白い女の幽霊や巨頭の小人の怪奇がひしめく/コネチカット州ミステリー案内

文=宇佐和通

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    超常現象の宝庫アメリカから、各州のミステリーを紹介。コネチカット州は、せまいエリアに多くの怪談を伝える都市伝説特異点だった!?

    狭いエリアに大量の怪奇談・怪談を伝える州

     アメリカ北東部に位置する小さな州であるコネチカットのニックネームは「憲法州」だ。1636年に制定された「基本的議事規則」が、アメリカ史上初の事実上の州憲法であることに由来する。また、1787年のアメリカ合衆国憲法制定会議において、コネチカット州が重要な役割を果たした歴史的事実が理由に挙げられることもある。

     コネチカット州は地図で見てもかなり面積が狭いのだが、奇妙な伝説や怪談の多さではずば抜けている。清教徒の教会広場、岩だらけの尾根、潮が満ち引きする川、そして衰退した工業地帯といった州民の原風景的イメージを下地に数々の奇妙な物語が紡がれてきた。

     濃密な口承文化を形作ってきたのは開拓者や船乗り、工場労働者、大学生、郊外に住むティーンエイジャーといったさまざまな社会的グループに属する人たちだ。夜のドライブやキャンプファイアーで語られる幽霊譚や奇怪な生物や呪われた土地の話、そして歴史的事実との境界線が見きわめにくい伝承もあり、バリエーションも豊かだ。

    墓地をさまよう白い女「レディー・イン・ホワイト」

     最も有名な幽霊譚は、州南西部に位置するイーストンという街にあるユニオン墓地をさまよう「レディー・イン・ホワイト」だ。白く長いドレスを着た女性が墓地の柵の外や州道59号線沿いのあちこちの場所に現れ、車の前に突然飛び出してドライバーを驚かせる。正体に関しては、子どもを探す母の霊であるとか、悲劇的な事故の犠牲者であるとかさまざまな話が語られている。アメリカで最もよく知られている心霊研究家エド&ロレイン・ウォーレン夫妻がこの墓地を調査し、霊体の撮影に成功したことで全米レベルの知名度となった。

     目撃証言、交通事故を連想させる舞台設定、そして数多い目撃証言から生まれる「もしかすると出会ってしまうかもしれない」という緊張感。この話には幽霊譚に必要な要素がすべて揃っている。墓地で肝試しをする若者も多いため、地元警察が特に夜間の不法侵入を厳しく取り締まっている事実も、物語の信ぴょう性を高める大きな要因であるにちがいない。

    ユニオン墓地には白い服の女の霊が出没するという(イメージ画像=Wikipedia
    ユニオン墓地(画像=Wikipedia

    根強く信じられる都市伝説「メロンヘッズ」

     呪いの地として十分すぎる条件を満たしているのは、州内で最も美しい町のひとつとして知られ、ウェストコーンウォール・カバーブリッジに多くの観光客が集まるコーンウォールのダドリー・タウン跡だ。町はずれに広がる森の中にあるスポットで、そもそもダドリーというイギリス出身の一族が入植した土地だったが、彼らは新天地に禍々しい呪いを持ち込んでしまったようだ。何らかの問題を起こして母国イギリスを追われ、アメリカへの移住を余儀なくされたという話もある。いずれにせよ、この地に入植した人々は次々と不幸や病気に見舞われ、コミュニティーは自然消滅した。

     本当の原因は土壌の貧弱さをはじめとする困難な状況だったと考えられるが、20世紀に入ってからハイカーや近隣の若者たちの間で呪いの村として語られるようになった。現在は自然保護区となっているため立入禁止になっており、呪われた村としての存在感が一層強まっている。

     また州南西部には「メロンヘッズ」と呼ばれる小人族に関する都市伝説が根強く残っている。森の奥深くに住んでいる大きな頭の人たちが、うっかり近づきすぎてしまった人間を襲うという話だ。伝承にはいくつかのバリエーションが存在する。最も有名なのは、1960年代に近郊にあった病院が火事になり、逃げ出した特殊病棟の患者たちが森で生活し始め、環境が原因で異常な容貌になったというバージョンだ。植民地時代に魔女狩りの標的となった家族が森に逃げ、彼らを中心として生まれたコミュニティーに属する人たちがメロンヘッズと呼ばれるようになったという説もある。 

    メロンヘッドが隠れ潜むという道路(画像=Wikipedia

    ささやかれる「スカル&ボーンズ」陰謀論

     陰謀論/都市伝説のジャンルにもよく知られた話がある。ニューヘイブンにあるイェール大学のキャンパスには、1832年にウィリアム・ハンティントン・ラッセルとアルフォンソ・タフト(後のアメリカ合衆国司法長官、そして大統領ウィリアム・タフトの父)によって設立された秘密結社スカル&ボーンズの本部が設置されている。「トゥーム」と呼ばれる窓のない建物にあり、この中で奇怪な儀式が行われているという噂が長年伝えられてきた。

     アメリカ政財界に強い影響力を持つ卒業生たちの存在も伝説を強化し、都市伝説と陰謀論をはぐくむ礎となっている。毎年、イェール大学の3年生から15名程度が「ボーンズマン」と呼ばれるメンバーとして選ばれる。選抜基準は謎に包まれているが、リーダーシップ、影響力、人脈が重要視されるようだ。エール大学の多くの卒業生が、政界・法曹界・実業界・情報機関といった分野で要職に就いているのも事実だ。

     タフトをはじめブッシュ大統領親子、そして民主党の大物議員で元国務長官のジョン・ケリーもメンバーであったことから、スカル&ボーンズはアメリカのディープステートやNWOに結び付けられる陰謀論との密接な関係が語られている。

    歴史、土地、人のリンクが都市伝説を生み出す街

     コネチカット州でバリエーション豊かな多くの話が生まれたのはなぜか? まずは、歴史の古さが挙げられるかもしれない。植民地時代から残されている史跡が多い環境の中で育つ子どもたちは、幼い頃からさまざまな話を聞く。多様な地形(海岸線、丘陵、川)、工業とその衰退、大学都市であること、さらには心霊研究のメッカとして全国に発信したウォーレン夫妻の関与も大きかったはずだ。

     コネチカットの伝説の数々は、特定の土地と直結する地図上のマーカーのようなものなのかもしれない。墓地に現れる白い女や森に潜むメロンヘッズの話は、注意を払うべきスポットを示すものとしても機能しているのだ。古い歴史を誇る都市の名門大学のキャンパスにある秘密結社の本部の話も、今の時代の陰謀論や都市伝説に組み込まれながら生き続けている。

     コネチカット州の伝承は多様性に富み、それぞれに魅力的なストーリーラインとユニークな背景がある。盛り込まれているのは怖さだけではなく、人々の日常や土地への愛着と警戒心、そして昔も今も変わらない州民たちの豊かな想像力なのだ。

    宇佐和通

    翻訳家、作家、都市伝説研究家。海外情報に通じ、並木伸一郎氏のバディとしてロズウェルをはじめ現地取材にも参加している。

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