていることも判明した。

技術的ハードルがまだいくつもあるものの、将来的には実現が見込まれそうな全脳エミュレーションだが、はたしてそれで死者が本当に蘇ることになるのだろうか。米サンタクララ大学のブライアン・パトリック・グリーン氏は次のように語る。
「私たちのアイデンティティーには、心と記憶だけでなく、性格、身体、筋肉、骨、人間関係まで含まれる」
「それ以外にも、社会的な状況、私たちが生きる世界もアイデンティティーの一部となるのです。大切な写真や親しい友人からの思い出の品など、外見上の物でさえ私たちのアイデンティティーの一部となることがある」(グリーン氏)
人間の脳を完全にコピーできたとしても、われわれが単なるシナプスと神経接続の集まりではないことは明らかだ。臨場感は周囲の世界との相互作用に加え、見たり、触れたり、嗅いだり、味わったりという体験でも構成されている。生物としての肉体的感覚は、脳の化学的性質と同じくらい人間を人間たらしめている要素なのだ。
生物としての人間の脳は刻々と変化し、その都度“書き換わって”いる。全脳エミュレーションがその後まったく変化しないものならば、死んでいるも同然の脳ということになるだろう。
そしてなにより、われわれには意識がある。はたしてアップロードされた全脳エミュレーションに意識は宿るのか。脳の全情報をAIに委ねることも考えられるが、それを当人と見なすべきなのか。一部の専門家は意識は量子現象であると指摘しているが、未だに不可解な意識のメカニズム、いわゆる“意識のハードプロレム”の解明が進まないことには、全脳エミュレーションは絵に描いた餅のようにも思えてくるがいかがだろう。
【参考】
https://www.popularmechanics.com/science/a69989900/upload-your-brain/
https://medicalxpress.com/news/2025-06-neuroscientists-steadfastly-uncertain-brain-encodes.html
仲田しんじ
場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
ツイッター https://twitter.com/nakata66shinji
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