メキシコの異星人ミイラはなんだったのか? UFO界隈の2023年トピック/宇佐和通
都市伝説リサーチャーの宇佐和通氏が、2023年のUFOニュースを振り返る。
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UFOについての情報公開が進む中、南北アメリカをカバーする情報提携の網が明らかになろうとしている。ワシントンポスト紙の報道の裏を読む。
『ワシントン・ポスト』紙の2023年9月6日付に、『In U.S., most UFO documentation is classified. Not so in other countries』(『アメリカではほぼ機密扱いのUFO資料が、他の国ではそうではない』)というタイトルの記事が掲載された。過去3年間のアメリカにおけるUFO/UAP情報の流出トレンドにもつながる興味深い内容だ。
アメリカでは、軍によってまとめられたUFO関連文書が一般開示されることはまずない。しかし、これは全世界共通の絶対的ルールではない。記事によれば、特に南米の少なくとも4か国(ウルグアイ、アルゼンチン、ペルー、チリ)では、UFO の活動を調査研究する政府の公的プログラムが実施されているにもかかわらず、情報のクリアランスが存在しないに等しい状態が続いているという。アルゼンチンとチリでは、空中物体の識別に関する報告書が定期的に公表されている。特に熱心なのはウルグアイだ。軍が主導して未確認飛行物体の情報収集を行い、目撃例を受け付けてデータベース化し、それを基に調査委員会が運営されている。それだけではない。1970年代以来、自国内で起きたUFO事例に関する詳細な報告をアメリカに対して行ってきたーーというのだ。
国家安全保障上の問題から考えて、UFO/UAP情報は厳重に守られるべき機密として扱う。これがアメリカ政府のスタンスだ。しかし南米では、説明できないことと国民の知る権利、科学的説明の限界というそれぞれの領域の間のハードルがかなり低く設定されているようだ。
記事が指摘する実例を挙げておこう。
1954年8月のある夜、ブラジルの航空機が“レーダーに映らない”物体によって追跡された。この物体は強烈な光を放っていたという。その20年後、アマゾン川流域北部にあるコミュニティにぼうっとした光を放つ物体が夜な夜な現れ、原住民たちにビームを照射しているところを何回も目撃された。さらに1986年には、人口集中地帯の上空で20件以上のUFO目撃が記録され、その都度ブラジル空軍の戦闘機がスクランブル発進した。
どの目撃例も、ハードなUFOビリーバーの証言ではない。ブラジルの民間航空会社のパイロットや空軍関係者によるものだ。歴史的資料アーカイブの一部として、ほぼすべての事例に関するデータが今も保管されている。こうした土壌を背景に、ブラジル国民はごく当たり前の行いとして、軍発行の正式な報告書や映像、音声記録に接してきた。
軍が関わるUFO事例に関する情報が一般公開され、いつでも誰でも見ることができるという仕組みはわれわれ日本人にとっても驚愕以外の何物でもない。公開されている文書に関しても、削除されていたり塗りつぶされたりしている部分は一切ないという。
『ワシントン・ポスト』紙の記事は、2022年5月に行われたアメリカで50年ぶりになる議会主催のUAP関連公聴会および2023年7月に開かれた第2回公聴会を踏まえ、というニュアンスで書かれている。
情報開示というキーワードで考えれば、古くはプロジェクト・ブルーブックから始まり、1994年と1997年に空軍の報告書『The Roswell Report』が発表されるまでのきわめてスローな展開を思うと、この1年で20年分くらいの進歩があった感が否めない。しかも昔の時代と違って、決定的な画像や映像も次々と明らかになった。
オフィシャルな場で新情報が明らかにされていくトレンドは、この先も加速することはあれ止まることはないだろう。その中で起きた元情報将校デビッド・グラッシュや有名リサーチャーのスティーブン・グリア博士といった重要人物のマスコミでの露出は、いきなり始まったような印象を受ける。ただ、実情はそうでもなさそうなのだ。これも情報公開トレンドのひとつの側面として認識するのが正しいのだろうが、アメリカがかなり昔からUAPに関する広範囲な情報収集体制を確立していた事実が浮上し、話題になっている。
つい最近、1930年代に当時のイタリア首相だったムッソリーニがアメリカに“墜落円盤”の情報を提供していたという話が浮上した(関連記事)。1933年にイタリア北部に墜落したUFOの機体が“乗組員”と共に回収され、アメリカ政府に引き渡された。これは、デビッド・グラッシュが空軍由来の公式書類に記されていた内容を公聴会で明らかにした情報だ。
一方、70年代からアメリカにUFO/UAP情報を提供してきたウルグアイ空軍のアリエル・サンチェス大佐は、かつてこう語ったことがある。
「私たちは当初から情報を国民と共有してきました。人々に情報を提供する必要があると信じています」
ウルグアイ、アルゼンチン、ペルー、チリの各国で、基本的に一般公開ベースで行われるUFO/UAPに対する調査・研究を通して得た情報が公有知的財産のような形で共有されている事実は、当事者であるサンチェス大佐の言葉によって裏付けられる。そしてアメリカ政府は、記事で触れられているように少なくともウルグアイからUFO/UAP事例の詳細な情報の提供を受けてきた。2回の議会公聴会を経た今のタイミングで浮上したこの話を掘り下げていくと、古くから続く南米諸国からアメリカへのUFO/UAP情報流入のメカニズムの歴史と現状がよりリアルに浮き彫りになるのではないだろうか。
アメリカ政府の内部には、これまで秘密裏に蓄積してきた情報を一気に放出しようという勢力があるのか。こうした流れは、南米諸国からもたらされた大量のUFO情報によって裏打ちされているのかもしれない。
アメリカ政府によるUFO/UAP情報収集体制に関して時代をさかのぼるなら、プロジェクト・ペーパークリップを除いて話を進めることはできないはずだ。今回の記事を受け、ここでひとつの可能性を示しておきたい。アメリカ政府は、大量に入国したドイツ人科学者たちを通し、ナチスの高官が南米大陸に渡って生き延びている事実を確認しただけではなく、具体的な潜伏先まで把握していたのではないだろうか。
ナチス・ドイツ側の事情を考えれば、高官たちが科学プロジェクトについて何も知らなかったとは思えない。科学部門と政権をつなぐ役割をする人間も多くいたはずだ。第二次世界大戦終結直後の時点で、プロジェクト・ペーパークリップを通し、アメリカ政府がこの種の情報を握っていたとしても決しておかしくはない。
さらに言うなら、第二次世界大戦終期に話題になった謎の戦闘機フーファイターに対する調査研究は終戦後も続いていた。フーファイターに酷似した飛行物体の目撃は戦後も相次いでいたのだ。アメリカは自国にいる元ナチスの科学者たちから多くの戦犯に関する精度の高い情報を入手し、それを交渉カードにして、例えばアルゼンチンに対し、国内のフーファイター的な飛行物体=UFOの目撃例を最優先で流すよう求めたとは考えられないだろうか? ならば、南米諸国からアメリカに流入するUAP関連情報網は、プロジェクト・ペーパークリップの副産物として構築されたことになる。
第二次世界大戦終結直後の世界では、元ナチスの戦犯に関する情報はどの国に対しても“売れる”商品だったはずだ。それと引き換えにアメリカが手にするUFO/UAP情報は、一般的な目撃例から軍が関わるような精度の高いものまですべてが網羅されていた。こうした情報を蓄積すれば、フーファイター関連研究をより立体的な構えにすることができる。連合国の枠組みの中でも優位に立つことができる。
80年前に構築された南米からの情報提供システムが、今のアメリカのUFO/UAP情報インフラに大きな変化を起こしているのかもしれない。何らかの変化が起きているのなら、これから先どのような形で波及していくのだろうか。
宇佐和通
翻訳家、作家、都市伝説研究家。海外情報に通じ、並木伸一郎氏のバディとしてロズウェルをはじめ現地取材にも参加している。
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