チャッキーのモデルになった呪物「ロバート人形」と会える! フォート・イースト・マーテロ博物館/フロリダ州ミステリー案内

文=宇佐和通

    超常現象の宝庫アメリカから、各州のミステリーを紹介。案内人は都市伝説研究家の宇佐和通! 目指せ全米制覇!

    “太陽に愛される州”の意外な呪物

     アメリカでは、3月の第3週が「スプリング・ブレイク・ウィーク」になる。テンションを上げまくった大学生たちが一斉にフロリダ州を目指す熱狂の1週間だ。温暖な気候と開放的な雰囲気は、「サンシャイン・ステート」のニックネームそのものだ。美しいビーチが多いことで知られるフロリダ州だが、特に有名なのは半島の最南端に位置する島、キーウェストだろう。マリンスポーツやマングローブ・フォレスト探検、そしてアーネスト・ヘミングウェイの足跡をたどるツアーなど、年間を通してアクティビティも豊富だ。

    キーウェストの町並み 画像:「Adobe Stock」

     このキーウェストには、世界唯一といっていい施設もある。全米最恐といわれる「ロバート」という人形が展示されているフォート・イースト・マーテロ博物館だ。ロバート人形は、一見すると可愛らしい姿をしている。映画『死霊館』のモデルとなったアナベル人形にもいえることだが、現地の人々にとって見た目がかわいい人形ほど恐怖の対象になりやすいようだ。太陽の光であふれるビーチとは対極の存在であり、これほど長い歴史と興味深い都市伝説に彩られた呪物は世界的にも極めて珍しい。

    ユージーンと人形の奇妙な関係

     話は20世紀初頭まで遡る。この人形はそもそも、ロバート・ユージーン・オットー(以後、ユージーン)という少年にプレゼントとして贈られたものだ。ユージーンはキーウェストの名家出身で、セーラー服を着たこの人形はすぐに彼のお気に入りとなった。

    ロバート人形 画像は「Wikipedia」より引用

     一説によれば、この人形はオットー家の使用人であるバハマ人女性から贈られたものだったという。家族に酷使され続けていた彼女は、復讐として人形に呪いをかけ、ユージーンに渡したとされる。ただ、人形はドイツの高級玩具メーカー「シュタイフ社」製で、両親が買って与えたとする話もある。いずれにせよ、なんらかの理由で悪しきものに憑依されたのだ。

     そんなことは知らないユージーンは、貰った人形に自分と同じファーストネームを付け、異常なまでに親密な関係を築いた。頻繁に人形に話しかけ、本物の人間と同じように接した。そういう関係性が続く中、家族や訪問者は、誰もいないはずの部屋から低く不気味な声を聞くことが多くなった。ユージーンの声と重なって会話を交わしているように聞こえることもあった。

    右:幼い頃のユージーン 画像は「Monroe County Library collection」より引用

     やがてオットー家では奇妙な出来事が次々と発生するようになる。家具が勝手に動き、子どもの笑い声が家の中のあちこちで響きわたり、バラバラに壊れたおもちゃも見つかった。ユージーンが真夜中に悲鳴を上げながら目を覚まし、「ロバートが動いた!」と訴えることもしばしばだった。しかし、両親は彼の話を想像だとして取り合わなかった。

     ただ、実は本当に怖がっていたのは両親だった可能性もある。もしもユージーンの言葉を肯定してしまったら、家の中で起きている怪異すべてを認めなければならなくなることがわかっていたのではないだろうか。

    撮影時に厳守すべきこと

     ユージーンが成長しても、ロバートが手放されることはなかった。彼がシカゴの美術学校に通い、その後フランスで学んでいた間も、人形はオットー家で保管され続けていた。やがてユージーンは結婚してキーウェストに戻り、実家のオットー邸で暮らし始めた。ところが彼は、再びロバートを特別な存在として扱い、自宅の一室に専用の椅子を置き、そこに座らせるようにした。

    芸術家となってキーウェストに帰郷したユージーン

     ユージーンの妻アンはロバート人形を怖がり、見えないところにしまうよう何度も求めたらしい。しかしユージーンは断固拒否し、ロバートをまるで生きているかのように扱い続けた。オットー家を訪れた人々は、ロバートの表情が変わるのを見たと語り、近隣住民は家の窓越しにロバートが動くのを目撃したと主張した。

     ユージーンが亡くなった後、1974年になって屋敷が(放置されたロバート人形もろとも)売却され、新しい住人が暮らし始めた。すると彼らは、何日もしないうちにロバート絡みの怪奇現象を体験することになる。ロバートに襲われそうになり、大きなショックを受けた娘を見て、家族はついに人形をフォート・イースト・マーテロ博物館に寄贈した。ただ、伝説はその後さらに広がることになった。

    画像は「Fort East Martello Museum & Gardens」より引用

     現在、ロバート人形は同博物館のガラスケース内で展示されており、多くの訪問者を集めており、なんと怪異は今も続いているという。博物館のスタッフや訪問者は、カメラの故障や電子機器の異常、なんともいえない息苦しさや不安感の高まりなどの現象を訴えているのだ。

     ロバート人形を写真を撮る前には、必ず許可を求めなければならないことも有名だ。このルールを破ると、確実に不幸に見舞われるらしい。事故、病気、経済的損失など数々の不幸が報告されており、博物館には何百通もの謝罪の手紙が届き続けている。

    「呪いの人形」の象徴的存在として

     ロバート人形の謎には、さまざまな解釈が存在する。超常現象を信じる人々は、人形が霊に取り憑かれているか、または超自然的なエネルギーを帯びていると考える。その一方、心理学的な観点からは、暗示効果によって人々がロバートに対して恐怖を抱き、自然に起きた現象を超常現象として拡大解釈しているとの指摘もあるが、いずれにしても謎は解明されていない。

     ユージーンとロバート人形の関係性については、幼少期のトラウマや孤独がユージーンにロバートを「生きている存在」と信じさせたのではないかという説がある。もし、使用人が呪いをかけたロバート人形を送ったという話が本当なら、それが幼少期のユージーンの潜在意識に深く根付き、恐怖を具現化させた可能性も考えられるだろう。

    DVD『チャイルド・プレイ』(Happinet)

     ロバート人形は、数々のホラー映画や都市伝説の元になっている。映画『チャイルド・プレイ』のチャッキーのモデルになったという話は特に有名だ。また、数多くの心霊番組やYouTubeのオカルトチャンネルでも取り上げられ、ロバートの伝説は今日も拡散し続けている。ロバート人形を見るためだけにキーウェストを訪れるもいるほどだ。

     ロバートの呪いを信じるかどうかにかかわらず、その存在が人々に恐怖と好奇心を抱かせ続けていることは間違いない。呪物系都市伝説の単なるモチーフとして語られるだけでなく、「呪われた人形」の概念そのものを象徴するメタナラティブの中核として機能している。

     一つだけ確実に言えることがある。もしキーウェストを訪れてフォート・イースト・マーテロ博物館まで足を運び、ロバート人形と対面する機会があったら、写真を撮る前には必ず許可を求めたほうがよさそうだ。

    宇佐和通

    翻訳家、作家、都市伝説研究家。海外情報に通じ、並木伸一郎氏のバディとしてロズウェルをはじめ現地取材にも参加している。

    関連記事

    おすすめ記事