全米で最も呪われた道路「リバーデール・ロード」の深淵なる恐怖/コロラド州ミステリー案内

文=宇佐和通

    超常現象の宝庫アメリカから、各州のミステリーを紹介。案内人は都市伝説研究家の宇佐和通! 目指せ全米制覇!

    明るいイメージのその裏で

     アメリカ西部の豊かな自然に恵まれたコロラド州。スキーや登山、ハイキングなど多彩なアウトドア・アクティビティが盛んで、アメリカ独立100周年の1876年に州に昇格したことから「センテニアル・ステート」(100年祭の州)というニックネームで呼ばれている。

    コロラド・デンバー 画像:「Adobe Stock」

     州都デンバーは標高1600メートルの高地に位置しているため、スタジアムやランドマーク的な高層ビルは「マイルハイ(高さ1.6キロ)」と形容されることが多い。気候的はとても快適で過ごしやすく、しかもリゾート地の明るいイメージがある州だが、実話系の怪談や都市伝説の宝庫でもあるようだ。

    狂気の館と地獄の門

     まず紹介するのは、ソーントンとブライトンの間を走る全長約18キロのリバーデール・ロードだ。この道路は「アメリカで最も呪われた道路」の一つといわれ、悲劇的な歴史に彩られた心霊現象や怪奇現象の噂が絶えない。中でも有名なのが、「狂気の館」と「地獄の門」だ。

     かつてリバーデール・ロード沿いにウォルパート邸という豪邸があった。州全土に知られるほどの名門一家だったが、ある日、主人が突如として狂気に囚われ、家族を惨殺した上に館に火を放ち、姿を消したと伝えられている。事件後、彼は二度と人前に姿を現すことはなかったが、この「狂気の館」のトレードマーク的存在だった鉄の門が「地獄の門」と呼ばれるようになった。

    イメージ画像:「Adobe Stock」

     しかしこの話は、後づけのような形でかなり“盛られた”都市伝説なのだという。ウォルパート邸は1800年代後半に建設され、1970年代に火災で焼失した。火災発生当時はすでに無人であり、惨殺事件があったという記録も残されていない。公式記録として存在するのは、1975年11月28日午前1時ごろリバーデール・ロード沿いに建つ2階建てのレンガ造りの家が全焼したという火事だ。地元新聞『デンバーポスト』紙もこの事件を報じたが、死傷者は出ていないことが確認されている。

     ただ、この伝説は事実と異なる部分が多いものの地元では今もさかんに語り継がれており、とりわけ「地獄の門」は異界と現世をつなぐ場所として、多くの心霊話や怪談の舞台となっている。

    白いドレスの女

     リバーデール・ロードにまつわる話は、固有の建物に関するものだけではない。“可動性が高い“怪異についても噂が絶えない。

     夜に車を走らせていると、白い服を着た女性が道路脇を歩いている姿がよく目撃される。心配して声をかけると、振り返った瞬間に消えてしまう。まったく同じ内容の体験をする人が後を絶たず、「白いドレスの女(レディ・イン・ホワイト)」を知らない人はいないという。

     この怪異では、振り返った瞬間に女性の姿が消えないケースもある。どこに行くのか訊ねると、「家に帰ろうとしている」と答えたという話もある。さらには、ドライバーが女性の住所を聞き出して「送っていく」と後部座席に乗せ、ドアを閉めて運転席に戻ると姿が消えていたというパターンもある。レディ・イン・ホワイトの目撃は、特に前述の「狂気の館」跡地付近で多く、暗闇の中で白い炎のように揺らめく姿を見たり、遭遇時に異常な静寂に包まれたりするという証言もある。

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     また、(こちらも後づけされたと思われるが)白いドレスを着た女の正体や生前の出来事についてさまざまな噂が囁かれるようになった。事故死した女性であるとか、家族を探してさまよう母親の霊であるとか、さまざまなバリエーションがある。前回紹介したジョージア州の「青いドレスを着た女」にも通じるものがある。

     レディ・イン・ホワイトの件は、地元警察にたびたび通報が寄せられているのも事実であり、まったくの作り話として片付けてしまうのはやや乱暴に思える。今ではリバーデール・ロードの心霊スポットとしての名声を高める一因となっており、肝試しや心霊体験を求める人々も数多く現地にやって来るようになった。

     筆者は、レディ・イン・ホワイトの伝説について、全米各州のロンサム・ハイウェイに伝わる「消えるヒッチハイカー」のバリエーションなのではないかと考えている。限りなく原話に近いバージョンとして筆者が確認しているのは、アーカンソー州中央部を走るハイウェイ365号線バージョンだ。今やスピンオフ的な話が、どの州にも必ず一つはあるほど。ただし、レディ・イン・ホワイトは(モチーフだけを考えれば普遍性が高いものの)リバーデール・ロードというコロラド州内では絶対的な響きを持つミステリー・スポットに紐づけられたため、拡散力も定着力も抜群だったはずだ。

    復讐のジョガー

     そしてリバーデール・ロードには、もう一体の“可動性が高い“幽霊が現れる。

    「ジョガーズ・ヒル」と呼ばれるポイントには、かつて交通事故で命を落としたジョガーの幽霊が現れ、車の窓をコツコツと叩くという話がある。数多い目撃談の共通点は、なんらかの理由で路肩に車を停めていると、どこからともなくジョギング中の男性が現れ、窓やドアをノックする。そこでドアを開けると、次の瞬間にジョガーは消えてしまう。

    イメージ画像:「Adobe Stock」

     また、夜にリバーデール・ロードを車で走っていると、誰かが走って追いかけてくる音が聞こえるというパターンもある。「車体に衝撃が走る」「何かにぶつかった感覚があるが、降りて確認するとなにもいない」といった現象を体験するドライバーも多い。

     一部では、このジョガーの幽霊は自分を轢いた車を探して復讐の機会を窺っているという話も語られている。レディ・イン・ホワイトの話と同じく警察に通報が寄せられることも多く、週末になると地元警察の新人が署とジョガーズ・ヒルを何往復もすることがあるようだ。

     最後に、本連載を続ける過程で気づいたことがある。アメリカの都市伝説の中でも、いわゆる実話怪談系の話は、カリフォルニアやイリノイそしてニューヨークなど世界的に有名な都市圏がある州よりも、そうではない州のほうがバラエティ豊かなようだ。そしてコロラド州は、まさにこうした特徴を有する州の代表格といえる。

    宇佐和通

    翻訳家、作家、都市伝説研究家。海外情報に通じ、並木伸一郎氏のバディとしてロズウェルをはじめ現地取材にも参加している。

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