地球が太陽系から弾き飛ばされる!? 軌道が不安定化する仕組みと可能性を科学者が指摘

文=仲田しんじ

関連キーワード:

    太陽の周りを揺らぐことのない正確無比な軌道で回っている地球だが、この先も永遠にこのまま公転し続けるのだろうか――。新たな研究によると、銀河系内のほかの恒星の動きによっては、地球は太陽系外に弾き飛ばされてしまうという。

    太陽系の軌道が不安定化する確率は?

     万有引力の理論を提唱したアイザック・ニュートンは、太陽系の惑星間の重力相互作用によって最終的に軌道が不安定になると予測したが、そのメカニズムまで証明することはできなかった。

     その後も天文学者たちは太陽系の形成と進化、それを支配する力学を解明しようと努めてきたが、惑星の軌道が時間の経過とともに安定化するのか、それとも不安定化するのかどうかについては結局よくわからないままだった。

    画像は「Wikimedia Commons」より

     これまでの研究では、太陽系を孤立した系として扱い、惑星間の重力相互作用にのみ焦点を当ててきたのだが、天文学者たちは天の川銀河の恒星たちが時折、互いに接近していることに着目。太陽系の力学を研究するうえで、太陽系の近くを通過する恒星の影響を考慮に含めることで、研究に大きな進歩がもたらされた。

     惑星科学研究所(PSI)の天体物理学・宇宙論准教授であるネイサン・A・カイブ氏と、ボルドー天体物理学研究所(LAB)の天文学者ショーン・N・レイモンド氏が今年5月に学術誌『Icarus』で発表した研究では、太陽系の近くを通過する恒星は太陽系惑星の軌道に大きな影響を与える可能性があり、今後50億年の間に太陽系が不安定化する可能性が高まることが報告されている。

     カイブ氏とレイモンド氏は、NASAジェット推進研究所(JPL)の太陽系ダイナミクスグループが提供する「JPL Horizons System」から得た現代の太陽系データをモデルにして、2000回のシミュレーションを実施した。「JPL Horizons System」は太陽系に関する主要データにアクセスでき、すべての天体の位置をきわめて正確に予測できる。

     このシミュレーションによって、太陽系の近くを通過する恒星によって引き起こされる惑星の不安定性にまつわるデータがさらに多く得られ、起こり得る事象をより明確に把握することができた。結果、今後50億年の間に、恒星のフライバイ(近傍通過)が太陽系の安定性を約50%低下させる可能性があることが突き止められたのだ。

     フライバイによって、冥王星の軌道が不安定化する確率は5%あり、その結果、冥王星が太陽系から放出される確率は3.9%だという。また、フライバイ後に起動が不安定化する頻度が最も高い惑星は水星と火星であり、それと比較して地球の不安定化率は低い。とはいえ今回、地球の不安定化率は過去の推定値の数百倍にもなったということだ。今のところ地球はきわめて正確な軌道で公転しているが、それが必ずしも未来永劫続くわけではなさそうだ。

    画像は「Wikimedia Commons」より

    4兆個もの放浪惑星が銀河をさまよっている

     レイモンド氏は自身のウェブサイトで太陽系の力学研究の歴史を概説している。同氏によれば18世紀までに数学者ピエール=シモン・ラプラスとジョゼフ=ルイ・ラグランジュが「惑星の軌道は波のようなパターンで振動し、それが永久に安定を保つ」と結論づけ、「安定した太陽系」という見方が支配的になったという。

     しかし、19世紀までにカール・フリードリヒ・ガウスとユルバン・ルヴェリエによって、惑星の軌道の波のようなパターンは最終的には崩壊することが突き止められた。

     その後、アンリ・ポアンカレが登場し、3体以上の天体間の重力相互作用(いわゆる三体問題)は数学的に解くことができないことが示された。さらに、19世紀から20世紀にかけて、天王星、海王星、冥王星、カイパーベルトなど、複数の惑星、衛星、その他さまざまな天体が発見され、世紀の変わり目には、エリス、ハウメア、マケマケといった準惑星も発見された。

     そして近年の研究では「自由浮遊惑星(rogue planets)」の存在も注目されている。これは、もともと所属していた恒星系から追い出され、宇宙空間をさまよっている天体のことだ。

    放浪惑星のイメージ 画像は「Wikipedia」より

     最新の推定によると、銀河系内の一つの恒星系につき約20個の自由浮遊惑星が存在すると考えられている。天の川銀河に2000億個の恒星があると仮定すると、なんと4兆個もの放浪惑星が銀河をさまよっている可能性があるのだ。

     こうした自由浮遊惑星が地球に近づいたり、他の恒星が接近することによって太陽系の惑星たちの軌道が変化したら、地球が太陽系から放り出されてしまう可能性もゼロとは言い切れない。自由浮遊惑星になった地球は、環境が激変して生命が住めない星になってしまうことだろう。可能性は低いが、宇宙が刻々と変化していることを改めて認識しておきたい。

    ※参考動画 YouTubeチャンネル「Odity」より

    【参考】
    https://www.universetoday.com/articles/passing-stars-could-have-a-significant-impact-on-the-future-of-our-solar-system

    仲田しんじ

    場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
    ツイッター https://twitter.com/nakata66shinji

    関連記事

    おすすめ記事