仙台上空に飛来した巨大気球と特異地点「R」の謎/並木伸一郎
東北地方の上空に出現した巨大気球の正体について検証していく。
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謎の「気球」が飛来し、米軍戦闘機が撃墜したーー。一連の出来事は米中の主張を通じて情報戦で着地しようとしている。だが、本当に……? 重要人物の証言をまとめ、真相を考察する。
2023年2月4日から12日にかけ、アメリカ軍が気球と思われる高高度飛行物体を撃墜した。8日間に4回という信じられないペースでの一連の出来事は「中国製スパイ気球」というキーワードに紐づけられる形で進み、それぞれの撃墜事例の詳細と、ターゲットとなった物体の本質を明らかにしていくプロセスの実現を求める声が日ごとに高まっている。
相次ぐ撃墜事例は、潜在的な脅威に対する防空監視体制の強化を意識するバイデン大統領の具体的な行動にほかならない。ただ、レーダー網をはじめとするアメリカの現行の防空体制は少し前の時代と比べてかなり強化されているにもかかわらず、少なくともこの原稿を書いている時点では、政府も軍部も撃墜物体についてすべてを明らかにしているわけではない。上下両院内でも、政府の微妙な立場に対する理解を示しながらも、情報の透明性を保っていくべきであるというコンセンサスが構築されている。
そんな中、バイデン大統領の爆弾発言を収録した映像が拡散した。
「私は今日ここに、アメリカ領空のあちこちに現れている未確認飛行物体について話します。正確な由来に関してはまだ検証の余地がありますが、FBIの報告によれば、外宇宙の訪問者である可能性が高いということです」
……落ち着いてほしい。
ホワイトハウスで撮影されたと思われるこの映像だが、ディープフェイクを使ったものであることが明らかになっている。状況を考えればこれ以上なくリアルな響きと共に受け入れられたといわけだ。
この一件に対して一応の反応を見せるためか、ジャン・ピエール報道官が記者会見の席上で「直近に撃墜された飛行物体は異星人や地球外生命体が関与している兆候はない」と断言した。
ただ、これに前後する形で発表されたNORAD(北米航空宇宙防衛司令部)のグレン・ヴァンヘルク将軍の発言も問題視されている。
「私は、撃墜されたすべての物体を気球という言葉で分類するつもりはない。われわれが“物体”という言葉を使うことには理由がある」
この発言を受け、状況はさらに混沌化した。
2月12日には、ミシガン州ヒューロン湖の上空6100メートルを飛行していた未確認物体がF16戦闘機に撃墜された。情報量が圧倒的に少ないため、撃墜された物体(ヒューロン湖上空の物体は八角形だったと言われている)と地球外生命体を関連づける空気はぬぐい切れず、不安が高まっている。
この原稿を書いている時点ですでに発見・回収が行われているのは、2月4日にサウスカロライナ州沖で撃墜された気球の残骸だけだ。これに関しては、オフィシャルな場面でも中国の偵察用気球という言葉が普通に使われている。
現時点で、違和感を覚えることがいくつかある。
まず、アメリカが中国の気球であると発表したこと。それを受けた中国が猛烈な反発を見せたのは当然だとして、しばらくしてから自国のものと認め、しかも“民間”組織の研究用気球であると発表したこと。最初の気球が撃ち落された時には激しい応酬があったにもかかわらず、どこかプロレス的なものを感じる流れで話が進んでいること。大統領報道官がエイリアンは関係ないと言っているのに、少なくともNORADの大将が事件に関する最初の公式発言で「物体」という単語を強調したこと。
思い出していただきたい。
2020年6月、今回最初に撃ち落されたものと外見が酷似した気球が仙台市上空に現れた。当時の防衛大臣河野太郎氏は「気球は自衛隊の気象班が所有しているものではない」「日本に戻ってくる可能性については気球にきいてほしい」という旨の発言を行った。この発言は今になって炎上している。
2021年9月にも、よく似たタイプの気球が八戸市上空で目撃された。アメリカでの事例と比較する限り、日本で目撃された気球も中国製のものだったということで話が固まりつつある。
この種の気球は、いつごろから飛来するようになったのだろうか。
2月15日に放送された『MBSニュース』という番組に出演していたジャーナリスト、立岩陽一郎氏のコメントが気になった。https://www.mbs.jp/news/feature/kansai/article/2023/02/093267.shtml
コメントによれば、ペンタゴンと密接な関係がある「ランド研究所」という施設の研究員いわく、今回のような事例は約20年前からあったらしい。しかし当時のレーダーシステムでは気球を的確に捕捉することはできず、長年にわたってレーダーの解析度が高められた結果、現状のレベルを実現することができた。つまり、日本はもとより、アメリカの防空システムで使用されているレーダー網でもすべての飛行物体を補足することは技術的に不可能だった時期があるのだ。
さらに、検知された物体の中にも気球が含まれていたが、すべての本質が明らかにされたわけではない。昨年未確認飛行物体=UAPについてのレポートが発表された時、気球という言葉が使われているのを見て「いまだに」と感じた人は多かったはずだ。
仙台と八戸の目撃事例に関しては、少なくとも日本の防空体制に疑問が示されるレベルの問題にはならなかった。国内法の問題もあり、航空自衛隊の戦闘機がスクランブル発進して気球を撃墜するわけにはいかなかった。日本の法律を熟知している中国は、攻撃されないことをわかっている上で気球を飛ばしたのだ。そんなうがった見方もある。
アメリカの現状に話を戻そう。
軍上層部が、領空内を飛ぶ物体が何なのか、そしてどのような危険がもたらされるのかを明らかにするプロセスに必死に取り組んでいることはまちがいないだろう。興味深いのは、中国の偵察用気球への対応ということで話が進む中、「すべての可能性を含めて考える」といった文言を通して「UAP」の一部としてもとらえていく姿勢が感じ取れることだ。
情報量は圧倒的に不足している。それなのに、世論はスパイ気球説からUFO方向にシフトしつつある。世論に押されながら、軍も議会も真摯な調査を行っているという姿勢を見せる必要に迫られている。
こうした状況は今後さらに深みと広がりを増していくのではないだろうか。そしてその深みと広がりには、ちょっと変わった角度からの意見も含まれる。あのエドワード・スノーデン氏も声を上げているのだ。
スノーデン氏によれば、スパイ気球というキーワードで白熱するメディアの目的は決して地球外生命体との“ファースト・コンタクト”についてつまびらかにしていくことではなく、意図的に創出されたパニックを通じて多くの人々を間違った方向へ導くことであるらしい。
スノーデン氏は、最近次のような内容のツイートをしている。
「宇宙人ならいいなとは思うが、(今回の気球の件には)関係ない。現状の本質は誰かによって仕組まれたパニック状態であり、やらせの事件で生まれた脅威に対する新たな予算が組まれる方向に話を持って行くための大がかりな仕掛けだ」
it's not aliens
— Edward Snowden (@Snowden) February 13, 2023
i wish it were aliens
but it's not aliens
it's just the ol' engineered panic, an attractive nuisance ensuring natsec reporters get assigned to investigate balloon bullshit rather than budgets or bombings (à la nordstream)
until next time
『ニューヨーク・タイムズ』紙のジャーナリスト、シーモア・ハーシュは、2022年9月に起きたロシアの天然ガスパイプライン破壊事件は、アメリカとノルウェーによる共謀だったという方向性の記事を2023年2月8日付の紙面で公表した。
アメリカの上空に未確認物体が出現し、撃墜が始まったのはこの直後だ。
国家安全保障会議広報官ジョン・カービーは、2月13日の時点で「撃墜物体が誰のものであるのか、どこから飛んできたものであるかはわかっていない」とコメントしている。
そして、ロイド・オースティン国防長官の言い回しも興味深い。
「撃墜された物体が何であるかは把握していないが、われわれにとって脅威にはならないと考えている。こうした物体によって地上に対する軍事的脅威はもたらされないだろう。しかし、民間の航空システムにとってはリスク要素となり、軍事的観点から言えば何らかの情報収集活動が行われている可能性があり、潜在的な脅威となりえる。事態の真相は徹底的に明らかにしていくつもりだ」
オースティン国防長官は、この発言を行った時「サウスカロライナ上空で撃墜された中国のスパイ気球と、ほか3つの物体は異なる」とも述べている。この部分は絶対に覚えておくべきだろう。3月に入っても、ペンタゴンはこの“ほか3つの物体”について具体的な情報を何ら明かしていない。「とても発表できる内容ではないのかもしれない」という憶測が大きくなり始めても不思議はない。一般社会はもちろん議会内もこうした空気で包まれ、不満が募り、ホワイトハウスが早い時点でわかりやすい内容の公式説明をすべきであるという意見が圧倒的であることは容易に想像できる。
“知らないもの”によって何らかの脅威がもたらされると考えるのは動物としての人間の本能ではないだろうか。昨年の11月と今年の1月に公表されたUAP報告書では、“不明”というカテゴリーに分類される事例があまりにも多すぎた。気球という言葉で分類される飛行物体も、由来がわからなければ不明でしかない。空集合的な事例が多すぎるのだ。
現時点では何を言っても推論でしかない。スノーデン氏によれば、何か大きな仕組みが働いて、ものごとが事実とはまったく異なる方向に導かれようとしている。一方、ホワイトハウスも国防省も、事態の徹底解明に対する消極的な姿勢ばかりが目立っている。
今回のスパイ気球連続撃墜事件は、ありのまま受け取っていいものなのだろうか。スノーデン氏が語るように、これを煙幕のように使って何か他のもっと大きなことが進められているのか。アメリカと中国の対決機軸はイリュージョンにすぎないのか。そしてハーシュ記者のパイプライン爆破に関する記事を考えれば、ロシアもまったく目に見えない形でプレイヤーになっているのか。
こういう考え方もできると思う。
ロシアもプレイヤーとして加えた上で、アメリカも中国もスパイ気球であるとか撃墜であるとか、通常の軍事行動の範囲内で片付けることができる事態のほうがはるかにましだと感じているからこそ、煮え切らない態度のままお互いにとってベストな落としどころを探っているのかもしれない。気球という言葉で形容される物体の本質が気球以外のものだとしたら、そして両国ともそれを知っているのなら、今よりもはるかに広い範囲で対応していかなければならないからだ。
UFO事例に対するプロトコールで日本よりもはるかに場数を踏んでいるアメリカが何らかの具体的な情報を持っているのなら、真相が表に出る可能性はほとんどないだろう。その一方で、出せる情報に関してはタイミングを見きわめて意図的に流し、核心の部分は完全に抑えてしまう。そういうやり方にうすうす気づいているわれわれが抱く「何かある」というもやもやした感情は、そのままUFO現象の隠蔽疑惑に直結する。
今回の気球の本当の意味での正体が明らかにされるまで、何年かかるかはわからない。現時点では、公式発表という形で明らかにされる次の情報に注目していくしかない。ただ、われわれにはいまだに真相が明らかになっていないロズウェル事件という前例があることを忘れてはならない。事件そのものの存在が明らかにされるまで40年かかり、75年経過した時点でも核心部分については何もわからないままの前例を考えると、今回の一連の事件についても残念ながらそれほど期待はできないのだ。
宇佐和通
翻訳家、作家、都市伝説研究家。海外情報に通じ、並木伸一郎氏のバディとしてロズウェルをはじめ現地取材にも参加している。
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