古代ギリシアの神殿は「ひっくり返した船」だった!? 独特すぎる建築様式の謎、最新分析で解明

文=仲田しんじ

    独創的形状や装飾で知られる古代ギリシアの神殿。新たな研究では、デザインの起源が「逆さまに置かれた船」であるという大胆な仮説が提示されている!

    神殿の奇抜なデザインの謎

     どんなに奇抜なデザインもまったくの無から生まれるものではないが、古代ギリシアの独創的な建築様式は、その起源について多くの専門家を悩ませている。

     古代ギリシア様式の代表的建築物、パルテノン神殿を例に取ると、なぜ一部の装飾がほとんど見えないほど高い位置に配置されているのか。巨大な円柱上部の独特な構造(エンタブラチュア)は、実際にはどのような機能を果たしていたのか。なぜ、一部の神殿のデザインには直線がほとんど存在しないのか。いずれも未解明な謎ばかりなのだ。

     建築史研究者のJ・M・クラウディア氏が2月に「Frontiers of Architectural Research」で発表した研究では、ギリシアの神殿は軍艦あるいは商船を模した石造の建造物を“逆さま”にして、支持壁の上に設置したものであることが主張されている。古代ギリシア人は古くなった船体を陸に揚げて住居として再利用しており、その伝統を石造りの神殿の建築にも導入していたというのだ。

     一見すると突飛にも思える説だが、この研究は建築学、海洋考古学、言語学、民族学といった学際的アプローチに基づいている。

     言語学的なアプローチとしては、古代ギリシア語で神殿や寺院を意味する「ナオス(naos)」と、船を意味する「ナウス(naus)」という言葉の類似性について。ナオスの語源がナウスであると解釈できるという。

     また民族学的な指摘としては、古代ギリシアの船乗りたちは、何か月も航海に出て見知らぬ海岸でキャンプをする際、船体をフナクイムシから守る必要から船体を浜に打ち揚げていた。さらに、船内を乾燥した状態に保つために船体をひっくり返して二股の支柱の上に置き、その下に陣取ると雨風を凌ぐ仮設シェルターとして活用したという。しかも数年間使われて寿命を迎えた船は、陸上に建てられた壁の上に逆さに置かれ、屋敷の屋根として再利用された。統治者の住居、集会所、宴会場、神殿としても利用された可能性があるとのこと。

    ※画像は「Science Direct」より

    装飾はガレー船に由来か

     この慣習が妥当であったことを示すため、研究では転覆した船を屋根として利用した文化の民族誌的事例を多数収集している。たとえば、1916年に遭難したシャクルトン南極探検隊がエレファント島で転覆した船の下で4か月間生き延びた事例もある。また、スウェーデンのウナギ漁師やアラスカのイヌイットも同様の慣習を持っていたという。

     さらに20世紀初頭、イングランド東北部のリンディスファーン島には、退役した漁船を陸に揚げて小屋に改造する伝統があり、フランスのパ=ド=カレー県沿岸には、「空中の竜骨」と呼ばれる地区があり、そこでは漁師の家族が廃棄された船体で作った家屋に住んでいた。

     核心的な物証としては、ドーリア式/イオニア式の神殿のエンタブラチュアと、ペンテコンター式ガレー船の乾舷(水面より上の船の側面部分)とのデザインの関係性である。

     ペンテコンター式ガレー船は、古代ギリシアのアルカイック期(紀元前8世紀~6世紀頃)に地中海で広く使われていた50人の漕ぎ手を擁する高速ガレー船だが、建築物として再利用される際に漕ぎ手のオールを支えていた部分が切断され、それがエンタブラチュアの装飾形状になったと考えられる。

     さらに史料によると、パルテノン神殿の帯状の装飾であるアーキトレーブには金箔を施した盾が吊り下げられていた記録があり、これはフェニキア人とギリシア人がガレー船の船体に盾を吊り下げていた慣習と一致する。クラウディア氏によれば、ほかにも神殿の装飾と船体の形状との類似点がいくつもあるということだ。

    ※ガレー船 画像は「Wikipedia」より

    ユニークな建築様式が理解可能に

     クラウディア氏の理論が裏付けられれば、ギリシア神殿が建築史において誤って占めてきた例外的地位から解放され、理解可能な文化に変貌を遂げることになる。これまで明確な機能を持たない「装飾」とみなされてきた神殿の要素が、実際の意味を持つことになるからである。古代ギリシアの神殿のデザインは「形態は機能に従う(form follows function)」という原則に反した異端ではなくなるのだ。

     もちろん、石造りである神殿は、木造の船体を再利用したものではない。しかし船体の形状、あるいは船体を再利用したデザインを神殿建築に採用するという意図が反映され、やがて独特の建築様式へと昇華したのだ。この理論は、船体と神殿のデザインに共通する左右対称性や、海岸近くに多くの建築物があることについても合理的な説明を与えている。

    ※画像は「Science Direct」より

     クラウディア氏は「科学的論争においては、たとえそれがいかに突飛なものであっても、『入手可能な証拠を最も適切に説明する』のであれば、主張を受け入れることは理にかなっている」と述べる。同氏は今回、さまざまな学問分野からの分析を首尾一貫して結びつけることで、古代ギリシアの建築様式に新しい解釈を提示した。

     古代ギリシアのユニーク過ぎる建築様式は、実は地中海を駆け回っていた商船や軍艦の形状に由来していたとすれば興味深い限りだ。古くなった船を建築物に再利用する文化や伝統が、今後ほかにも多く見つかることで、この理論の信憑性がさらに増していくのだろう。

    ※参考動画 YouTubeチャンネル「The Surprised」より

    【参考】
    https://www.labrujulaverde.com/en/2026/02/is-a-greek-temple-actually-an-overturned-ship-a-new-theory-revolutionizes-the-origin-of-classical-architecture/

    仲田しんじ

    場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
    ツイッター https://twitter.com/nakata66shinji

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