桐野健太郎&DJたらちゃん「四国の裏表」怪談/怪談連鎖
四国にゆかりのあるふたりの怪談師から聞いた、ふたつの怪談。それは奇妙に連鎖するように、なぜか共通する怪異の核をもっていた。
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キリストの生誕を祝いサンタクロースからのプレゼントで浮かれ気分のクリスマスだが、その一方で子どもたちを恐怖に陥れるのがクリスマスの悪魔、クランプスだ――。
クリスマスイブの夜、世界中の子どもたちにプレゼントを届けるサンタクロースだが、実は誰にでも与えているわけではない。
サンタクロースは悪い子(Naughty)と良い子(Nice)のリストを持っていて、良い子にしかプレゼントを届けないのである。そして、悪い子リストの担当はサンタクロースのアンチテーゼであり“クリスマスの悪魔”ことクランプスなのだ。クランプスは、行儀の悪い子どもたちを追い詰め、鞭打ちや誘拐の恐怖で服従させる恐ろしい悪魔だ。
もともと古代の異教徒に伝わる存在であったクランプスだが、ある時期にサンタクロースのモデルである聖ニコラウスにまつわる物語の“ダークサイド”に取り込まれた。クリスマスにサンタクロースが良い子にプレゼントをあげている裏では、クランプスが悪い子を懲らしめにやって来るのというのである。
クランプスの伝承は、ドイツ、オーストリア、ハンガリー、スロベニア、チェコ共和国などの国ではポピュラーだ。名前はドイツ語で「爪」を意味する「krampen」に由来している。「スミソニアン・マガジン」のジェニファー・ビロック氏によると、クランプスは「毛むくじゃらの黒い身体に、血走った目で、無残にも混乱した顔をしていた。巨大な角が頭から突き出ており、それは半ヤギ/半悪魔の血統を示している」ということだ。
クランプスは冬に出現する悪魔であったことから、キリスト教が東ヨーロッパに広がるにつれてクリスマスに組み込まれるようになったのである。民間伝承によると、聖ニコラウスの隊列はクリスマスイブの夜、行儀の良い子どもたちの靴やブーツに小さなプレゼントを入れるために歩き回っていたのだが、そのすぐ後ろにクランプスが続き、いたずらをした悪い子どもたちの靴には白樺の棒を入れて回ったという。
この白樺の棒はお仕置きに使われる棒のミニチュア版であり、翌朝に自分の靴にこの棒が入っていた子どもたちは恐怖におののいた。クランプスに狙われた子どもは最悪の場合、バッグに詰められて誘拐され、隠れ家に監禁されて食べられてしまうことが語り伝えられていた。
カトリック教会はもちろんこのような異教徒の悪魔や神を認めず、こうした伝承を抑圧していったんは根絶したかに見えた。
しかし、教会の思惑も19世紀にはじまった大衆消費社会と商業主義を前にしては為す術がなかった。クランプスはオーストリアなどで悪魔キャラクターとして復活し、冬にはクランプスの名を冠したフェスティバルが行われるようにもなったのだ。
クランプスはもちろん子どもから恐れられる存在であったのだが、フェスティバルでクランプスに扮した一部の大人たちが、夜通し街に出ては子どもたちを怖がらせることを楽しんでいた。これが不謹慎であるとして、ドイツとオーストリアでは20世紀初頭にクランプス祭がいったんは禁止されたという。
こうした不謹慎な側面がありつつも、クランプスはヨーロッパの国々やアメリカで人気を獲得し、2013年の映画『Krampus: The Christmas Devil(クランプス:クリスマスの悪魔)』や『Krampus: The Reckoning』(2015年)などのホラー映画やコメディ作品などでフィーチャーされるようになった。
「クランプスは、聖ニコラスの“陽”に対する“陰”です」と、フロリダ州オーランドで開催された「クランプス・フェスティバル」の主催者であるジェレミー・セガーズ氏はスミソニアン・マガジンの取材でコメントしている。
(https://www.smithsonianmag.com/travel/krampus-could-come-you-holiday-season-180957438/)
クランプス・フェスティバルを祝うヨーロッパの国々には昨今、難民の人々が移住してきているが、一部の人々の間からは、フェスティバル期間中の恐ろしいクランプスの“コスプレ”が難民の子どもたちに強烈な精神的ショックを与えてしまうのではないかと危惧する声もあがっているようだ。
せっかくの楽しいクリスマスの夜に、子どもたちを虎視眈々と物色する恐ろしい形相のクランプスには出くわせば、大人だってショックを受けるに違いない。
仲田しんじ
場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
ツイッター https://twitter.com/nakata66shinji
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