一本足のトッケビをご存じ? 獣人もオバケもいる『韓国怪物大全』の世界

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    300以上の「韓国怪物」が収録されたすごい本が発売中! どこか似ていてやっぱり違うお隣の国の「怪物」たちのこわさ、そして魅力とは?

    本邦初! 韓国怪物大図鑑

     今年もやってきたお化けの季節。夏といえばホラーに怪談に妖怪にと納涼イベントが目白押しだが、ところで「妖怪」と聞いたらどんなものが思い浮かぶだろう?

     カッパ、一つ目小僧、天狗にろくろ首……と、あまり詳しくない人でも5つ6つはすぐに出てくるのではないだろうか。では、ちょっと視線を西に向けて、お隣の国・韓国の妖怪といったらどうだろう。ひとつでも出た人はかなりの妖怪通、怪談マニアにちがいない。

     実は韓国では長らく「妖怪を描く」という文化が希薄で、日本の妖怪絵巻にあたるような資料もないのだとか。もちろん長い歴史のなかでさまざまな怪異の記録はあるのだが、それらを体系的にまとめた本はほぼゼロという状況だったという。このあたりはむしろ、妖怪や幽霊などあやしいものたちを積極的に描き楽しんできた日本の文化のほうがユニークなのかもしれない。

     ともかくそんな妖怪空白状態に大変革をもたらしたのが、韓国の小説家クァク・ジェシク氏だ。クァク氏はSF、歴史、ミステリーと多彩なジャンルを手がける小説家として活動しつつ、工学博士として技術政策を研究、さらにメディア出演もするというマルチクリエイター。2000年代から韓国の膨大な古典籍にあたって怪談奇談を収集し、その成果を自身のウェブサイトで公開したところ大きな話題を呼び、今では「韓国の妖怪専門家」としても名を馳せているという。いわば韓国の荒俣宏、あるいは韓国の京極夏彦といったところだろうか。

     そんなクァク氏の貴重な研究は一冊の本にまとめられているのだが、それが日本語でも読めるようになった。翔泳社から発売中の『韓国怪物大全』は、クァク氏の著書を邦訳した750ページの大著。掲載される韓国の「怪物」たちは約320種というボリュームで、それぞれに、イラストレーター・ビジュアルアーティストのイ・ガンフンさんによる味わい深いイラストがつけられているのも嬉しいところだ。

    「韓国怪物大全」(翔泳社) https://www.shoeisha.co.jp/book/detail/9784798187884

     本記事では、同書に紹介された膨大な「韓国怪物」たちのなかからとくに興味深いキャラクターをピックアップしてご紹介したい。韓国文化ならではのユニークな怪物や、「これ日本にも似たようなのがいるぞ」とつい比較したくなるようなものなど、奥深い韓国怪物の世界をのぞいてみよう。

     ちなみに韓国では日本でいう「妖怪」にぴったり相当するような単語がなく、クァク氏はさまざまなことばを検討したうえで書籍タイトルに「怪物(クェムル)」を採用したのだそう。

    ザ・韓国怪物! トッケビ

     おそらく、最もメジャーな韓国怪物といえばトッケビだろう。韓国映画やドラマのタイトルにもなっているので、妖怪に興味がなくても「トッケビ」は知ってるという人も少なくないはず。

     しかし、ではトッケビとはどんな怪物なのか? というとこれがひとことではいえないから面白い。

     トッケビは日本でいえば広く「お化け」のような意味でもあり、あるときは神さまのような願掛け対象にもなり、またあるときはポルターガイスト現象の原因とされ、人間といっしょに遊ぶことがあるかと思えば、おどろおどろしく人に災いをもたらしたりもする……。あまりにも幅が広くて、「トッケビとはなにか」だけで分厚い研究論がまとまってしまいそうだ。

     ビジュアルについても諸説さまざまで、一本足で描かれることもあれば角のある姿にもされ、逆に角をもつビジュアルは20世紀に日本の「鬼」の影響をうけた本来の伝承とは異なる姿なのだと議論されたり、こちらも一向に定まったものがないのだ。

     一筋縄では解明できない、謎めいた存在。むしろそこにこそ「ザ・韓国怪物」という深みを感じてしまう。

    韓国怪物の代表選手、トッケビ(『韓国怪物大全』より。以下同)

    コリアンイエティかヒバゴンか!? 安市客

     「遍身毛」あるいは「安市客」は、江原道華川郡頭流山(トゥリュサン)で目撃されたという怪物。一見人間に似ているが全身がびっしりと毛で覆われており、深い山奥に暮らしているのだという。

     日本でも、深い山奥には「山男」や「異獣」と呼ばれる大きな猿のような、あるいは毛むくじゃらの大男のような生き物が潜んでいるという話がある。異獣は山道を通る人間ににぎりめしをせがんだり、山仕事を手伝ったりしたというが、『韓国怪物大全』に載る安市客のビジュアルはこうした妖怪や、あるいはイエティなどのUMAを連想させる。日本では広島県庄原市で50年ほど前に体長1・5メートルの霊長類型UMAヒバゴンが目撃されているが、令和の今ふたたび目撃情報が増えていることも記憶に新しい。

     ただ、興味深いことに安市客にはヒバゴンや異獣とはだいぶことなる伝説がある。安市客はもともとは人間であり、はるか昔に戦乱を生き延びて山に入った兵士が神仙の道を会得し、1000年の寿命と超人的な身体能力を手に入れたものだというのだ。外見のよく似た怪異にも異なる解釈が与えられていた、そんな日韓の文化の違いはとてもおもしろいところ。ところで、もしも今韓国で安市客が発見されたら、そこはカジュアルに「トゥリュゴン」的な命名をされるのだろうか?

    正体はヒトか霊長類か。「遍身毛」あるいは「安市客」。

    恐怖のファフロツキーズ現象 天雨人

     朝鮮王朝時代、18世紀の歴史書『燃藜室記述』に記録されているのが天雨人で、1625年に平安北道の昌城(チャンソン)に降ってきたものだという。

     それは人間の頭のような(より正確には目と鼻と口のある)雹(ひょう)で、これが降ると大きな災いや戦争が起こってたくさんの人名が失われるというから、ただの自然現象というよりも災いを告げる凶兆、あるいはよりおそろしい見方をすれば災いを招くナニかなのだろう。

     カエルや魚など、本来ありえないものが空から降ってくる現象をファフロツキーズといい、世界各地でその発生が報告されている。日本にも、江戸時代の後期に江戸を襲った大嵐の翌日、お寺の境内に人魚のような謎の生き物が落ちていたという話や、雷とともに雷獣という獣が空から降ってくるという話があるが、人面の雹はとりわけ奇妙でおそろしい。災いの先ぶれとなる人面雹。こんな怪気象に遭遇してしまったら、どうやって身を守ればいいのだろう。

    サイズ感も気になる“人面雹”、天雨人

    日本のとはだいぶ違う…… 天狗星

     天狗は、日本で最もメジャーな妖怪の一種。その姿はトビの羽根とくちばしを持った怪物のようであったり、あるいは赤ら顔と高い鼻が特徴的な山伏姿であったりいくつか種類があるが、もともとは「あまつきつね」と読み、空を飛翔する流れ星のことだったとされる。

     韓国の「天狗星」は、日本で独自に進化した天狗よりも、本来の天狗の意味に近いようだ。『三国史記』などの歴史書には667年、710年などに天狗の記録があり、それは頭が壺、人間の半分くらいの長さのしっぽがついた姿で炎のように光を発しており、地に落ちると小さな地震を起こしたという。まさに隕石そのもの。

     または、天狗は黄色い犬のような姿をしている、あるいは星のようで毛の生えた尻尾がある、白っぽく足が生えている、という別パターンの情報もあるらしい。いずれにしても流れ星、隕石をそのままクリーチャー化したようで、日本の「天狗」とはずいぶん異なるイメージがもたれていた模様。

    『韓国怪物大全』に載る天狗星のイラストも、隕石説にのっとったゆるかわ、キモカワ(怖カワ?)な姿なのだが、こんな見た目でも人を攻撃したり、人間を食べたりするという一面があったというからおそろしい。

    人を食べることもあるという流星の怪物、天狗星

    不気味な腹の虫…? 腹中能言

     腹中能言は、『鶴山閑言』という随筆に実話怪談として記されていた話だという。

     これは人間の体内に入って少しずつ大きくなっていく鬼神で、最初は虫の羽音のような小さな音をたててあばら骨あたりを動き回るのだが、やがて成長すると赤ん坊のような声を発し、最終的にはのどの奥に顔がみえるようになるのだという。

     パラサイト系怪物というだけでも恐ろしいが、宿主となった人間に話しかけ、脅かして苦しませるというから最悪だ。日本で似た怪異を探せば、できものが徐々に人の顔に変形しものをいうようになる「人面瘡」があるが、皮膚よりも体内に寄生されるほうが恐怖レベルは格段に高い気もする。

     『鶴山閑言』を記した文人・辛敦復によれば、この鬼神は彼の友人にとりついて苦しめたのだが、その男が鬼神に「辛敦復の友人だ」と告げたら体外に逃げ出していったのだとか。なぜその名前に反応したのか、ほかにも鬼神を追い払える名前があるのかどうか、もう少し詳細がしりたいところ。どちらにしてもこんな「腹の虫」だけはご免被りたい。

    どこまで成長するのか……腹中能言

    毛が伸びる「呪物人形」は韓国にもあった! 木奴皆生髯・木婢皆生髪

    『於于野譚』は16世紀〜17世紀前期にまとめられた韓国で最も有名な説話集のひとつで、怪異譚も大量に収められている。木奴皆生髯・木婢皆生髪もこの『於于野譚』に載っているもので、朴という男が先祖の墓を建てるときにこれが中にいるのをみたのだという。

     どちらも毛が伸びる木製人形で、木奴皆生髯がヒゲののびる男、木婢皆生髪が毛が伸びる女。それだけといえばそれだけの話で、その後朴氏がどうなったというエピソードもないので「呪物」といえるかどうかも微妙だが、しかしどこの文化でも、人形の怪異といえば毛が伸びるものと相場が決まっているのだろうか。話が淡々としているだけに、いまでも十分実話怪談になりそうなところが興味深い。

    木奴皆生髯と木婢皆生髪

     以上、ここに紹介したのは『韓国怪物大全』のごくごく一部。他にも魅力的な怪物たちが詳細な解説とともにたっぷりつまった一冊、妖怪ファンにはもちろん、読み物としても、創作のヒントとしてもおすすめの大力作だ。

    『韓国怪物大全』
    クァク・ジェシク 原著、朴美暻 監修、高松彩乃 翻訳、税込6,985円、翔泳社
    https://www.shoeisha.co.jp/book/detail/9784798187884

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    webムー編集部

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